第3話


妹だって?


いま、この人妹って言ったか??


どうやら俺はとんだ勘違いをしていたらしい。


愛菜さんが言っていいた同い年くらいの姉妹きょうだい


てっきり俺は男の子だと思っていた。


だって…仕方ないだろ。

男の俺にやってきたんだから当然その子も同性だと思うじゃん。


てか、愛菜さんは男の俺に自分の妹と同等の扱いをしたってことだよな??

愛菜さんから見て俺ってどう思われてんだろう…


何食わぬ顔で隣を歩く愛菜さんを見て若干不安になりながらも俺たちは目的地まで向かう。


「もしかしてここから電車ですか?」


始めに指定された場所はここから三駅離れたマンションだった。

これから向かうとなると結構時間かかるんじゃないか?

どうせなら、現地集合が良かったな…なんて思っていると、目のまえに黒塗りのいかにも高そうな車が停車した。


え……なんすかこれ…?


状況をも見込めず呆然と立ち尽くしていると、中からいかにも執事っぽい白髪のおじいさんが顔を出した。


「愛菜様、お迎えに上がりました」


「うん、ありがとう。松田さん」


まったく状況の呑み込めない俺を置いておいて、話はどんどん先に進んいく。


「あの……愛菜さんこの人は?」


見た感じ明らかに執事っぽいんだけど…まさか、愛菜さんって結構いいところのお嬢さまなのか??


いろいろ推測している俺を見て何か感づいた愛菜さんは、クスリと笑って、


「この人は、タクシー運転手の松田さん」


「え?タクシー運転手??執事じゃなくて??」


「お嬢様じゃないんだから執事なんていません。松田さんはウチと送迎の専属契約を結んでるだけ」


「でも、黒塗り高級車…」


「あー、これはウチのパパがこれ使いなさいって言ったから…これだったらすべての設備ついてるし、危険じゃないからって…」


なにそれパパ凄い。


「いろいろと過剰すぎません?」


「うん、私もそう思うけどパパが許してくれなくて…」


「な、なるほど…」


間違いない。愛菜さんのパパ、完全に親バカだ。


「そちらが山永さまでいらっしゃいますか??」


「え?あ、うん、そう。この子が家事代行サービスの山永くん。またの名はたーくん」


「たーくん??」


「あのすみません。家事代行サービスの山永です」


「これはこれは、たーくん様」


「あの、愛菜さんのあだ名は一生無視していただいて結構です。山永で大丈夫です」


「かしこまりました、山永さま」


「様も抜いてくださいむず痒いです」


様なんて呼ばれたことがないから耐性は皆無である。

どっちかと言えば、したっぱに近いし。


「であれば、山永さんでよろしいでしょうか?」


「はい、それでよろしくお願いします」


笑顔でそういってくる松田さんに俺も笑顔でそう返した。



「あれ~?たーくん、もしかして緊張してる?」


あれから俺たちは松田さんが乗ってきた愛菜さんパパの車で目的のマンションへと向かっている。

いつもよりも高級感あふれるこの雰囲気にドキドキしながら乗っていると隣の座席に座っていた愛菜さんがニヤニヤしながら顔を近づけてきた。


「当たり前じゃないですか、こんな高級車乗ったことないんですから、あと、普通に顔、近いです」


「え~?なになに?もしかしてたーくん照れてんの~?」


「照れてないです。」


「ホントかなぁ~?えいっ!」


「ちょっと何してるんですか!」


「なにって、ちょっとたーくんにくっついただけだけど??」


「やめてくださいよ」


「なんで嫌がるの~?ご褒美でしょ??」


「確かにそうですけど、やめてください」


「アハハ、否定はしないんだ。かわい」


「愛菜さまその辺で、山永さんも困っておられますよ?」


ここで松田さんが救いの手を差し伸べてくれた。


「え~?でも、困ってるようには見えないし別にいいとおもうけどなぁ」


「私から見たら大変困っているように見えてならないのですよ。それにお父様もしっt…いや、心配なさいますぞ」


あれ?いま、嫉妬って言いかけなかったか?

気の所為じゃないよね?


「…それにこのことはお父様はご存じなのですか?」


「このことって?」


「山永さんを家事代行として雇ったことですよ?」


「いや、内緒だけど??」


「え?」


思わず俺が声を出してしまった。

ウソでしょ?話してないの??


「はぁ…どうなっても知りませんよ」


そう言ってため息を吐く松田さんだが。


ちょっと待て、その「どうなって」ってやつ、俺が(物理的に)どうなっても知らないってことですよね??


確かめるように松田さんに視線を送るがまったく目を合わせてくれない。

ダメかもしれんこれ。


なんだか急にお腹痛くなってきた。



「着きましたよ」


あれから車を走らせること30分。どうやら目的地に着いたらしい。

車から出て目の前に飛び出してきたのはお高そうなマンションだった。


これでお嬢様じゃないとか絶対ウソだろ。


内心で思いっきり文句がこぼれてしまったが、無理もないと思う。

だって、敷地内にテニスコートがあるマンションなんて見たことも聞いたこともないんだもん。


「じゃあ、さっそく行こうか」


俺が驚愕していることなんて知る由もない愛菜さんは、さも当たり前かのように歩き出した。


俺もついていこうとしたが松田さんにお礼を言い忘れていたことを思い出す。

あわてて、松田さんにお礼をしに行ったら松田さんは笑って「大丈夫です」と言ってくれた。


よし、これでいけるなと思って歩き出そうとしたら、背後からこんな声が聞こえてきた。


「山永さん、ご武運お祈りいたします」




ごめん、やっぱ吐きたくなってきた。

こっそり帰ろっかな?



このとき俺は初めて身の危険を感じた。




「俺って無事に生きて帰れますかね…?」


「どうしたの?急に?何か困ったことがあるの?相談にのろうか?」


目的の部屋に向かっている道中、深いため息を吐くと愛菜さんが心配そうに顔を覗かせる。


「いや、あの……成人男性に武力で訴えられたときの対処方を悩んでて…」


どうやら回避は難しいらしいから対処法を考える―これが賢いやり方だ。(そうじゃない)


「なーんだ。そんなことか!」


「そんなことなんですか?」


「うん、簡単だよ。キン〇マ思いっきり蹴っちゃえばいいんだよ」


「ひえっ!」


なんか無意識に押さえてしまった。どことは言わないけど。


「どう?かんたんでしょ?」


「はい、考えるだけでも恐ろしいです…」


「でもなんで成人男性?たーくんそんな恨みを買うような人じゃないとおもうんだけど」


「まあ、そうっすね(ほぼアナタのせいですが)」


「まあ、たーくんがピンチになったら私が(物理的に)助けてあげるから」


「ホントですか?(物理的に)助けてくれるんですか?」


「うん、まかせてよ!」


そう言って愛菜さんはウインクした。何故かとっても心強いな。

有事に際は、ぜひ、愛菜さんに任せよう。きっといろいろな意味で再起不能にさせられるだろうから。


「もう少しで…あ、この部屋だ」


お悩み相談をしているうちに目的地に到着したようだ。


「ここが今日の仕事場ですか」


「うん、そうだよ。きっちりよろしくね」


「はい、任せてください」


そう言って、インターホンを押す。さて、愛菜さんの妹って聞くけど、どんな人なんだろう。ワクワクするな。

期待に胸を膨らませているとドアが開かれた。


「…………」


「…………」


相手を見て、沈黙する。

それは、相手も同じだったようだ。


星野満華—クラス1の美少女がポカンとした様子で立ち尽くしていた。


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