第12話

「恵梨さん……?」


「え……?二人って、し、知り合いなの……ですか?」


一瞬、素の星野が顔を出していたがうまく軌道修正してなんとか誤魔化していた。その様子に感心する。


「ああ、昨日知り合った。だよな?恵梨さん」


「そうですね。昨日までは存在自体把握してませんでした」


どこか棘のあるいい方だ。

なんでだろう?

少し気になったが、それどころではないやつが隣にいた。

癒しの星野さんである。

あれだけ恐れていた知り合いとの会合。


厳密に言えば星野と恵梨さんは知り合いではない。


しかし、星野は学年ではとても有名で誰もが知ってる存在なのだ。当然だが、恵梨さんもあの星野さんだと認識していた。


「えっと……その……星野さんですよね」


やはり初対面のようで恵梨さんがうまく距離感を測って話しかけた。


「ええ……星野満華です……えっと」


「あっ、鮫島恵梨です」


そう言ってぺこりとお辞儀をした恵梨さん。つられて星野も頭を下げる。


なんだこのお見合いみたいな雰囲気は。


この空間にはなんとも言い難い雰囲気が漂っていた。


「あの……鮫島さんって……もしかして」


星野も鮫島という苗字を聞いて思い出したらしい。


「はい…姉が生徒会長をやっています」


「なるほど……以前、会長とお話しさせていただいた機会に妹さんのことを伺っていましたが……確かに会長と似ています」


「あはは…よく言われます」


会話はできているが気まずい空間は変わることはなく、どうしようと思っていた矢先、恵梨さんが切り込んだ。


「でも、ビックリしました……星野さんと山永くんが一緒にいるなんて」


俺たちにとって一番触れられたくない内容だった。


どうしようどうしよう……


あの星野にしては珍しく動揺している様子だった。


きっと彼女の頭の中はどうやってこの場をやり過ごすかでいっぱいだろう。


無論それは俺も同じ。

一緒に買い出しなんて恋仲の関係を疑われても仕方ない行為である。


星野と恋仲の関係だなんて、周りのヘイトを買ってしまいそうだから出来るならば遠慮したいのだ。


恵梨さんが周囲に言いふらすような人ではないことは、十分にわかっているつもりだが、念には念を入れたい。


それは、星野にしても全く同じだったようで、


「わ、私も驚きです。買い出しに来たら拓実くんとバッタリ会ってしまったんですから」


と偶然を装うことにしたようだった。


当然のことながら俺もそれに乗っかる。


「そうそう、あれっ?見たことあるな〜と思ってたら星野だったんだよ」


「星野………?」


そう言えば、まだ新学期が始まって数日だった。僅かな日にちで呼び捨てまでの関係は少し怪しまれる材料だったらしく、恵梨さんが目を細めた。


「そ、それはね!?初日に話してそういう呼び方で構わないって許可もらってるからでさ!」


「そ、そうですね。私もクラスメイトとはできるだけ仲良くしたいと考えてそのように言いました。ほら?私も拓実くんと呼んでいますし、当然ですが他のクラスメイトにも気安く呼んでもらうようにお願い致しました。そうですよね?拓実くん?」


「ああ、そうだな。俺も友人も呼び捨てて呼んでたな!」


阿吽の呼吸と言っても過言ではないだろう。


勢い任せで出てくる言葉を喋った結果、辿々しく話すよりもリアル味が増して妙に説得力があったのだ。


まあ、別に嘘を言っているわけではないので、嘘もへったくれもないのだが。


勢いに押される形で恵梨さんも「な、なるほど……」と納得していた。


取り敢えず、一番危険なところは回避したと言ってもいいだろう。


危機を回避し、ホッと一息を吐いている俺たちだったが、当人には当然わからない。


まるで道端で四つ葉のクローバー見つけた感じの幸福感を滲ませた表情で、


「よかったです。実は、このスーパー来たの初めてで」


と話し始めた。


どうやら、本人曰く知らないスーパーは、なんか不安らしい。


言わんとしていることはわかる。


行きつけのスーパーは、どこに何があってどうすればいいかわかるが、初めてのスーパーなどは、この種類のウインナー売ってるか?とか、この電子決済使えるか?とか色々考えてしまうことがある。


「でも、ここら辺に詳しい知り合いがいて助かりました!」


と、なんの曇りもない眩しい笑顔を向けられると、とてつもない罪悪感を抱いてしまう。


ごめんよ。俺もこのスーパー初めてなんだ……


しかし、こんな時に役に立つのが星野さんだ。


この店は彼女の家の近くにあり、ちょっと材料が足りないと思えば走って買いに行くこともできる程の距離にある。


当然、星野も買いに来ているわけで………来てるよな??


