第18話 木曜日の昼に、暇となって。
朝ごはんを作って、二人を送り、ダイニングやキッチンの掃除を大方終わらせると暇になってしまう。庭の掃除も終わらせた。
昨日はそのまま昼寝をしてしまった訳だが、今日もというのは身体に悪い。
とはいえ、趣味も無い自分なので、ダイニングのソファーに座ってテレビのチャンネルを回し始める。
「あ、真矢ちゃん」
ミュージック番組の再放送回だった。
十人グループのセンターで燦然と輝く真矢ちゃんは自前の金髪がキラキラして可憐である。
また、歌も上手いし、表情の変化や振り付けも自信を持ってやっているのが判る。
カメラの目線に合わせて、きっちりとその翠眼で片方ウィンク。
「やっぱ凄い子なんだなぁ」
っと、名前だけは真弓さんとのお見合い前から知っていたアイドルの姿を観て、再確認する。
歌が終わったので、チャンネルを回すと今度は時代劇の女性役として出てきていた。そういえばそうだ、元々、子役からスタートした真矢ちゃんの本領はこっちである。
観ているウチに、時間は潰れていくが、生き生きとした、そしてわき役としてだが存在感を発揮する真矢ちゃんを目で追っていく自分が居る。
「ただいまー☆
って、あれ、和樹さん居ないのかな?
今日も学校から直帰だったのに」
「あ、おかえり。
今、ちょうど、真矢ちゃんが出てた時代劇を観てたところだったんだ」
「うわ、恥ずかしい」
っと、僕の右隣りにポフンと音を立ててソファーに座ってくる。
「で、感想は?」
「僕はあんまり、こういう芸能関係とかテレビとか見なかった人間だからね……真矢ちゃんの新しい側面が観れて楽しかったかな?
それに僕がこの真矢ちゃんという子を送り出すきっかけになったと思うと自信にもなるね」
「うー!
嬉しい事をいいすぎるなぁ!
十真矢ちゃんポイントあげちゃ!」
っと、ポカポカと軽く右横から僕を叩いてくる。
「好きな人にね、そう言われたら女の子って恥ずかしくなっちゃうんだよ!」
「そういうものなのか」
「そういうものなの!」
愛が重いと、十年前に彼女と別れた僕としてはちょっと踏み込みすぎてしまったかもしれない。
「でも、和樹さんが私の事を観てくれて嬉しいのはホントだよ?
それも私。
今の私も私。
そして今からこうする私も私」
っと、僕をソファーに倒して軽いキスをしてくる。
すぐ離れるが、甘い柑橘系の匂いが僕に残る。
この匂い自体も嫌いではない。むしろ好きだと言える。
僕もいい加減なれたので、慌てもふためきもせず、真矢ちゃんの細い体を両手で抱いて引きはがす。
彼女は残念そうに笑みを浮かべながら、
「やっぱり和樹さん好きになってるよ、私。
ラブの意味でね?
だって嬉しい事してくれるし、ちゃんと私の尊厳も守ってくれる。
そして私を観ようとしてくれる。
お母さんのことだけじゃない、私、真矢のことをみてくれている!」
「そんなに大したことしてないんだけどなぁ」
正直、そんな認識である。
「私にとってはしてくれてるの!
人生決めてくれたのもそう、今も迎えてくれたのもそう、理解しようとしてくれてるのもそう。
誰も、誰だってやってくれなかったことを和樹さんは私に与えてくれているの!
表面上の理由、外見、役、そういうものでなく、和樹さんは私を理解してくれている!」
「真矢ちゃんにとって都合のイイ男という奴では?
便利だからライクになっていくという意味で」
「違う、違うの。
私ね、今、下がウズウズしてるの。
今まで誰にも感じたことが無かった感じ。
朝起きるとねぐっちゃりになってて、和樹さんを思ってしちゃったもん」
つまり、おかずにしたということだろう。
そしてそのネタは僕ということで、嬉しいような、気持ち悪いような、変な気分になってしまう。
「それは、何というか。
告白されても、僕にはどうしようもないんじゃないかな?」
「ううん、和樹さん、出来るよ。
私にくさびを打ち込んで、この疼きを止めてよ♡」
「流石にね、断るよ?」
僕は真矢ちゃんに対して、態度を示すように両手でバッテンで示す。
「僕はちゃんと、考えている。
真矢ちゃんが良いのか、真弓さんがいいのか」
「だったら試し腹すればいいんだよ。
私の処女を散らして、お母さんともしてしまえば、どっちが相性が良いかわかるでしょ?」
「……うーん」
確かにそれは一理あるが、
「道義には反してるよなぁ……、僕に二股男になれと?
嘘をついて、真弓さんに接しろと?
それはムリだよ、僕には」
「うん、判ってる。
そう言うのも判ってた。
和樹さん、マジメだもん……♡」
そう言いながら、制服のシャツを脱がないで欲しい。
「ほら、高校生アイドルの下着姿だよ♡
もし、和樹さんがグラビア写真集もってたら前もってみれていた姿だよ」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっとまってくれ」
「熱いから脱いだだけだよん♪
着替えてくるね」
そう悪魔っ子のような笑みを浮かべて廊下に出ていく真矢ちゃん。
完全に遊ばれている。
とはいえとはいえ、バランスの良い裸体で、胸も大きく、抱き心地が良さそうだと思ってしまい……真矢ちゃんの術中にはまってはなるものかと、心を抑える。
「デートしよ♡」
「は?」
半袖、ジーパンに着替えてきたはいいが、マスクとサングラスをして真矢ちゃんがそう言ってきたので、外に出ることになった。
まだ五月も半ばだというのに、夕暮れ時は熱い。
「海が見える公園いこ!」
そう言われ、彼女に手を引かれるまま、行くことにする。
坂の途中からなのでそんなにつらい道のりでも無く、すぐ到着する。
色んなドラマやゲームで使われた場所で、不思議な形をした半楕円形の屋根が海に向かって立っている。
「ここ、よく撮影でつかうんだー。
キスはしたことないけどね、まだ十六歳だから」
「へー」
「もー!
ファーストキスは和樹さんにささげたでしょ!」
相手に飲まれまいと塩対応をすると、真矢ちゃんがプンプンと可憐に怒ってくる。
「キスしたかったんだよ、ここで」
「ぇ、なんで?」
「ここが一番、デートスポットの終着点として正しいからだよ」
「終着点どころか始点なんだけど?
しかたないなぁ……」
何だかんだ、真矢ちゃんとのキスは慣れてきてしまっている自分が居るのが怖い。
ちゅ、っと軽いキスを二人でかわす。
「えへへー、やっぱり和樹さん、優しいなぁ♡
一つミッションがクリアできたよ!」
「へ? ミッションって?」
「横浜で恋人たちのすることリストってのがありましてね?
それにここでキスをするというのがあるんですよ」
「他にはどんなミッションが?」
「一緒に中華街で食べたり、山下公園の足湯にひたったり……とかあるんだけど、何かピンと来ないから省略しました、えへへ」
確かにデートとしては定番だろうが、僕等は定番のカップルではない。
父と義娘になる可能性がある関係だ。
「私、男の人とデートって初めてなんだよ?
だから、したいことだけしてみようと」
真矢ちゃんの顔が、夕暮れの日光と被る。
笑みがとても眩しくて、それを作り出せた僕自身が嬉しくなっていくのが判る。
「あ、夜景も見ていきましょう!
ここからの夜景も名物ですから」
反対する理由などなく、僕等は椅子に座って、沈んでいく夕日を眺めながら夜景を待ち望むことにした。
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