第6話

「じゃじゃーん。どう?これが私の渾身の料理!!」


そう言って星野はテーブルに自作の料理を並べた。


「わー!すごい……………?のかな…?」


「確かに料理だが……」


「な、なによ!?文句があるなら言ってみなさいよ!見栄えは完璧じゃない!」


「いやぁ…満華ちゃん?あのね?この料理たちって…」


「見ればわかるでしょ?パスタ(ソースは市販)千切りキャベツとほうれん草のお浸し、彩りミニトマト、インスタント味噌汁よ!どう?十分豪華でしょ?」


星野は得意げに胸を張って紹介している。


ま、まあ、確かに品数は豊富だけどさ…


「満華ちゃんって…菜食主義者だったっけ……?」


愛菜さんが俺の思っていたことを全て正しく言ってくれた。


このテーブルには、肉類。タンパク質のものになる所謂主菜というものがなかったのだ。


「ち、違うわよ。た、たまたま冷蔵庫に肉とか魚がなかっただけだし…」


うん、確かにそれは事実だ。冷蔵庫には調味料と飲み物、少しの野菜しか入っていなかったのだ。


「でも、冷凍庫には肉とかもあったんじゃない?」


「し、知らない。そ、そんなのめんどくさくて作りたくない!」


匙を投げたようにプイッとそっぽを向く星野。 


これは完全に冷凍庫の存在を忘れていたパターンだな。


さすが、星野パパと言えばいいのかわからないが、定期的に家を訪れては大量の現金と食材を置いて行っているらしい。


そこまで心配ならなんで一人暮らしを許可したのか疑問しか残らないがそれはパパのみぞ知ることなので、事実を知る術はない。いや、寧ろ知らなくていい。


「そう言うアンタはどうなのよ?私よりも時間が掛かっていたようだけど?」


「始まる時間は俺の方が少し遅かったんだから仕方ないだろ?味は期待してくれていい」


そう言うと、俺は台所から一つの皿を持ってきた。


「なにそれ?」


「お前ってさ。小学校の頃、給食とか好きだったか?」


「給食?別に嫌いではなかったけど……」


「私は大好きだったかなぁ……今でも偶に食べたくなるし」


「ですよね。俺もそう思うことが多々あったんですよ」


「でも、味を再現するのは難しいよね。私も一回やってみたけどさ、ぜんぜん無理だった」


それは愛菜さんだから尚更では?と一瞬頭をよぎったがその考えはすぐ捨てた。 

うん、そんな不敬なことなんてなんにも考えてない。


給食は、安く美味しくバランスよくをモットーにしていると以前聞いたことがある。


しかし、どう言うわけか味の再現はとても難しいのだ。


ここ数年、家事代行のバイトを始めたこともあり、昔の朧げな記憶を辿って食材と調味料でなんとかして再現しようと試みた。そして、苦労の末たどり着いた。


「これは、俺が小学生時代の給食で一番好きだったやつです。」

そう言って皿をテーブルに置いた。


「あれ?これってまさか?ツナ丼?」


「そうです。ツナ丼です。給食の丼ものってどれも絶品なんですけど、俺はこれが一番好きなんですよ」


「私も好きだったなぁ。おいしいよね」


「……ツナ丼」


「どうだ?懐かしいだろ?」


「--っ、そうねっ、確かに懐かしいわ。でも、豪華さはないわね!」


「確かに豪華さはないな。だけど、こうやって胡麻を振りかけると凄くオシャレに見えるだろ?」


胡麻を振りかけると、ツナ丼の具の砂糖醤油と胡麻の風味がちょうど良く合わさり食欲掻き立てる匂いが部屋に広がった。


「とってもいいにおい…なんだかお腹減ってきちゃった。」


「ご飯も炊いたんで、早めの晩ご飯にしませんか?」


「ちょっと!人の家でなに勝手にやってるのよ!」


「私が許可した」「愛菜さんに許可された」


「もぉ…お姉ちゃんっ!!」


「だってご飯が食べたくなっちゃったんだもん!」


「それはいいけど、私にひとこと言ってよ、こいつが勝手にやったと思ったじゃない」


