第19話 木曜日の夕ご飯は
二人でデートして帰ってきても、真弓さんはまだ帰ってきていなかった。
「晩御飯、グリーンカレーでいいかい?」
「和樹さんが作ってくれるものでしたら、何でも良いよ!」
っと、言ってくるのでチャチャっと作ってしまう。
グリーンカレーは普通のカレーと煮込みの手順が違う。
先ずはサラダ油で熱したフライパンにグリーンカレーペーストを炒めて、ココナッツミルクを少量実加え、かき混ぜる。
沸騰したら、一口大に切ったパプリカ、鶏肉、タケノコ、ふくろたけ(キノコの一種)、なすをいれて火が通る迄、煮込む。
これで完成だ。
割と短時間で完成するから、お勧めである。
「すんごい、すーんごく美味しいですけど!
何でこんなの作れるの⁈」
と笑みを浮かべて天真爛漫な真矢ちゃんが食べてくれるので作り甲斐があるというモノである。
そんな真矢ちゃんを観ながら僕も食べようとすると、
「ただいま~、あ~、良い匂い~」
「おかえり、真弓さん。
今日はグリーンカレーですよ」
「ささっと着替えてきますね」
っと、ジーパンシャツに着替えて座席に座る真弓さんにもサーブしてあげる。
「本格的……!
頂きます!
ん~♡ 美味しい~♡」
頬を綻ばせて可愛く食べてくれる。
「やっぱり、和樹さん、料理上手ですね~」
「いえいえ、まだまだです」
「もしかして、和樹さんには主夫して貰った方がいいのでは?」
「はは、そんな、主婦の皆さまに怒られちゃいますよ。
料理が上手いだけでそんなこと言われたら」
「いやでも、掃除もしてくれてるし……。
私が稼げば、全然問題ないという……!」
っと、話が飛ぶので何ともやらである。
とはいえ、そんな生活もいいかもしれないと思う自分が居るのは確かだ。
火曜日の退職手続きの件から少しだけ、傷のようなモノが出来ているような感覚があるからだ。
いつも、退職手続きの毎に受けてきた通例のモノだが、今回は前に真弓さんから転職を促されたことも有り、少し大きくなってしまっているのかもしれない。
「マジで考えません?」
真弓さんが言葉を崩しながら、ズズイと顔を突き付けてくる。
「いや……さすがに働かないと、僕としては……。
男のメンツというのもあります」
「はい、判ってます。
そこはお見合いの時に、確認した通りです。
でも、可能性としてあるってことは覚えておいてください」
ありがたい話だと正直に感じる。
人間、可能性が見えたり有ったりするのと観えなかったり、無かったりするのは大きな差が出てくる。
これは僕自身が日本以外の大学に進学するきっかけになった考え方で、真矢ちゃんからもお返しされた信念だ。
「ありがとうございます」
だから、男の意地も何もなく、素直にそれを受け止めることが出来た。
「いえいえ。
それより、会社の方はどうですかー?
楽しいですかー?」
グサリとくる質問が可愛い笑顔から湧いて出た。
「うん、応えなくても大丈夫ですよ。
今の反応で何となく嫌なことがあったんでしょうから」
「ご慧眼に感服しますね……さすが社長さん」
目を伏せてしまう。
「いえいえ、働かなきゃって言ってた時に、沈んでたから。
聞ければ、痛みを分かち合えるかなって思ったんです」
ハッとして、真弓さんを観て観れば可愛い笑顔がそこにいた。
自分の事を本気で心配してくれている顔だ、そう思えた。
「真弓さん」
「はい?」
「優しいんですね、ほんとに」
「優しいというか、尽くしたくなっちゃうです私、男の人には」
っと、照れ照れと顔を赤らめる真弓さんである。
そんな彼女に悪戯したくなってきたので、言ってみる。
「それはライクだからですか?
ラブだからですか?」
「難しい質問ですね~……私としてはラブのつもりです。
でも、私ってほら、バツイチだし、普通にいうとビッチじゃないですか?
その後も何度か付き合ったりしてるんですけど、和樹さんに感じている感情はそれらの人達とはちょっと違うんです。
手に入れたいという感情が来るはずなのに、この人に包まれたい……と言うべきなのでしょうか?」
「つまりお母さんは何が言いたいの?」
真矢ちゃんが理解出来ない僕の代わりに質問してくれた。
「いつも感じていたのがラブだったら和樹さんに感じているのはラブじゃないですし、今までのが間違っていたらと思うとちょっと寂しいなって――感傷のしみったれかな?」
「ふーん。
じゃぁ、実はお母さんの和樹さんの気持ちがラブじゃなかったら結婚しないの?」
真矢ちゃんがここでとばかりに、食い込んでくる。
つまり、気持ちに誤解があると自認させれば結婚の話が無くなり、自分に有利だとでも考えたのだろう。
「私の仕事と一緒です。
好きだから三社もやって何とかしている。
好きだから和樹さんとは一緒になりたい。
ライクかラブか判らないけど、好きなんです。
私自身の仕事と一緒で……」
「良く判んないわよ!
私の仕事は生きるためだもん!
お母さんみたいに趣味じゃないから、そう例えられても判んない!」
っと、えへへ、と笑みを浮かべながら言う真弓さんが可愛らしすぎる。
僕にここまで感情を向けてくれているのは真矢ちゃんを除けば、久しぶりな気がする。
それに比べれば僕の思いは薄い気がする。
会社に対しても、真弓さんや真矢ちゃんに対しても。
もっと本気になるべきかもしれない。
そう、自分の中で言い聞かせるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます