第22話 テスト開始!!
その言葉に、茉白は思わず新の方へ視線をやった。
「…山本くん…でも、私…」
「だれか、すきな人でもいるのか?」
「や…それはいないけど…」
「ならば、考えておいてはくれないか…。それだけで、俺はこのテストを頑張れるからな」
「山本くん…」
強く、断わる。絶対的に、すきじゃない。と言うことが中々出来ない。だって、それを後押しする決定的な理由が、存在しないのだから。
茉白の返事を待たず、山本は自分の席に戻って行った。
「始め!」
号令と共に、テストが開始された。50分間、沈黙が続く。頭を掻く生徒、頭を抱える生徒。眠る生徒。真剣に解いてゆく生徒。面白いように人格でテストへの姿勢が違う。
その中で、茉白は時間たっぷり残してテストを終え、ちょっと周りを見渡した。その視線の先は、新だった。少し、眉間に皺をよせ、頭を斜めにして、髪をくしゃっっとしている。
(ふふ…真剣…本当に100位以内に入ったら、なにかお祝いしなきゃな…)
自然に微笑んでしまう。それを見ていたのは、同じく時間を持て余した山本だった。山本は、気付いていた。茉白が新に惹かれ始めているのを…。親同士が決めたこととは言え、茉白と結婚できる将来は、本当に輝いていた。それなのに、茉白にあっさりフラれ、許婚のことさえ、なかったことになってしまった。
山本は、自信があった。顔も良い。勉強もできる。そして、茉白と同じ、クラス委員だ。それがあっさり、拒否されてしまったのだ。男として、少々…中々…かなり、プライドが傷ついた。それでも、山本は、茉白がすきだった。この辺は、本当に普通の恋する男の子だ。
「はい!終わり!後ろからテスト集めて!!」
「はーい」
山本は、さっそく、茉白の机に向かおうとした。その時茉白は即、席を立つと、新の席に向かって行ってしまった。
「どうだった?篠原くん」
「おう!水無月!だいぶいいぞ!!…多分…」
語尾は、少々弱々しいが、取り合えず、手ごたえらしきものはあったらしい。
「そっか。次、古文だね。頑張ってよ~!?」
茉白はニンマリ笑って、新の頭をくしゃくしゃした。したくて仕方なかった。テストで新がしていた仕草だったから…なのだろう。それが、なんでなのか、茉白はやっぱり、わからない。その楽しそうなふたりをみて、それを不自然に思っているのは、山本だけではない。
嘉津と、武吉も、何故?と言う顔をして、ふたりを見ている。何だか、冷やかすも、つっかかっていくも、出来ない雰囲気があった。そんな茉白を見て、一番、不思議に思ってるのは、新、本人だった。
「水無月、入学したての頃より、すげー柔らかくなったよな」
「そう?どういうイメージだったのよ」
「頭いい奴=偏屈な奴?」
「…その方程式はやめて…って、偏屈は書けるのね」
「ふ…その食らいはな」
自信たっぷりに新は言う。
「食べてどうするの?何位の位の字で、位と読むの。…本当に、100以内、大丈夫なの?」
不安の表情を浮かべる。
「まぁ…何とかなるっしょ!水無月が1か月もみっちり教えてくれたんだから!」
「うん。そうだね。頑張って!篠原くん!!」
そう言うと、茉白はまた、席に戻った。後ろ髪惹かれながら、新は新で、引き止めたい気持ちでいっぱいだった。
そんな、ふたりを、山本は、辛そうに見ている。
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