2章

第14話

星野の家で家事代行を始めてから二週間が経過した。


その間、特にこれと言って変わったことはなく順調に学校生活を送れている。


学校関係の話をするとあの後、すぐにクラスの係決めをすることになったのだが、星野が満場一致で学級委員に選出された。


担任も星野なら安心だといっていたが俺にはどうもその気持ちがわからない。


まあ、アイツは一年の頃もやってたらしいし、「面倒だけど、内申点のためにテキトーに頑張るわよ」と言っていたから多分大丈夫なのだろう。


因みに俺はどこにも就かずに済んだ。


高校の係って中学までとは違ってあんまりないもんな。


実際、放送委員、図書委員、保健委員、風紀委員、他にもあるけど重要な役どころはこのくらいだし。


内申点目当ての積極的な生徒が多くて助かった。



朝に登校して、滝路と駄弁りHRが近付いたらお利口さんに着席する。こうすれば、優等生だ。


まあ、うちの担任の細川先生は放任主義だしテキトーだからちょっとくらいふざけても何にも言わないんだけどさ。


ある日。


「おーい、席につけ。HRをはじめるぞ〜!」


陽気な声で教室に入ってきた細川先生はなにやら書類らしきものを抱えていた。


「せんせー!その紙なんのやつですか〜??」


クラスの陽キャ女子が代表して先生に尋ねる。


「ああ、これか?これは、保護者に配布する用の体育祭のパンフレットだよ」


そうか、もう体育祭の時期か。


うちの学校は体育祭を五月の上旬にやる。


今が四月の三週目だから、あと二、三週間で体育祭がやってくるのだ。


「やっほう!マジで楽しみ!」


「また、いっぱい面白いことできるん?」


「今年は生徒会がやる気だって言ってた!」


など、クラス中で盛り上がっていた。


「こらこら、みんな落ち着けよ〜?体育祭は、楽しい行事だがその前に怪我なんてしたら最悪の思い出になるからな?浮き足立つのはいいけど、ほどほどにするんだぞ?」


「はーい!わかりました!」


「ならよし!そうだ!星野、中村(男学級委員)、出場競技の用紙を後で持ってくるからどの競技に出場するのかみんなにアンケート取っとけよ」


「わかりました」


星野が代表して返事をする。


「じゃあ、俺からの連絡は以上だ。会話が弾みすぎて一限は遅れないようにしろよーガッハッハ!」


満足そうにして細川先生は教室を出て行った。


そっか……体育祭か。


俺も何に出るか考えとかないとな。


体育祭の話をするためにこちらにくるであろう滝路を見ながら俺はそんなことを思った。



放課後、今日は火曜日なので家庭部に顔を出す日だ。


相変わらず人気のない、クソ静かな部活棟の廊下を歩いている。


さっき、恵梨さんから連絡が届いて今日は、作戦会議をするらしい。


なんの??とは思ったが行けばわかる話なので「了解」とだけ送っておいた。


部室に到着すると、先に到着していた恵梨さんが何かを書いていた。


「おつかれ〜、なに書いてんの?」


「あ、山永くん。お疲れ様です!いま、体育祭で出す部活の出し物を考えていて」


「あ〜、そういえばあったな。そんなの」


この学校はそれぞれの部活が体育祭の時、出し物をする。


運動部なら部活対抗リレー、ダンス部はオリジナルダンス披露などがある。


でも、文化部はそういう物出さないといけなかったっけ?


俺の記憶では、文化部が何かを披露していた覚えはないのだけど。


「文化部はそういうの必要だったっけ??俺が知らないだけで去年とか出してたの?」


「いえ、去年は出せなかったんですけど今年は活動できる人がいるので、何かしたいと思いまして」


「まあ、それはいいと思うけど、たった1人増えただけだぞ?」


少ないことには変わりない。

一人増えたところでできる事なんて知れているだろう。


「むむむ……山永くんは、なにも分かってませんね!いいですか??1人から2人は大きな戦力アップなんです!お祭りの屋台は1人では忙しくてまわりませんが2人ならできますよね?」


「確かにそうだな」


「つまりそういうことなんです」


「……??もしかして屋台を出すのか??」


「姉さ……んんっ……と相談してないのでまだなんとも言えませんが候補として入れてあります」


「まあ、運動部みたいに身体張るぐらいならこっちの方が全然いいけど。なにを出すとか決めてあるのか?」


「そこがまだなんですよ。今日は、屋台でなにを売るかを山永くんと相談しようと思って」


そう言うと、恵梨さんが先程まで自身が書いていた紙を見せてきた。


「私的には、猛暑の中屋外でやるので、冷たいのがいいと思うんですよ」


まあ、それはそうだ。汗かいている中熱いものを販売していたら売れるわけないし、ブーイングを喰らう恐れすらある。


冷たいものは運動によって向上した体温を下げる働きもあるし、何より売れる。


冷たいもので問題ないだろう。


「これが候補なんですけど……」


そう言って恵梨さんが示す先に候補のものが書かれていた。


スポドリ。お茶。ジュース。


恵梨さんは飲み物を売る気らしい。

確かに売れるし、いいと思うけど。


「なんか他にも売りたいよな…」


「そうなんですよね。屋台としてはありふれている気がして」


他にも人気が出そうな冷たいものがあればいいけど。


しかし、そんなに都合よくあるのだろうか。


しばらく考えて、ひとつ案が思いついた。


「なあ、フルーツ冷やして売ったら意外と売れるんじゃね?」


「フルーツですか??」


「アイスとかかき氷とかあれば最高だろうけど、どこまで保存できるかわからないだろ?」


「確かにそうですね」


最近はどんどん暑くなっている。

完璧な保冷手段があれば問題ないのだが、ガチの出店ではなくあくまで出し物。

部活の出し物程度にそんなもの用意できるわけがない。

各部に衣装や道具を揃えさせるため臨時予算が組まれているというが、あまり期待できないだろう。

ならば、溶けたら一発アウトのアイスやかき氷ではなく多少温かくなっても美味しさは保たれるであろうフルーツを提案したのだ。


そば、うどんなどの麺類も候補に入れていたがペットボトル以外の汁物は、溢れやすいので難しいということだった。


ならば、比較的汁が出なく冷やして美味しいものを売ればいい。


しばらく考えていた恵梨さんも


「確かに、それは名案です!きっと、フルーツ好きな生徒も多いですし!姉さ……こほんっ……せ、と相談してみますね!」


「そうだな、と話してくれ」


「……う、うるさいですっ」


揶揄われて恥ずかしくなったのか視線を逸らす恵梨さん。夕日に染まり真横から眺めるその頬は朱く染まっていた。


その後、何度も姉さんと言いかけその都度恥ずかしそうに訂正する恵梨さんを見て癒されながら俺はうんうんと頷いていた。


ということで、家庭部の出し物の意見はまとまった。


後は、……生徒会の返答次第だ。




その夜、鮫島家にて。


「大事な話があるって……どうしたんだ?恵梨?」


「あのね、姉さん。体育祭のことで相談があるんだけど…」


和室で向かい合う二人の影が障子に映し出される。


上座にどかりと座った生徒会長こと、鮫島さめしま莉菜りなが恵梨を真っ直ぐ見つめた。


鮫島家で姉と妹による会議が始まろうとしていた。


―――――――――――

新章開幕!よろしくお願い致します。

次回は鮫島家のお話です。

投稿時間は調整中ですが大体この時間帯にしたいと思います。

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