第2話

「ここだよな……?」



最寄りから三つも先の駅とは何だったのだのか。


急遽、待ち合わせ場所が変更となり、指定された場所は最寄りの駅近カフェ。


スマホで現在地と指定された場所を照らし合わせる。


なんて、陽キャ感あふれた場所なんだ…


指定されたカフェにつくと思わず言葉が零れ落ちそうになった。


高層ビルが立ち並ぶ中でその建物は一際存在感を放っている。ガラス張りで透ける店内にはおしゃれの最先端を行っているようなインテリアの数々。


指定されなきゃ一生ご縁がないようなきらびやかな雰囲気に思わず足が止まってしまいそうになるが客を待たせるわけにはいかないので意を決して一歩を踏み出した


「いらっしゃいませ〜」


かわいい萌え声の店員さんの元気良い挨拶が店内に響き渡る。適当に軽く会釈をして店内を見渡した。すると指定されていた席に座る女性を発見する。


そこには、大人っぽい雰囲気を醸し出す一人の女性がラテを片手にスマホを触っていた。


ブラウンのハンサムショートに、それを映えさせるかのような黒を基調としたカジュアル系の服装。友人と休日の待ち合わせをしているかのような自然体な雰囲気。八頭身はあろうかというその美しいスタイルに思わず息を呑んでしまった。


同一人物が一定時間そこに留まっていれば、不思議に思うのは当たり前。気配に気づいたその女性は先程まで触っていたスマホからちらりとこちらに視線を移した。


「あれっ?もしかして、山永さん?」



ハッと気付いた様子で話しかけてくる。俺の苗字を知っているということは彼女が依頼者で確定だろう。


このオトナカッコいい女性が星野愛菜さんだ。


「はい、家事代行サービスやまながの山永です」


「ふふっ、男の子??」


「はい、不味かったでしょうか??」


「いやいや、何も問題ないよ」


その言葉を聞いてほっと胸を撫でおろす。


「でも会社とおんなじ苗字で驚いたけどまさかの社長さん??」


「いやっ!ち、違いますよ!ただのお手伝いです」


社長は母さんだ。俺じゃない。


そもそも経営の知識もノウハウもない俺が社長になったら軌道に乗っているこの会社を一ヶ月で赤字まで持っていける自信がある。


「そっか、お手伝いかぁ…。偉いねぇ。よしよし」


「ちょ、ちょっと!?なにやってんですか!?」


いきなり頭を撫でられそうになって咄嗟に避ける。


あれ?もしかして、避けなかったほうがよかったか??


「あ〜ごめんね。なんか、キミと同い年くらいの子が下にいてつい癖で撫でちゃった」


「そ、そうなんですね」


まさか、こんな綺麗な姉を持っているヤツがいるとは。


それに、ヨシヨシとかしてもらってるだと??許せんな。


「そう言えば自己紹介まだだったね。どうも、この度、依頼させてもらった星野愛菜です」


愛菜さんは、そう言ってペコリと頭を下げる。


「えっと、山永拓実です。よろしくお願いします」


「そっかぁ、拓実くんかぁ…なら、たーくんにしよ」


「たーくんですか??」


「うん、なんかただ名前で呼ぶよりこっちの方が仲良しさんになれる気がしたから。ダメ…かな?」


「いえいえ、全然ダメじゃないです」


「うふふ…そっか、じゃあ私のことも好きに呼んでいいからね。例えば愛菜って呼び捨てでも…」


「いや、普通に愛菜さんで大丈夫です」


「むぅ〜そっか、足りないか……なら別にお姉ちゃんでも…」


さん、さっそくお仕事をしたいんですけど」




なんだこの積極的な人は。なんか、堅苦しいよりかは全然いいけど、異性からこんな扱いされたことないから戸惑うんだが??


「ゔぅ〜たーくんが冷たい…」


「やめてくださいよ…なんか注目されてますって…」


あたりを見渡すと、こちらを向いている人がちらほらと。


まあ、こんなカッコいいお姉さんがこんな感じで喋ってるんだもん。ギャップで気になって見ちゃうよな。


俺も傍観者なら絶対そうしてる。当事者ではなく傍観者なら。



「えっ〜私にとっては日常茶飯事だから別に問題ないんだけど?」


「俺にとっては問題大アリですって、こんな注目されることなんてまずないんですから」


小中学校ではいい意味で平均的な生徒だったと思う。学級委員をやってたおかげで友達はそこそこいたし、部活で県大会で入賞して野郎からはたくさん遊びに誘ってもらってた。


けど、何故かそこ止まりだった。


友人いわく「お前はそういう枠。」らしい。


なんで?ひどくないか?


「そうかなぁ…たーくん、普通にカッコいいけどなぁ…」


「なんですか??」


「いやいや、こっちの話」


「そうっすか」


俺が過去を振り返って傷心していると、愛菜さんがボソッと呟いた。


こわっ…まさか、「だろうなwクソ陰キャ」とか言われた? 


以前女友達から聞いていた女子のドロドロした部分。実際のところそんなに誇張されるほど酷くはないのだろうが、その会話を鮮明に覚えていたせいで無意識のうちに萎縮してしまう。


「なら、立ち話もこんなところにしてさっそく行く??」


「行くってどこに?」


そう言って愛菜さんを見つめると彼女はにっこりと笑って言った。


「決まってるじゃん……!!私の妹の家だよ」

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