第6話

「あなたは、どうして我々を助けてくれたんですか」


ヨボヨボのお爺さんからそう尋ねられた。


「あなたを、愛しているからです」


ポッとお爺さんの頬が染まった。


「私はすべてを愛しています。この世の全てを。だからあなたがたを助けたのです」


「じゃあ、うんちも愛せるの?」


と、どこからともなく、少年が無垢な瞳を私に向けていた。

はは、と私は笑って、こう答えた。


「うんちはちょっと無理かなぁ」


だよねー、と少年も笑った。


「私はこの世の生きとし生ける者すべてを愛しているのです」


と言い換えると、今度は少年。


「じゃあ、便所虫も愛せる?」

「…見かけたら潰すなぁ」

「やっぱりー」


果物をかじりながら、笑う少年。

なるほど、私は相手がなんであれ何でも愛してやれると思っていたが、自惚れていただけのようだ。


「ありがとう、少年。君との出逢いで私は私の気持ちに気づけたよ。私は、人を愛しているんだ」

「人殺しでも?」

「もちろんさ」


「僕らみたいなラータム人でも?」

「愛しているさ」

「僕らをこんな肥溜めに追いやった人たちのことも?」

「……」


私は少年の肩を掴んで、できる限りの優しい口調でこう伝えた。


「愛しているさ」


人は必ず差別をする。

ノットビューティな感情だ。

しかし、それが全てではない。


「それが君の宿敵でも誰かに愛されている。君たちが愛されているように」


「…愛なんて、なかったよ」


「あるさ、ここに」 


私は自分の胸を指して、ニカっと微笑んだ。


「何それキモい」


いたいけな少年から痛い返しを受け、しょんぼりと肩を落とした。


少年は背を向けて立ち去ろうとしたが、そっとこう言った。


「…ありがとう、おじさん」


おじさんか…


「ねぇ!向こうに身動きできない仲間がいるんだ。足がなかったり、病気だったりするんだ。おじさんのヒーリングで、助けてあげてよ!」


少年はそう言って、遠くを指差す。


「もちろんだとも」


おじさんのヒーリングならなんだって治せるからね。なんと言ってもおじさんのヒーリングだからね。


私は少年の指さした方向に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る