第18話  side恵梨



「ただいま。」


今日は生徒会がお休みのはずの姉さんが私よりも遅く帰宅した。


「おかえり〜」


声が聞こえたので玄関まで行って出迎える。

普段はこのような手厚い行為はしないが今日は特別だった。

理由は、姉さんの帰宅が遅すぎるため。


私は姉さんを問い詰める気でいた。

姉さんは放課後に友人と寄り道するようなタイプではない。

いつも、真っ直ぐ帰って自分の部屋に行き教科書と睨み合っているような人間だった。


だから、なんの連絡も無くこの時間まで帰ってこないことは本来ならあり得ないことで、もしかしたら何かあったんじゃないかと少し心配したりもした。

しかし、そんな私の心配事は杞憂だったようで、姉さんは普段と何も変わらぬ様子だった。


「お?恵梨が出迎えてくれるなんて珍しいな。何かあったのか?」


「それを聞きたいのはこっちだよ。なんで姉さんはこんなに遅くなったの?今日は生徒会がお休みって言ってたよね……?」


「ああ、それなんだがな……す、少し用事があって……」


「用事……?」


なんか、いつもよりハキハキとしてない?


私は姉の態度に違和感を感じていた。

いつもなら、用事なんて曖昧な表現をせずに「だれと」「どこで」「何をしてきた」とはっきり言うはずなのに。

別に私も普段からどこに行って何をしたか逐一報告しろとかシスコンのようなことは言ったりしない。

だけど、今回は別。こんなに遅くなったのだから詳細までとはいかずとも大雑把でもいいから理由が知りたかった。

そうしたら、用事という人が何か都合の悪い時によく使うような、いわゆる逃げの常套句を並べられる始末。


もうっ…私には話せないことなの??


これは、ますます疑心暗鬼になる他なかった。


「えっと、それは、だな。その……アレだ。その…」


姉さんは誤魔化す時に首の後ろを触る癖がある。

実際に今がそうだ。

首の後ろをさわり、意味もなく指示語を並べ、どこかしどろもどろで視線を私から逸らし、明らかに私は隠し事をしていますよ??と自己紹介しているような風貌の姉さんに私はため息を抑えられない。


「それ以上ムリに隠さなくていいよ。なにを隠しているのかは知らないけど私にとって都合の悪い内容ということはわかったから」


「ちょちょちょ、ちょっと待ってくれ。恵梨にこれを言っては嫉妬されたり、要らぬ誤解を招く恐れがあったからヘタに自分から言わないようにしていただけなんだ!」


姉さんは私がちょっと怒った素振りをしただけで、嫌われたくないのか包み隠さず全部吐いてくれる。

御し易いと言えば、それまでだけど。

普段あれだけカッコいい人なのに、嫌われたくがないために私一人にいいように操られていられている姿がちょっとだけかわいく見えるのは内緒だ。


「で?なに?私そんなことで姉さんのこと嫌ったりしないから!教えて?」


姉さんの手を握り、視線を合わせる。


「ほんとうか……?きらわないか?」


「本当だって。信じて?」


「わかった。……実は今日、山永拓実の尾行してきたんだ」


えっ……


……ええええ!


な、なんでまた!?


それは、私の予想の遥か斜め上をいっていた。


「ど、どういうこと……?」


動揺していることを隠さなければ。

高くなりそうな声を必死に押さえながら冷静を装った。


「どうもこうもない。ただ山永拓実がどういう人か気になってな、下校するところをつけていたのだが、道中普通に見つかった」


「なにしてるの……」


生徒会長が男子生徒を尾行していた事実だけでもよろしくないのに、それを当人にバレてしまったのだ。

どうしよう……今度会ったとき……


山永くんは、姉さんのことを知ってるもんね。

絶対なにか言われる。


どうしよう…最低な姉さんだね!って言われたりしたら……


山永くんがそんなことを言う性格じゃないことは、わかっている……わかっているはずなのに……


ちょっと反応がこわい……


「ま、待ってくれ。まだ話の続きがあるんだ!確かに見つかったんだけど尾行した理由を話したら納得してくれて……」


納得??尾行されるのでさえ抵抗感があるのに、それを納得させられる理由??


