第15話 水曜日はお休みの朝。
不動産業界の休みは、水曜日プラス火曜日あるいは木曜日が多い。
これはお客さんが土日に集中し、また土日にしか契約をすることが難しい人が多いからということからの慣例だ。
とはいえ、いつもより早く起きてしまったのは……ストレスだろうか?
ちょっと胃に不調を感じる。
「おはようございます」
っと、ダイニングに声をかけるが、真弓さんはおろか、真矢ちゃんも起きてきていない。
そりゃそうだ、朝五時なのだから。
「朝御飯作るか」
と言っても、朝から胃にもたれる油の多いモノを作る気は無い。
取り出したるは骨付きチキン、そして洗った米。
洗った米、骨付きチキンを三枚そのままいれ、水量を適量、そして塩を少量入れて蓋をする。
時間はかかるが、これでチキンスープでのお粥が簡単に完成する。
もし朝からチキンが嫌だと言われたら、余りを自分の昼飯にでもすればいいやという考えもある。
「次は……っと」
そして元町中華街で買ってきたザーサイの袋をあける。
出てきた拳より大きい塊のザーサイを洗い、次に水をためたボールに丸ごといれる。
三回ほど、水を変えると調味液の色が無くなるので、一口大にスライスしていく。
小さい皿に三枚に、四枚ずつ添えるが当然に余るので、プラスチックケースに残りを入れ冷蔵庫へ入れようとし、
「おはよう、和樹さん~♡」
音もなく後ろからいきなり抱き着かれたのでびっくりしてしまった。
包丁を持ってなくて良かった。
パッケージは床に落ちたが、ザーサイは無事だ。
そして振り向いて柑橘系の匂いをさせる犯人を観ながら言うと、
「真矢ちゃん、おはよう。
危ないから料理している時はやめて欲しいかな」
「うん、判った~♡
料理してない時にするよ」
「って、ふふふふく!」
下着姿であった。
緑色の上下の薄いブラとパンツは正直、活発な真矢ちゃんに似合っている。
「えへへ、似合う?」
「僕も健全な男性だからやめなさい。
朝からみっともない」
「う~、堅物☆
でも正論だから真矢ちゃんポイント一点あげるね?
で、似合うかどうかは?」
答えないとダメだぞと、奇麗な緑色な瞳の上目線。
「……似合ってるよ。
金髪との配色センスが抜群に良い」
「きゃ、うれしー☆
お風呂してくる~」
っと、キッチンから廊下へ出ていく。
何というか、遊ばれている気分ではあるが、新鮮な感じでもある。
今まで彼女が居た時期もあるが、こんなふうに遊びを入れるような関係では無かった。
正直、真矢ちゃんに対して楽しいと思える自分を自覚できるので、少し困惑している。
もしかしたら僕と相性のいいのは真矢ちゃんみたいな、活発で悪戯っ子で自立した女の子なのかもしれないと、ふと考えてしまい、首を横に数度ふり否定する。
それこそ、真矢ちゃんの思うツボである。
「ふわ~、良い匂い。
和樹さ~ん、おはようございます。
昨日はお疲れさまでした……ふああ」
「おはようございます。待っててくれなくてもよかったのに」
「いえいえ、嫁になるたるもの主人を待たなくてはどうするというのですか!
