8-4

「なんだい、ありゃ・・・?」


エルドラードはまだシルフ体だった。そこは、アナトらとは少し離れたビルの屋上。丁度、ギガント体のアナトが見えた。


「細い、・・・な?」


ミツオからも、妙に細っこいギガントが見えた。機敏に身体を動かし、華麗なステップを踏んでいる。ランキング戦である以上、そのギガントは対戦者以外にはありえない。だが、初めて見る形状に、ミツオは少々困惑していた。


「オイ、ミツオ。細いっていうか、装甲ないぞ、あれ。」


「はぁ!?」


「オマエ、また武器なしとか、装甲なしとかそういう話か!?」


「い、いや、そんな話してないし。・・・あ!きっとこっちのこと舐めてんだよ!!エルドラードちゃんの攻撃なんて、当たらねぇってさ!!」


「舐められてって、・・・またかよ。テメェのせいで、またオレ様が舐められてよぉ・・・。いや、違うな。アレは敏捷性重視だろうな。ははぁん、なるほど。装甲外して、速度だけでもオレ様を上回ろうってことか。」


「なっ!?敏捷性特化は相性悪いぜ!?この前だってそれで負けて・・・。」


ミツオは狼狽える。先日のランスロット戦でもスピードに翻弄され、良いようにやられてしまったのだ。絶大な破壊力を持ったSTR特化であろうとも、そもそも当たらなければ意味がない。


「負けてねぇ!!アレはマスターの差だ!!あのましろとか言う小僧が、オレ様を挑発すっからよぉ!?・・・ふ、ふふふ、そうだな。そうだったな。」


急に笑い出したエルドラード。戸惑うミツオ。


「な、ど、どうしたんだよ?」


「ミツオ、オレ様をさっさとギガント化しろ。・・・考えがある。」


「はぁ!?でも、まだ開始まで5分ぐらいあるぜ?始まるまでは、防御フィールドがあるから攻撃は当たらないぞ?」


「ウルセェ!!さっさとご主人様の言う通りにしやがれってんだ!!」


「わ、分かったよぉ。そう怒鳴るなって・・・。」


ミツオは、渋々エルドラードをギガント化した。するとビル群の中に、禍々しい黄金鎧のエルドラードが現れた。その姿に、アナトは一瞬身体を強ばらせた。


だが、エルドラードはその一瞬を見逃さなかった。突然、エルドラードはアナトへと向かって走り出したのだ。


「「え?」」


アナトだけでなくトヲルらも全員、その状況に全く対応できなかった。それはマスターのミツオですらもだ。


エルドラードは有らん限りの力でハンマーをぶん回し、アナトをへと打ち下ろす。だが、それはアナトへは到達しない。激しい音だけが響いた。黄金のハンマーは、アナトへと当たる少し手前で止まってしまっていた。


それは、ランキング戦などの公式戦にだけある"防御フィールド"だ。開始時刻にならないと解除されないので、不意打ちはできない仕様になっているのだ。だが、それが分かった上で、エルドラードは不意打ちを実行した。


アナトは全身を硬直させ、両手で頭を抱えるようにガードしていた。だがそれは、ガードというよりは、"恐怖で縮こまっていた"という方が正しいかもしれない。目を開けてハンマーを確認した途端、腰を抜かしてしまった。


「ひぃ!」


怯えるアナト。


「ほぉら、もう化けの皮が剥がれたぜぇ?」


ギガント体のエルドラードの表情は分からない。だが、その声色から、ニタリと張り付くようなイヤラしい笑みをしているだろうとは分かる。実際に、その不意打ちは成功してしまったのだから。


アナトは先程とは人が変わったように、明らかに戦意喪失していた。


だが、暗黒は叫ぶ。


「怯むな、アナト!貴様が尻込みする必要はない!もはや、奴は格下。貴様の速度に、ヤツは追いつけない!!」


「で、でもぉ・・・。」


「貴様!!厳しい訓練をもう忘れたのか!?」


アナトは、ハッと思い出したかのように固まる。そして、ゆっくりと立ち上がり、ファイティングポーズをとった。


「そ、そうです。ボ、ボクは苦しい修行をしてきたんです。貴方になんて負けないんです!!」


それは明らかに空元気だった。それを見透かしてか、エルドラードはそれから数回防御フィールドを緩急つけてハンマーで殴りつけた。その度に、アナトは思い出したように身体を硬直させる。


「不味いな・・・。」


「え?」


暗黒のその言葉に、トヲルはアナトの切迫した状況を理解した。


「で、でも速さでは、エルドラードと戦えるんだろう?なら・・・。」


「違う。戦いとは、力でも速さでもない。・・・心だ。強い意志がなければ、どんなに実力があったとしても、活かすことはできない。だからこそ、アナトには勢いのまま戦いに望ませたかった。心は、アナトの一番の弱点なのだ・・・。」


その時、どこからともなくアラームが鳴る。無情にも、それはランキング戦の開始1分前を示すものだった。


「クソ、このままじゃ・・・。」


トヲルには、この状態からアナトを奮起させる方法はなかった。そして、それは暗黒も同じだった。

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