『Wの悲劇』 女優同士の狂気
原作小説を知っていると二度おいしい傑作。
売れない女優である主人公は、先輩俳優とも平気で寝ることもできる強かな女である。
だが、内心はギスギスに傷つき、割り切れているわけではない。
あるとき、不動産屋の男性といい関係になる。
オーディションに落ちた当日の夜、やけくそ気味で主人公は不動産屋と一夜をともにした。
それでも、女優の夢を捨てきれない。
だが、最悪の形でチャンスを迎える。
大女優のパトロンが、行為中に腹上死したのだ。
「身代わりになってくれれば、あなたが落ちた役をやらせてあげる」
そう告げられた主人公は、怯えつつも承諾する。
監督は『トラック野郎』や『宇宙刑事シャイダー』なども手掛けた故・澤井信一郎。
脚本の荒井晴彦氏は、最近だと『深夜食堂』や『共喰い』を手掛けている。
夏樹静子原作であるこの小説は、これまでなんども映像化されてきた。
だが映画版は、『Wの悲劇』をそのまま映画化したものではない。
「の舞台を演じる女優たちの、スキャンダル」
を描いたものだ。
この手法は面白いなーと思った。
同じような作品はあったような気もするが、ちょっと思い出せない。
本物の演出家である蜷川幸雄をそえて、舞台劇であると本格的に思わせる。
そのためか、蜷川氏も「バカヤロウ! 説明すんじゃねえよ!」と本気でキレる。
本作において、薬師丸ひろ子氏はブルーリボン賞をとる。
ちなみに、薬師丸氏がカレンダーに振っている丸は、オーディションの日かなと思っていたが、監督によると「安全日」らしい。
三田佳子氏の演技が、狂気じみている。
『外科医 有森冴子』や『味の素』のCMなどでイメージが定着する以前だったからか、すごいフリーダムな演技だ。
スキャンダルの身代わりになった主人公を責める大先輩の女優に向かって、
「あなたは女優になるため、女を武器に使ったことはありませんの?」
と黙らせるシーンなどは鬼気迫る。
また、自分が仕組んだ虚偽のスキャンダルで脚光を浴びる主人公に、
「もっと若ければ、あの場で涙を流していたのは私の方だった」
と、本気で嫉妬するシーンも。
原作と映画版のシナリオ改変も面白い。
映画のなかで、主人公は
「大女優の身代わり」
にさせられる。
そんな主人公が演じる役は、
「母の起こした事件の身代わりになった娘」
である。
舞台でこそ、三田氏は良き母を演じる。
だが、事故現場での三田氏は、冷徹に、
「パトロンから子どもを産むなら女優をやめろといわれたから、堕ろした」
「でも芝居に夢中になったから、パトロンから結婚を迫られても断った」
「女優になるために、今さらスキャンダルに巻き込まれるのはゴメンだ」
と、舞台とは対象的なキャラを見せる。
この演技の後で、主人公は先輩女優の感情を思い出して、仮初めのストーリーを記者会見で作り上げる。
自分が愛人であると証明するために、
「バイトの身である自分が、自腹を切ってハンバーガーを食わせたら喜んだ」
と、ウソの証言をする。女優のパトロンとは話したこともないのにだ。
この二人の狂気は、見ものだ。
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