………知ってないことなんてあるわけ………知ってるよな??


星野に目配せすると、こちらも満面の笑みを浮かべてきた。


だが、この女の満面の笑みは、安心できない場合もあるのだ。


私、しーらないっ!or もちろん、知ってるに決まってるでしょ!?


出来れば後者であることを願うばかりだが、その結果は星野のみぞ知っているのだ。



「ここは鮮魚コーナーですね。」


神よありがとう。


俺は今回二択に勝ったのだ。


あれだけ俺に残念な姿を見せてイメージダウンが止まらないが腐っても星野。


数回来ているらしく場所は朧げながら覚えていたらしい。(数回というのは後で問い詰める必要があるが)


それに今は、恵梨さんがいるため学校モードの癒しの星野になっている。


そのため、俺が多少失礼なことを言っても微笑んでいるだけなのだ。

これは、ここ数日で溜まった星野へのヘイトを発散するのに格好のシチュエーションで言うなればボーナスステージだ。


「ここは、調味料があるところですね。私もちょうど塩を切らしていたのでここで買います」


「わぁ……やっぱり、家庭的なんですね。星野さんって」


恵梨さんは感動しているようだが、この女の言ってること――真っ赤な嘘である。


ただ己が見栄を張るためにうちにまだ二袋も備蓄がある塩を追加購入しようとしているのだ。


他から見れば、家庭的なJKが塩を買おうとしている図だが、俺からしてみればただ塩マニアのお姉さんが当分使い道のない塩を買い込んでいるだけの図である。


見る人によってこうも違うとは。


改めて与えられている情報の大切さを理解したのだ。


そんなこんなで買い物も終わり、三人でスーパーを出た。


予定では何も買うつもりはなかったが、俺だけ何も買っていないと不自然なため星野に勧められて肉を購入した。




生肉なので、時間を置くことはできない。


結果、星野の家で使わざるを得ないのだ。


何か買わないといけないことに気付き悩んでいたところ、星野が珍しく口を挟んできたと思ったらこれである。


きっとこうなると予想していたんだろう。


彼女に取っては、俺に肉を奢らせた形になる。


まさか、スーパーでのボーナスステージをこんな形で仕返しされるとは思ってもいなかった。


星野を睨むと勝ち誇った表情を向けてくる。


あのやろう……覚えとけよ。


「あの…山永くん。星野さん。今日はありがとうございました」


買い物袋を片手に持ちぺこりと頭を下げる恵梨さん。


「いえいえ、こちらも有意義な時間でした。ねぇ?拓実くん」


「ああ……そうだな」


「なにやら、元気ないですね?」


「きっと、高いお肉が買えて嬉しいんでしょう……」


「悲しそうにみえますけど……?」


「彼は、少し変わっていますからね。そういうこともあるでしょう」


「ああ……わかります」


ちょっと、待ってほしい。


恵梨さん、そこで同意されるとは思っていなかったんだが?


思わぬボディーブローを喰らった気分だった。


「では、私はこっちなので。今日はありがとうございました。」


「いえ、こちらこそ」


「あと、山永くん?明日はちゃんと忘れずに来てくださいね?」


「ああ、わかってるよ」


「……?何か約束事が?」


「はい、家庭部の集まりがあって」


「家庭部ですか……?そこになんで、拓実くんが?」


「昨日、家庭部に入ってくれたんですよ」


「へぇ……」


「事実だぞ?」


星野がこっちを見たのでそう言った。


ああ、そう言えば星野にはまだ言ってなかったな。


「な、なるほど……」


星野にとっては予想外だったのか、その表情から驚いている様子が見て取れた。


「では、放課後待ってますね」


恵梨さんはそう言うと、俺たちとは逆の方向へと歩いていく。


完全に姿が見えなくなったところでようやく星野が口を開いた。


「ちょっと、聞いてないんだけど??」


「言ってなかったもんな」


「どうして、教えてくれなかったのよ!?」


「だって、お前の家に行く日以外のことなんだし別にお前に報告する義務なんてないだろ?」


「それはそうだけど……」


「なんで、怒ってんだよ?」


「お、怒ってないし!?ふん!」


「いや、それ怒ってるから」


「とにかく、アンタがぜんぶ悪い!」


何故かわからないが不満そうにする星野。


その理由に心当たりがなさすぎて、頭を抱えるのだった。


(その後の拓実が奢った肉で満華は、すっかり機嫌を直した)


――――――――

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