まだ結婚してませんけどね」
っと、次に来たのはここの主こと、真弓さんだ。
バスローブ姿で寝ているのであろう。
大きな胸元がはだけていて艶めかしく、そしてそんなだらしがない所も可愛く感じてしまう自分が居る。
「真弓さん、バスローブはだけて……ますよ?」
「あ、ぇっと……そのおっぱい見ます?」
ボケという奴だろうか、どう突っ込めばいいのか悩み、
「いやあのその」
「ふふふ」
慌てふためいた所を笑われてしまう。
こればかりは人生経験の差が出る。
「別にいいんですよ、和樹さん。
目線がおっぱいに向いてるのよくあることに気付いてますし」
「うっ」
精神的ダメージ。
一瞬、ナイフで右目を貫かれたような頭痛がはしった。
「ふふふ。
和樹さん、やっぱり可愛いですね。
守ってしまいたい」
そんな様子を楽しそうに観てくる真弓さんは魔女か何かだろうか。可愛い。
「すみません、僕も男なので……」
正直に謝っておくことにする。
「別に良いですよ、和樹さんですし。
女って見られることを意識することで奇麗にするし、成れるんです。
特に好意的な方から観られるときは特にですね」
「セクハラとか思われません?」
こういう所は職業柄聞いてしまう自分である。
「それは逆に自分の事を下げる女の行動だと思います。
みられる覚悟が出来てない、みられる自信が無い人達のひがみです。
これは私のやってるエステサロンでもよく言う言葉ですから、信頼度は抜群ですよ?
ちゃんと聞いてくれる子たちはどんどん奇麗になってくれますから楽しいですし」
っと、自信満々に言う。
流石に三六歳なのに二六歳にしか見えない女性のいう事だ、説得力が違う。
「というわけで観ませんか?」
「それはまた別に機会があればお願いします」
「ふふ、そうですね。
今はそんな時間でも無いですし」
遊ばれている気がするが、悪くない気分である。
真弓さんの楽しそうな顔を観ると可愛いと感じると、特にそういう気分になる。
「で、朝御飯作って頂いたんですね?
ありがとうございます♪」
「いえいえ、お粥ですけど大丈夫ですか?
美容とか、そういうのを考えると制限があったりとか」
「全然、大丈夫ですし、逆にウェルカム。
私、糖質制限ダイエットとか大嫌いですし、意味が無いって思ってますから。
昨日の朝、食べた私の会社の食品もちゃんとしてたでしょ?」
思い返される、レンチン食品。
確かに栄養のバランスが考えられており、美味しかったのも確かだ。
「なら、良かった」
「ううん、逆に嬉しいなぁ~♡
朝御飯作ってくれる人が旦那様なんて~♡」
っと可愛く僕に抱き着いてくるので、距離を取りながら、
「旦那様って……まだ、結婚を前提にお付き合いをしてるだけじゃないですか」
「ああそうだった、残念。
まだそうでしたね」
心底、残念そうに拗ねる真弓さんが可愛らしい。
「ちなみに今までの人たちは?」
「私、甘やかすの大好きですから……朝御飯もカフェだったりとかにいってしまってましたね。
とにかく、料理を作ってくれる人は初めてで、何というかこんなことをしてくれる人もいるんだなぁ、って感動してるところです!」
キラキラ星に眼が輝きながら僕の事を観る真弓さん。
「そんな和樹さんは別のところでちゃんと甘やかしたくなっちゃいますよ~、甘やかせろ~」
そしてガオーっという勢いで怪獣みたいに両手を上げてくるのでまるで中学生みたいだなと、背の低いのも相まって笑ってしまう。
「ふふふ」
「何がおかしんですか!」
「だって真弓さんが可愛くて」
「かわ、可愛いって……! 三十路のおばさんに……」
「やっぱ可愛いですよ」
赤らめた頬に両手を当てる真弓さんも可愛い。
「なにしてんの、二人で」
っと、そんなやりとりをしているところにやってきたのは制服を着こんだ真矢ちゃんだ。
夏も近いという事で半袖のセーラ服で、真弓さんのバスローブ姿と比べると可憐という文字が良く似合っている。
「ぇっと、真弓さんに絡まれた被害者です。
加害者をテーブルにお連れしてください!」
「了解。
ほら、ママ朝御飯だよ」
っとノリが良い真矢ちゃんが真弓さんを引っ張って行ってくれる。
正直、助かったと思いながら、二人のお椀に鳥を一つずつ入れて粥を注いでいく。
そして、付け合わせのザーサイも出したところで、
「「「頂きます」」」
っと三人での食卓が始まった。
なお、『美味しい』と評判が良かったので嬉しい気持ちになった。
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