なんだろう……気になる


「ち、ちなみになんて言ったの??」


「ああ、恵梨が家で部活のことばかり話してて――」


「え――」


「キミと話している時の恵梨の顔は私が見たことのない笑顔を見せてくれるからキミに嫉妬してる!と言った」


ななななな、何言ってくれてんのぉおおおおおお!!


ちょっと待って??

それを話したってこと??本人に??

私からの事実確認もなく、勝手な主観で?


あ、ありえない!!


どうして、私の許可なしになんでそんなこと言っちゃうの??

いや、許可なんてそもそもしないけど!


頭を抱える私に姉さんは追い打ちをかけるように、


「因みに恵梨から貰った写真も見せた」


と、さらに燃料を投下する。


「なんで!?」


「どこで俺の顔知ったのか??って聞かれたからな。これを見せるのが一番手っ取り早いと判断した」


そこに映るのは、山永くんの顔。

ああ……かっこ…ちがう。まちがえた。


で、でも、あの写真、そもそも「フルーツだけ撮らせてください」って言って山永くんが大きく写っちゃっただけで別に他意はないし。


「それに、さすがにあの量だから山永くんも顔が引き攣ってたな」


そう言って姉さんはスマホを取り出してスクロールさせた。


そこには、私が以前ルンルン………(フルーツ盛りが綺麗に出来たから)気分で姉さんに送った何故か山永くんが大きく写ってる大量の写真が……


「な、なんで、全部見せたの!?」


「ダメだったか??」


「ダメに決まってるよ!!?」


さいあく、さいあく、さいあく。詰んだ…おしまい。


私はそんな意図たぶん全くなかったけど、これはどう見ても彼を撮っていると言われても文句は言えない。

どうしよう……フルーツよりちょっとだけ大きく撮っただけなのに。


もう、会えない……顔見て話せる自信がないよぉ〜〜!


どうしよ……二人で出店?

当日やってける?姉さんはストーカー実行犯、私は盗撮


山永くんの私たちへの印象最悪なんじゃ……


「でも、彼は撮られたことに対して若干困惑はしていたが、嫌がってる様子はなかったぞ?むしろ、「俺いらないだろ…」と呟いていたし」


どこが!??まちがえた。そうだよね。

さすが、山永くん。私の意図をちゃんと理解してくれた。


主役がいてこその、フルーツなのに!

まちがえた、盛り付ける職人と撮ってこそ、主役のフルーツがより映えるのに!


それに忘れていた。

山永くんは変なところで妙に自己肯定感が低いことを。


「と、取り敢えずなんの問題もなかった??」


彼の心情は定かではないが表面上だけでも場の雰囲気を感じたかった。


「ああ、これと言った問題はなかったな。寧ろ、今度二人で談笑の機会を設けられそうだ」


は?なんで?

わざわざ、二人で話すようなことなんてなくない?


山永くんは、私のもの……ってわけでもないけど、私は副部長だし。

山永くんはうちの部員だし、もし何かあれば活動に支障をきたしてしまう。

それに部活の秩序を保つためにそんなこと許されるわけないよね??


「姉さん……」


「な、なんだ……?」


「二人で話しなんてしたら、わたし、姉さんのこと大っ嫌いになるかも」


「そ、そんなぁ………話が違うじゃないか…山永拓実ぃ……」


そう言って、姉さんはガタガタ震えていた。

もう勝手なことしないようにしっかりお灸を据えてやらねば。


それにしても……


わたし、だんだん彼のことになると冷静じゃなくなってきてる。

彼と初めて会ってから約一カ月。

ここまで、私の日常が。変化すると自分でも思っていなかった。


ただ、灰色でつまらない放課後に色を添えたのは……


未だに頭に浮かぶのは……


はぁ……もう…本当に掻き乱されてばっかり……


最初は、面倒とさえ思っていたのに、気付けば彼といる時間が。彼がいる日常が心地よいと思えるようになってきている。


もうこれは、これだけは、否定できない。


でも、まだこの気持ちは。


いつまでも残り続ける彼に対して……いや、彼に対して何かを想ってしまっている私に対して……深くため息をついた。 


――――――――――――――――――

所々本音が出かかっているのに絶対に認めない恵梨でした。

何気に恵梨視点って初めてですよね。

学校のときずっと敬語を使っているので家の時は書きにくいです。

(家まで敬語もどうかなって思ってタメ語にしたんですが…)



更新遅くて申し訳ありません。

労働つらいです……

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