いくら家事代行だとしても勝手に米を炊いたりするほどそこまで非常識ではない。

一番偉い人の許可が下りたから実行に移したまで。


「勝負の決着を着けるには実食あるのみ。ささっ、はやくはやく!!」


片手にお茶碗を持ち、声を弾ませる愛菜さん。


いつの間に用意したんだ……


「ううっ、わかったわよ」


愛菜さんに促されるままに椅子に着き、三人でテーブルを囲んだ。  


「ふふっ…なんか新鮮ね」


「そうね。基本的にいつも一人だからこう言うのは久々ね」


「寂しかったらいつでも帰ってきていいからね??」


「丁重にお断り、別にさみしくないし!」


「もう……冷たいんだから…昔は私にべったりだったのに…」


「お姉ちゃんっ!?」


「きいてよ、たーくん。満華ちゃんったら昔はホント寂しがり屋でさぁ~。夜ひとりで――」


「よっ、余計な事言わないでっ!!ほらっ!いただきます!!」


「あーん、もうちょっとだったのにぃ」


「そのこと言ったら絶対許さないから!わかった??」


「はーい、お姉ちゃんと二人の秘密だもんね~。言わないよ。いーわない」


そう言いつつ、すごくにこにこしていた愛菜さんを見て、これ絶対嘘だな…と思ったがそっちの方が面白そうだからそのままにしておいた。


せっかく作った料理が冷めるともったいないので手を合わせる。


「「「いただきます」」」


三人で手を合わせる時も先程のことがよほど話されたくない恥ずかしい内容だったのか、しばらくの間は当人の耳は真っ赤になっていて、愛菜さんはそれを見て満足そうに微笑んでいた。


「うまっ!美味しいよ、たーくん」


「それは、よかったです」


一口食べて目を輝かせる愛菜さん。

愛菜さんには好評だったようだ。


「満華ちゃん?どう?」


「くっ…………おい……しい」


「えっ??聞こえな〜い」


「だから、………おいしいってば!!」


「そっかそっか、よかったね?たーくん」


満華の反応を楽しんでいる愛菜さん。


昔からこの関係のようで見ていて微笑ましかった。


「んっ…満華の作った千切りキャベツも美味しいよ!」


「はいはい……どうせ肉料理なんて作れないし……手抜き料理ですよー」


「もー。拗ねないの!たーくん、美味しいよね?」


「はい、美味しいです」


「アンタまでお世辞言わなくてもいいわよ。こっちが惨めになるでしょ?」


「どこが惨めなんだよ?ちゃんと、千切りになってるし包丁の技術はちゃんとあるし惨めなんかじゃないよ」


「な、なによ、急に」


「俺は、好きだぞ。お前の料理」


「な、なに言ってくれてんの?ば、ばっかじゃないのっ??」


「いいと思ったところは褒めるべきだろ」


「もう、いいから……そういうの」


「あー、満華ちゃん。照れてる、かわい〜」


「照れてないッ!」


またこの姉妹の戯れ合いが始まった。


なんか、幸せそうだからオッケーです。


「で?満華ちゃん?家事代行あってもいいでしょ??」


「まぁ、悪くはないかな……?」


「もう、素直じゃないなぁ……私にはたーくんが必要だからお願いしますって言えばいいのに」


「そんなの言うわけないでしょ!てか、ちょっとあってもいいかなって思っただけだし!ダメだったらすぐ追い出すし!」


「妹は、不器用だけどいい子なんです。どうか嫌ってやらないでください」


「あ、はい…」


「勝手なこと言うなぁー!!」


愛菜さんの肩を揺する満華。それは、学校の満華とは真反対で、その姿を見て無意識のうちに笑顔になっている自分がいた。


案外、この時間が楽しいのかもな……


こうして、俺は新契約を取り付けることに成功した。


――――――――――

明日から午後5時21分投稿です。

よろしくお願いします。

☆☆☆ありがとうございます。うれしいです。

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