第7話

あの後、使い終わった食器を片付けて、特に他の家事をすることなく帰宅した。


家に帰ると、母が物凄く上機嫌だった。


愛菜さんが契約を結ぶために正式にうちの会社に連絡したらしく、契約内容は「月、水、金、の放課後から夜の7時まであらゆる家事労働をする」ことだった。他にも、俺のことを褒めてくれていたらしく、それで上機嫌だったらしい。


普段、特に労いの言葉を言わない母が珍しく言うくらいだ。




「アンタにはしばらくこの依頼専門でやってもらうつもりだから、なにもない火曜と木曜は好きにしてくれていいわよ」



と休みも増えた。


なんか急にホワイトになってよからぬことの前触れではないかと身構えたが、どうやらそうではないらしい。


家の家事が増えるかと思ったが、それは今までと同じで俺と麻里奈の二人で分担することになった。


そう言えば、家事代行の仕事が妹の耳にも入っていたらしく、羨ましがられた。


「え〜、満華さんの家だったの??い〜な〜!私もお手伝いできないかな?」


妹と星野満華は中学校から同じだったらしく程よく交流があったらしい。俺も同じ中学だったがまったく交流なかったけど。


「流石にバイトは高校生活慣れてからにしなさい。最初は絶対疲れるから」


「ぶー、でもおにぃは中学からやってたじゃん。私もできるし」


「俺の場合は望んでやってたわけじゃないし、結構大変なんだぞ?麻里奈も部活入るかもしれないし、まず第一に高校生活を楽しみなさい」


「お兄ちゃんなのに、お父さんになってるじゃん。これだからシスコンは」



哀れな視線を向けられるが、俺はそんなことを今更気にしない。否、気にしてはいけないのだ。


「ほら、ちゃんと今日頑張って入学式準備してきたんだから明日は最高にかわいい姿を見せてくれな?」


「ばーか!キモすぎ!」




そう言って笑う麻里奈。


これをガチで言っているならばドン引きものだがお互いネタだと言うことはわかっている。


特殊ではあるがこれも日常的な兄妹の会話なのだ。






翌日。




家事代行サービスの契約を交わしたからといって、星野満華の態度が変わることはなかった。


いつも通りのお淑やか星野。


本当に昨日見たものは空想のものでやっぱり夢だったのではないかと錯覚しそうになる。


しかし、入学式の前に呼び出され、「昨日のこと、話したらぶっ殺すから」と大きな釘を刺されて目が覚めた。


やっぱり癒し星野なんてものは空想の中での産物でしかなく、昨日のことは現実だったようだ。


「な、なによ。その目は?」


「みんな夢から覚めればいいのに…」


「そんなこと、私が許さないから♪」


「デスヨネー」


これまで、誰にも気づかれずに、やってきたんだ。

きっと、これからもそうに違いないと、絶対の自信をもっていう彼女をみてそう思った。




入学式が始まり厳しい受験戦争を勝利した二百名の新入生が入場してくる。偏差値は六十の自称進学校ではあるがここら辺にしては結構いい位の高校であるため優秀な生徒は多く希望してくる。




その中に一際目立つ生徒がいた。


ウチの妹だ。




流石だ。やっぱり他の奴らとは格が違うよな。

うん、可愛さからして別次元だ(シスコン)。




表情に出さないようにしていてもやはり表情筋が無意識に緩んでしまう。隣にいた滝路に指摘してもらったおかげでなんとか恥をかかずに済んだが、そのままだったら気色悪い笑顔を新入生に振りまいて入学早々トラウマを植え付けるところだった。




それに、注目されるのは本意ではない。気を付けなければ。


そんなこんなで、時間は過ぎていき何の問題もなく入学式は終わった。ホームルームも何の問題もなく、夕方近くに放課になったため、家に帰ろうと思ったのだが、一つあることを思い出す。




「そうだ。今日から、火曜日と木曜日は暇になったんだ……」




いつもは、帰ってから用事バイトがあったため何も考えずに帰宅一択だったが、今日は違う。


家を帰ってもすることがない。厳密に言えば、勉強とか家事はあるがそれは、少し遅く帰ったところで支障をきたすレベルではないのだ。




さて、どうしようか。


高校に入学してから、ほぼずっとバイトだったため放課後に遊びに行くという経験があまりない。


滝路にも今日が暇になったことは伝えていなかったため一人で先に帰ってしまったようだ。


これは、ゲーセンとか行くべきか?


いや、でもあんまりそういうの興味ないしな。


友人と一緒にならついて行ってもいいぐらいで自分から率先していくほどゲーセンが好きなわけではない。




そう言えば、麻里奈は今日部活動見学に行くと言っていたな。


今日から二週間ほど、一年生が入る部活を決めるため、各部活動の見学または実体験できる、部活動見学というものがあるのだ。


俺は無所属だから関係ないが、クラスの奴らは何だか忙しそうだったな。なるほど、これが原因だったのか。


そんな時、昨日ふと妹から言われたことが頭をよぎった。


「お兄ちゃんも、暇になったんだし部活でもやってみれば?」


妹からしてみたら冗談のつもりで言ってみたのだろう。


だが、俺にしてみれば…


「確かに……見てみて気に入ったものがあれば…」


入るのもひとつの手かもしれない。


帰宅するために玄関に向かおうとしていたところを踵を返し、部活棟へと歩いて行った。


――――――――

次回は新キャラ登場します!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る