第2話

「お兄ちゃん、やめてよう」

「うるせー!お前、生意気なんだよ!」


5歳か6歳くらいの兄弟が、道の端で喧嘩をしていた。

このくらいの年の差では、兄が勝つに決まっている。

弟は泣きじゃくっていた。


私はそっとその場に近づいて、兄のほうの肩を優しく抑えた。


「汝、兄弟を愛しなさい」


優しい笑顔でそう告げた。


「は?おっさん誰?」


と言い返されたが、ともあれ兄弟たちの喧嘩は終わった。


世界がひとつ平和になった。


なお、私はもう10世紀は生きているので、おっさんというレベルではない。


「人里に降りるのも、もう数百年振りか…」


私は改めて各地を見渡した。

世界は大きく変化していた。


蒸気技術という新しい魔術が生み出されてから、人々の暮らしは大きく変わっていた。


夜は昼の明るさを手に入れ、離れた人とも気軽にお喋りができ、ひとつの家から無数の蒸気パイプが飛び出している。


「なるほど、面白い魔術の使い方をする」


私はかしこいので、見ただけで魔術の原理がわかる。


この蒸気技術は、火水土風の基本属性を、余すことなく使えているようだ。

水を火で熱し、風を生んで土を動かす。

これなら少ない魔力で動力を得ることができるだろう。


四属性の魔術を行使するなど、私が生まれ育った時代では賢者クラスでなければ思いつきもしなかっただろう。

時代の進歩というのは素晴らしいものだ。


「ああ、世界は、今日も美しい」


「な、なんだこのおっさん…」

「お兄ちゃん、怖いよう…」

「だ、大丈夫だ。俺が守ってやるからな…」


見れば先ほどの兄弟も喧嘩をやめて、仲直りの抱擁をしているように見える。

その姿に感動して、私は叫んだ。


「んん、世界!!ビューティフル!!!!!」


兄弟は大きな声で「ぎゃあ」と返事をすると、どこかへ走り去っていった。

子供が元気で世界は平和。

今日も世界は愛で満ちている。


「美しいおばちゃん…」

「ひっ!?」


ふふ、とニヤニヤしながら、私は街を歩いていった。


「ビューティフル野良猫」

「フシャー」


もうしばらく、この街を観光しようと思った。

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