第5話 とりあえず映画は断ってみた

「水無月。日曜、何時に待ち合わせをしようか」


「あ…山本くん…。そ、それが…急な用が出来ちゃって…」


「用?なんだい?」


「実は、少し貸しがあって、篠原くんのテストの勉強を教ええる約束を…」


「な!篠畑の!?」


「篠原くんね」


「あ、あぁ…。しかし、水無月にしては珍しくないか?他人に勉強を教えるとは…。しかも、相手は、仲の良い里山や滝口のような女子ではなく、篠畑のような碌に勉強のできない奴ではないか…」


「そう言う言い方は良くないよ。篠原くんは中々いい人だよ?(馬鹿だけど)」


「し、しかし、約束を先に取りつけたのは、俺の方だ。順番が違くはないか?」


「それはそうなんだけど、実は、篠原くんにモデルになってもらってたの」


「モデル!?」


「そ、そう。私、美術部なのは、山本くんも知ってるでしょ?で、サッカー部の篠原くん、背が高いし、運動神経もいいから、走ってる姿とか、ゴール決めた瞬間とか、写真に撮らせてもらったの」


「ほう…写真…。つまり、直接篠畑が水無月に何かしたわけではないのだな?」


「え?あ…まぁ…」


「なら、そんな気を遣う必要があるか?そんなもの、普段の水無月の態度でどうにでもなるだろう」


「そう言うのは良くないよ。山本くん。どんなに直接ではなくても、写真を撮らせてもらって、その絵を牧先生に褒めてもらえたのは、まぎれもなく、篠原くんのおかげなんだから!!」


「むむ…。そうとも…言えなくはないが…」


「そうなの!!だから、次の日曜はごめん!!じゃあ!!」


「あ!水無月!!」


山本から逃げるように、一目散に茉白は美術室に駆け込んだ。






「あ――――…よかった…言えた…」


「だろ?俺と付き合う、なんて、言わない方が絶対いいぞ。水無月」


「でも、本当に切羽詰まってたの!赤点を1回の追試でクリアしなきゃいけなかった篠原くんくらい」


「うん。それは何となくわかる。でも、俺と付き合ってるって噂流しても、クラスで話す回数を増やしたり、仲良さそうに接したり、もし、それ以上怪しまれでもしたら、デートにだっていかにゃならんぞ。そうなったら、泥沼だ」


「…確かに…。付き合うと言う仮定の関係になる…と言う設定に必要性はなかったかも…。なんで私そんなこと思ったんだろう…しかも、篠原くん相手に…。謎…」


「…なんか、失礼になりだしたぞ。水無月」


「あ、ごめん」





2人は、あれから少し話し合い、付き合うふりをする、と言う作戦は撤廃された。新からの提案によってだ。そもそも、すきな人とじゃなくちゃ、付き合いたくない、と言うものと、茉白と新が付き合うふりをすると言うもの。全くもって解決策にはなっていない。…ということに、気が付いたのは、新の方だった。


「じゃあ、どうすれば、自然に山本くんに許婚を辞めてもらえるの?」


「さぁ」


「…あなたは何か考えがあって、私の作戦を否定したんじゃなかったの?」


「わっかんねーよ…。だって俺、水無月でも山本でもねーもん」


「そりゃそうだけど!」


「じゃあ、俺に勉強教えることにしたってことにすれば?」


「え?」


「ほんで、マジに俺に勉強教えてくれ」


「…なんか、私への利益ある作戦を持ちかけようとしたのに、そっち優先になってない?」


「気にするな。とりあえず、俺をモデルにでもしたと言え」


「モデル?」


「おぉ。よく、カタカナに出来たな」


「…私を馬鹿にしないで」


「とにかく、しばらくは俺に貸があるとでも言って、俺に勉強を教えてくれ。図書館ででの勉強会なら、変に水無月が疑われずに済むだろうしな」


「…あ、そう…だね。そうだ…」


「あ?」


「聞いてなかった!大事なこと!」


「なに?」


「篠原くんはすきな人いないの?」


「いない」


「…じゃあ…いいか…」


「なんで?」


「だって、私、付き合うふりまで頼んでおきながら今更だけど、もし、篠原くんにすきな人がいたら、誤解させちゃうところだった」


「あぁ、なんだ。そんなことか。もんだいなってぃんぐ!!俺はモテない!!」


「…(でしょうね…でも…)」





『だったら、私は、なんで、篠原くんに白羽の矢を立てたの?』

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