第5話


「仮にも私は、これまで一人暮らしをしてきたのよ!これまで大きな問題も起きてないし今更、家事代行なんて不要よ!」


確かに、ちゃんと出来ていれば、星野の言い分も納得できていたかもしれない。ちゃんと出来ていれば……


「満華ちゃん……それまったく説得力ないから。」


こめかみを押さえてある場所を指差す愛菜さん。


その場所に目をやると、、


「あっ……み、見るなっ!!」


慌てて駆け出す星野さん。


うん、言わなくてもわかってるって。


俺は何も見てないからな。洗濯して干した物をそのまま放置していたところなんて。


「ラッキーすけべだね。たーくん」


ニヤニヤしてこっちを見る愛菜さん。


「いや別に、家で妹のとか母のやつとか普通にまとめて洗濯してるんで下着を見たからって特には」


洗濯の山なのだから、当然星野さんが普段つけている下着も山の中に重ねられていた。

だがな、こっちだって長年家事代行をしてきたのだ。


女性の下着を見た程度じゃ、なんとも思わない。


「なーんだ。つまんない」


俺が頬を染めて動揺することを望んでいたのだろうか。


愛菜さんは少し不満そうだった。


「下着を見られて無反応だとそれはそれでちょっと面白くないわね……」


「なんか言ったか?」


「なっ、なんでもないわよッ!バカ!」


星野がなんかボソボソ言っていたと思ったがこちらの気のせいだったようだ。


「ほらね?こんな惨事なら家事代行は必要でしょ??」


「今日は、たまたまこうだっただけよ!いつもはちゃんとしてるし!第一、お姉ちゃんだってアポなしで来られたらこんな日もあるでしょ!?」


「ぎくっーー」


姉妹揃ってそうなのかよ。


愛菜さんも人のこと言えないじゃん。


「そ、それはそうだけど、満華ちゃんは料理だってヘッタクソじゃない!毎日出前頼んでることなんて知ってるんだから!」


「へへへ、ヘッタクソじゃないし!つ、作るのが面倒だから出前にしてるだけだし!?ちゃんと作れるし??」


「ほーん。なら、たーくんと勝負しても勝てる自信がおありで?」


「あっ、あったりまえでしょ!?ワンパンよ、ワンパン!」


大丈夫だよな?決闘って書いて料理とか呼ばないよな?


料理対決のはずなのに、ボクシングのモーションをとっている星野を見て不安にならずにはいられなかった。


なんか、この姉妹というかこの家族血の気多い人しかいない気がするんだけど?俺の気のせいだよな?


「ふうん、そこまで言うならやってやるしかないようね」


「やれるもんなら、かかってきなさい。ぶっ潰してやるから」


売り言葉に買い言葉。まるで決闘前の煽り合いを間近で見ているような感覚だった。


「たーくん、さっそく出番よ!」


「えっ、俺っすか?」


「そうよ!」


雰囲気的にバチバチの姉妹対決だと思ってたのに、なんで俺?


「………もしかして、愛菜さんは不参加ですか?」


「当たり前でしょ、自慢じゃないけど料理なんて全く出来ないわ!昔から一貫して出された物を美味しそうに食べる係よ」


「あーうん、解釈一致です。」


その見た目で料理できないは、想像通りっていうか寧ろ出来ないで欲しくまである。


「ちょっと、たーくん?何か失礼なこと考えてない?」


愛菜さんが疑いの視線を向けてきた。


あっれぇ…表情筋動かしたつもりないのになんでバレたんだ。


異常なくらいに感が鋭いとかなのか?


「べ、別になにも考えてませんよ。どうやって星野をぶっ潰してやろうかってことしか頭にありませんでした!」


「え〜?ホントかな〜」


弁明してもなお疑ってくる愛菜さん。


これもう確信してんだろ。


いい流れではないのではやく話を変えたいなと思っていたところに、救世主が現れる。


そう、煽り耐性0の称号を持つ星野満華だ。


「言ってくれたわね。絶対泣き面かかせてやるんだから!」


そう言って腕捲りをしながらキッチンに向かっていく星野。


どうやら、彼女の中では対戦が開始されたらしい。


「ほら〜?たーくんもはやく行かないと満華に負けちゃうかもよ?因みに時間制限アリだから」


「は??なんですか!?そのルール初耳なんですけど!?」


「当たり前でしょ?今考えたんだから」


「横暴だ。身内贔屓だ」


「お金を払っているんだから当然の要望よ。アナタは家事代行なんだからゆったりと作ったりするのは禁止。美味しく、且つ手際よく、見栄え良く、新鮮味ある料理を作りなさい」


「自分でとんでもないこと言ってる自覚ありますか?」


俺は、バイトでプロじゃないし他の従業員の人たちと比べると精度も技術も数段低いんだが??


「なに?もしかしてできないの?少なくとも松田さんは出来るけど??」


やっぱりな!絶対あの人只者じゃないと思ったもん。


どうせ、昔偉いところで執事とか勤めて定年退職みたいなのしてタクシー運転手やってたりするんだろ?


きっとそうだ。そうに違いない。


「わかりましたよ。そこまで言うならば俺の本気を見せてやりますよ」


こっちだって、バイトという扱いとは言え、プライドを持って日々仕事に取り組んでいるんだ。


そこら辺の家事もろくにできない奴に負けるだと?


そんなのは、俺のプライドが許さない。

この勝負絶対勝つ。

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