第21話 テストの始まりと山本の再アプローチ

「………」


「………」


放課後の図書室に沈黙が流れる。そこにいるのは、茉白と新、只ふたり。どうも、昨日のデートらしき催しを終えた後、ふたりの間には何となく、微妙な空気が流れていた。気まずいとも違う。心地いいとも違う。でも、一緒にいられることは、何となくいい。…みたいな…。


「…後は?分からないところない?もう後一週間で中間テスト始まるけど…」


茉白の作った問題を黙々とこなしていた新たに、やっと、茉白が声をかけた。


「え?や、そう…だな…。なんか、この英文の役は『日本語が話せる人の所に連れてってください』…であってる?」


「うん、まぁ。でも、役ではなく訳ね…貴方は本当に成長してるのかしてないのか、わからない…」


「………」


「?どうしたの?今日なんか口数少なくない?」


「え…いやぁ…別に…。なぁ、100位以内に入れれば、徳信コース行ける?」


「…徳永家康を信じているコースにには行けるんじゃない?」


「…だから、なんでいちいちだ俺の頭を除くんだ」


「排除していないわ。逆に入り込んでるの」


「…あっそ…」


「でも、特進コースに行きたいなんて、思ってるの?」


「え?いや、どんな漢字なのな?って思って…」


「漢字は、“特別に進む”よ」


「…そうだな…それもそうだが、どれくらい難しいんだよ」


「本気で言ってるの?まぁ、学年50位以内は最低条件ね。後は、委員会や、部活動なんかの総合的な判断にもよるかな…」


「へー…じゃあ、結局100位以内に入っても水無月とは2年でクラスは別か」


「え?」


「え!?お、俺、なんか言った!?」


ボソッと呟いた、新の言葉に、茉白は少し慌てた。でも、新が自覚していないことに気付いた茉白は、なかった事のように言った。


「100位じゃ無理か…って、口に出してた」


「あ…そ…か」


なんとなく、安心したかのような新に、一体どんな意味だったのか、その辺は、茉白には解らない。こんな、なのに…。



*****



―テスト1日目―


「うわー!やべー!もう教科書見たところで山もあてられん!!」


「この訳、どうやんのぉー!?」


「はっ!?古文と漢文て違うって本当か!?」


教室は、静かにもう準備ばっちりと言った感じの生徒たちと、もう付け焼刃、一夜漬け、そんな感じで今更教科書と向き合う生徒たち…。ふたつに分かれていた。言うまでもないが、茉白は余裕しゃくしゃく。狙うは、1位だ。


その教室で、ある事件が起きた。


「水無月…」


「あ、山本くん…」


久しぶりに、山本が茉白に話しかけて来た。


「こんなこと、おとこらしくは無いのかも知れんが、一回でいい。俺にチャンスをくれないか?」


「チャンス?」


「俺が、水無月より中間テスト成績がよかったら、付き合って欲しい」


「…え…でも、許婚のことは、断わったはずで…」


「いや、許婚としてではなく、俺は水無月がすきなんだ。…だめ…だろうか…?」


「………」


その時、茉白の頭の中には、只一人、新の顔が浮かんでいた。

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