第10話
「うわっ、ほんとに来たんだ」
「仕事なんだから当たり前だろ」
翌日の放課後、今日から仕事始めということで、少し気合いを入れて星野の家に向かい、インターホンを鳴らしたら、とてつもなくめんどくさそうな顔をされた。
これは、そう。
友人が突然自宅に押しかけてきて鬱陶しく思っている時の顔と同じものだ。
だが、こちらとしても仕事だから来ているわけで自主的に訪問してるわけではないのでそのように言われる筋合いはない。
「じゃあ、さっそく仕事を始めたいからそこどいてもらえるか?」
未だに玄関の前に立ち塞がる星野に向かってそう言った。
「ふっふっふっ、残念だけどアンタの仕事はないわよ?」
「はあ?どういうことだよ?」
そう俺が尋ねると自慢げに、
「私がアンタの仕事を全部やっちゃったから!」と言われた。
おいおい、やっぱコイツ性格悪いだろ。
なんで人の仕事取るんだよ……
星野の行動に呆れていたが、よくよく考えてたら星野の片付けた!である。
ちゃんと出来てるわけないか……星野だし。
「ちょっと!なんで動揺しないのよ!少しくらい驚いてくれてもいいでしょ!?」
「実際に見てみてちゃんと出来ていたら驚いてやるよ」
そう言って強引に星野の家に押し入った。
○
「お、意外にキレイだな」
「ふふーん。そうでしょう!私だってちゃんとやれば出来るんだから」
部屋に入ってみると、掃除機をかけたばかりなのか目立った汚れはなく、以前のように洗濯物が溜まっていたりしているわけでもない。
それに、前に訪問した時は床に飲み終えたペットボトルが並べられていたり、食べ終えたインスタント食品が片付けられていなかったりしたのだが、今回はそのような物が散見されることはなかった。
今回はちゃんとしているのかもしれない。
「やればちゃんと出来るんだな……」
「あ、あったりまえでしょ!私にとってこのくらい朝飯前なんだからっ!」
「よくやった。偉いぞ、星野」
「なんかペットみたいに褒めるのやめてくれる!?」
どこが不満なんだろうか。
ちゃんと褒めているはずなのに。
「ところで、その感じだとトイレとかお風呂掃除とかもやったんだよな?」
「っ………それは……」
途端に目が泳ぎ出した星野。
あのさ、一応家事代行だからそこまでやるんだよ。
妨害したいのなら別にいいけど、しっかりやってくれ。
「今日はまず、そこからするか……」
「えっ!?ちょっと待ってよ?お風呂とトイレも掃除するの?」
「問題あったか?うちのマニュアルにはそこまでやれって書いてあるんだよ。なんか、見られて嫌なやつあるなら先に片付けてくれ」
「いや、お風呂場にはシャンプーとかしかないけど……トイレは…」
なるほど、言わんとしていることはわかる。
「ならさ、トイレ掃除はお前がやってくんない?」
「なんでよっ!?アナタの仕事でしょ??」
おい、嫌じゃなかったのかよ?
「別に俺はどっちでもいいけど、お前が自立するという意味でも一つぐらい家事をやってみるのもいいんじゃないか?」
「家事だって今までできてましたあ~!」
「それは、洗濯とかの話だろ?トイレ掃除とかは、週末に来るママにやらせてるって愛菜さんに聞いたけどな?」
星野がごねた場合に対処できるよう愛菜さんにカードをいくつかもらっておいたのだ。
「そ、それは…………ママがやってくれるっていうから。私だってやろうと思えばできるし…」
もごもご言い訳を並べる星野。
この家、パパが甘ければ、ママも娘に甘いのだ。
ほんと、どうにかなんないのかな…
一人暮らしなのに家事をほとんどやらない悪循環が生まれているのは確かである。
「とにかく、トイレ掃除頼めるか??」
「わ、私がそれをするメリットはなんなの?」
「まず、家事が終われば俺がはやく帰れる」
「それはアンタのメリットでしょ?」
「お前だって俺が早くいなくなるんだから嬉しいだろ?」
「た、確かに……」
盲点だったと言うかのように驚愕した表情を浮かべる星野。
元々7時まで拘束されるのは俺も彼女も本意ではないのだ。
なら、仕事が全部終わったと大義名分を作って仕舞えばいい。
と言うことで、トイレ掃除は星野がやることになった。
○
星野の家のお風呂掃除をやって出てきた感想。
風呂くそでっけぇ……
流石お金持ち。
俺の家よりも遥かに広く設備も最新型であった。
やっぱり親バカパパがいるところは、レベルが違うんだ……
一つ学びを得てキッチンに向かうとトイレ掃除をし終えた星野が部屋着でソファに寄りかかりスマホを眺めていた。
普段学校ではあんなにリラックスした様子は見られない。
未だに慣れないものだ。
「なにジロジロ見てんのよ」
俺の視線に気がついたのか、スマホから目を離す星野。
その表情に学校の時のニコニコ微笑んでいる笑顔の面影はどこにもない。中学から知っている存在ではあった。
もちろん、癒しの星野は大衆には魅力的なのだろう。
だけど、俺にはこっちの方がよかった。
「いや、なんかこっちのお前っていいな」
「なっ、なんなの急に!??」
「胡散臭い笑みを浮かべるよりクソ生意気なこっちの方が人間味があって親しみやすいと思っただけだ。別に他意はない」
「し、失礼でしょ!それはそれで」
「別に褒めてるからいいだろ」
「よ、よくないわよ!だいだい、そんなこというな!キモいし!」
「はいはい、わるーございました」
「ふん…」
そう言うと再びスマホに目をやる星野。
「もう…ばか……」
誰にも聞こえないようにこっそり呟く。
何故かはわからないが星野の頬が少し赤く染まっている気がした。
○
「おいおまえ……」
「今度はなによ?また文句つけにきたわけ?もうアナタって一種のクレーマーじゃない。」
呆れ顔を浮かべる星野であったが呆れたいのはこっちである。
「最低限の買い物はしといてくれって言ったよな??」
愛菜さんからは、食生活が一番だらしないので手作り料理をしてやってくれと言われている。
別に家事代行サービスで料理は必須事項ではないのだが、依頼が有ればやっていた。
もちろん、食材があってこその調理であるため星野には最低限の買い物を依頼していた。
本人もやっとくと言っていたはずなのに冷蔵庫を開けたら空っぽ。
それだけならまだよかったのだが、以前来た時はそこそこ蓄えのあった冷凍庫さえも空っぽだったのだ。
「そ、それはぁ……」
バツが悪くなり目を逸らす星野。
「はぁ……じゃあ行ってくるよ。」
「なに?その手」
「買い物に行ってくるから金をくれ」
「なんで私がお金を出さないといけないの!?アンタの自費でやりなさいよ!」
「なんで、おまえが食う分の食糧を買うのにこっちが自費出費しなきゃいけないんだよ!!推し活してるんじゃないんだぞ!?」
「だって、アンタに買い物任したら絶対私の嫌いな物とか買ってくるじゃん!!そんなの嫌よ!」
頬を膨らませ抗議してくる星野。
勝手に苦手な食物を買われるのは相当嫌らしい。
「なら、お前もついてくるか?」
「え?」
「これならいいだろ?」
不本意だが、お前が監視役を担えばいい。
「私一人でも……」
「それは俺が許さない」
今のコイツに頼んだら面倒くさがってインスタントしか買わんだろうし。
「わ、わかったわよ……!一緒に行けばいいんでしょ!いけば!」
ということで二人で買い物に行くことになった。
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