第9話
「ふむふむ、事情はなんとなく理解しました」
あれから少し時間が経った。
恵梨さんが机から降りる時は反対を向いて紳士な対応を見せて、何故こんなところに来たのかを丁寧に説明した。
すると、ここまでの対応が功を奏したのか恵梨さんが俺の言っていることを信じてくれたのだ。
いや〜やっぱり、普段の何気ない気遣いって見てる人はこういう時ちゃんと評価してくれるんだよなぁ……
満面の笑みを浮かべられていると、「な、なに気持ち悪い笑みを浮かべているんですか…」と厳しい言葉が飛んできたので、
「恵梨さんが優しくてこんな顔になってる」と反撃しといた。
「べ、別にっ!や、優しくなんか、してません!自惚れないでください!」
おっと、デレ期か?
思わぬ反応が返ってきたが、なんか得した気分であった。
「それで、ここって何部なんだ?」
「それも知らずにここに来たんですか?先程の経緯の説得力が一気になくなりましたけど」
「いや、それはだって、こんな初日から活動している物好きがいるって思って何も考えずに来ただけで…」
「物好きってなんですか!?物好きって!?」
「間違ってないだろ。ささっ、周り見て下さいよ~、誰もいませんから」
「ううう……別にいいじゃないですか。新入部員が来てくれると思って……」
なるほど、それでここにいたのか。
「でも、よく考えたらすることがなくてせっかく初日に来たんだし、気になったので掃除してました」
「…文化部なのにすることないのか?」
オセロ囲碁将棋部とかなら、持参して活動できるしできないとしたらpc部とかか?
「し、仕方ないでしょう!?だって、家庭部は、家庭科教室が開かないと何も活動できませんから!!」
「ああ、なるほど……」
ここは家庭部なのか。確かに家庭部と言えば料理したりするイメージあるし、この学校で活動できるのは火が扱える家庭科教室しかない気がする。
今日は家庭科担当の教師が休みの日で開けてもらえないらしい。(家庭科担当は月曜と木曜しかいない)
でもさ、活動できないなら。
「………ただ掃除見せられて、この部活入ろうなんて人いんのかね?」
「え?」
「効率よく入部してもらうなら、家庭科教室を開けてもらえる日に大々的に宣伝した方がいいと思うけど……」
「っ……それは」
「考えつかなかったか??」
「………え、ええ、も、もちろん!か、考えてましたよ!」
「誤魔化すの下手すぎないか……?」
「う、うるさいです!」
恵梨さんは、そう言うとプイっとそっぽを向いてしまった。
「なんでそこまで部員にこだわるんだよ?」
この学校は、文化部に部員制限はなかったはず、何故そんなに必死になるのかわからなかった。
「だ、だって……他のみんなは殆ど幽霊部員でいつも私ひとりです。私だって……一人は寂しいですよ」
「そっか……寂しいのか」
「ほ、ほんのちょっとですからね?」
どうやら、さみしがり屋だと思われたくないらしい。
「なら、適任者がいるけど?」
「ど、どこですか!?」
「ここに」
「え〜〜」
「露骨に嫌そうにするのやめてもらえる?こう見えて料理とか家事全般得意だからね?」
「信じられません……」
そんな顔されるとなんか心外なんだが。
「だとしても、部活にはサボらず来るよ。火曜と木曜だけだけど」
「それもう、実質おサボり宣言じゃないですか……」
「それ以外の日は、バイトがあるんでね。」
「まあ、それなら…」
納得してくれんのかい。優しすぎかよ。
「もう、仕方ないですね。そこまで言うのなら山永くんの入部を認めます。本当はこんな簡単に許可したりしませんが、今回は特別ですからね?」
「はいはい、ありがとうございます。恵梨さんが嬉しそうにしてるとこっちも嬉しくなるな~」
「う、嬉しくなんて!してませんよっ!部員が欲しかったので、仕方なくですっ!そ、そうっ!これは妥協案です」
表情と言動に違いがありすぎて説得力など、皆無に等しかったが、まあ、本人が言うのだからそういうことにしておこう。
「ということでこれからよろしく、部長!」
「ぶ、部長じゃないです!副部長ですっ!」
え?そうなの?入部の許諾してるからてっきり部長だと思ってたけど…
聞くと部長は幽霊部員の方らしい。
もう、部長要らないじゃんそれ。
部長のような風貌の副部長がいる家庭部に入部することになった。
―――――――
読んでくださる方が増えてうれしく思います。
引き続きよろしくお願い致します。
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