第19話
「あら?こんな時間に珍しい」
宴もたけなわ。
噴水の上でタル男の見事な腹芸が繰り広げられる中、見た目よりも酒豪なペテロが空を見上げてそう言った。
「伝書鳩か」
「はい。ギルド同士の連絡に。普段は定期的にしか来ないので、この子は緊急用ですね」
鳩はエリートというか、すごくキリッとした、熱意のありそうな瞳をしていた。
「優秀そうだ。蒸気魔術の電話より信頼できるのかな」
「はいっ。傍受される心配もありませんし、とってもお利口さんなんですよ!」
ペテロは鳩の足についた手紙を取り出して広げる。
「あ、もしかして昼間の戦闘について報告あげたんですけど、もう返信が来たのかもしれません」
「緊急で?」
「…そうなりますね」
私はかしこいから、すごく嫌な予感がしてきた。
「なんて?」
「…登録のない白魔道士クリストスよ。此度の戦績に賞賛を送るより前に……登録もなく白魔道士を名乗った罰を受け給え、だそうです」
「ほう」
数千年前に登録した感じだから、もう名前なんて残ってないんだろうな。
白魔道士でもないのに白魔道士を名乗り、白魔道士以上の奇跡を上げたら、まぁ現役の白魔道士への愚弄とかそういう感じになるよね。
「…酷い。白魔道士は、白魔術しか使えないとわかっているはずなのに」
ペテロはまるで自分のことのように悔しがっている。
この子は他者にこれほどの愛をもって接することができるんだな。
なんて美しい人だろう。
「なに。しばらく顔を出してなかったからな。たまには顔を出してみるとしよう」
「でも…っ」
「私のために怒ってくれてありがとう、ペテロ。だが、心配は不要だ。白魔道士協会は慈愛の精神で成り立っている。不当な罰を受けることはあるまいよ」
「本当に、大丈夫ですか?クリストスさん」
「無論だ」
こんな見ず知らずの私にさえ気を使ってくれた彼女へ、私はぽんと手を置くように頭を撫でてやった。
こんないい子に、何か恵みを与えられればと思ったとき。
「……っ!」
ぱああ、と私の手が光った。
「え、えええええ?!」
「な、なんじゃこりゃあ〜」
酔っ払い特有のオーバーリアクションをかましつつ、光った私の手と、手を置いたペテロの頭を眺める。
別段変わったところはなさそうだ。
「なんですか今の!?」
「あ、そういえばそんな天恵(ギフト)あったな…」
「ギフト!?ど、どんなギフトですか?」
「確か…十数人の使徒を決められるとかそういうギフトだ」
「使徒っ!?」
「といっても、別に何かこっちからできるわけではない。使徒のピンチには私にも通知みたいなのが来る、というものだ」
「ほ、ほへ~。そんなギフトもあるんですね。でも、なんでそれを私に?」
「初対面の私に対してもこんなに心配してくれた君に、何かしてあげられることがあればと思ったら…なんか発動しちゃった」
てへぺろ、と酔っ払いだから許されそうなリアクションをする私へ、ペテロはくすりと笑う。
「そんな……私こそ、街を守ってくれたクリストスさんには、感謝しても仕切れないのに」
「私は愛を説いただけさ」
「…私に何かできることがあれば、いつでもなんでも頼ってくださいね」
いつでもなんでも?
それってつまり、いつでもなんでも、頼っていいってこと?
「…ペテロ」
「はい」
「愛してくれ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます