8-2

トヲルが待機している場所には、シオンや紅緋も応援に来ていた。勿論、釘姫や瑤姫も一緒だ。暗黒はと言うと、静かに腕を組み、ドンと構えていた。


シオンは、ギガント化したアナトを見上げる。


「あれ?もうギガント化してんの?時間まで、まだ時間あるぞ?」


テンションが高まり過ぎたのか、勝手にアナトはギガント化してしまったのだ。あまり必要性は感じないが、ギガントでシャドーボクシングのようにステップを踏んでいる。しきりに身体を動かし、避ける動作に余念がない。


シオンは生まれ変わったようなアナトを見て、つい期待をしてしまう。


「気力十分じゃん!これはいけるんじゃないの?・・・あれ?そういや色変えたのか。黒ね。格好良いじゃん!でも、気のせいか妙にシュッとしてんな・・・。アナトちゃんのギガントって、こんなんだっけ?」


「いや、色というか・・・。俺も、まともに見るのは初めてなんだ。昨晩、暗黒が大幅に設定いじっても良いか?って言うからさ。やりやすいようにやってくれ、とは言っておいたんだが・・・。」


現在のアナトのギガントは、かなり細いフォルムだった。たしかに、ステップを見ても高速で動けているように見える。これなら、あのエルドラードのハンマーも避けられるかもしれない。


「なぁ、ところでシオン。あの金鎧ってそれなりに強いんだろ?それがなんで、ビギナーのアナトの対戦相手になるんだ?ギガントマキアのランキングって、いきなり上位と当たっちゃうもんなの?」


「いや、エルドラードは現在は下位だな。実はエルドラードってのは気分屋らしくてな。そもそも指定時間に来なくて、不戦敗もしょっちゅうみたい。」


「へぇ・・・。」


「まぁトヲルから聞いた話じゃ、今回は不戦敗にはしないだろうな。嬉々として、アナトちゃんを潰しに来るんじゃないのかな。」


紅緋も応援する。


「トヲルさん、アナトちゃん、頑張ってくださいね。」


「ああ、うん。ありがとう。頑張るよ。・・・でも、もうちょっと視界の良いところに陣取りたいんだけどなぁ。」


「そうですねぇ。ただ開けた場所は場所で、マスターが見つかりやすいという欠点もあるので、一長一短かもです。」


シオンも紅緋の意見に同調する。


「ある程度はしょうがないかなぁ。ビル群はどうしたって死角にはなるよ。マスターは3Dのマップ情報と、限られた視界の中で指示するしかないかな。ここなら、いざとなれば屋内に避難もできるしさ。」


ギガントマキアのルールでは、マスターが攻撃を喰らうと即負けとなる。まずは見つからないことが肝心だ。また、もしも見つかった場合は、即座に逃げられるようにしておく必要がある。


トヲルには、紅緋とシオンの激励が心強かった。戦うのはアナトとはいえ、トヲルも緊張していたのだ。トヲルは、意識的に深く息を吐いた。


そんな時、釘姫が口を開く。


「すごいです。アナトちゃんの気合いが伝わってくるようです。・・・それにしても、随分思い切りましたね。装甲を全部外すなんて。」


「「え・・・?」」


トヲル・シオン・紅緋には、その言葉の意味が一瞬理解できなかった。


「装甲を全部外す・・・?」


意味が分からずに、思わずオウム返しをするトヲル。全員がギガント体のアナトを見る。そして、シオンが叫ぶ。


「ああああああ!!装甲全くないじゃん!!えええっ!?武器だけ!?」


「え、あ、オマエ!暗黒、え、ちょ、何してんの!?ダメだろこれ!!」


トヲルも狼狽える。トヲルらも、アナトのギガントが妙に細いとは思っていた。それもそのはず、アナトは全ての装甲を脱ぎ捨ててしまっていたのだ。


だが暗黒は、アワアワとするトヲルらにピシャリと言い放つ。


「ええい!!狼狽えるな、貴様ら!!生半可な装甲なぞ、意味がないわ!!どの道、一撃で沈むなら足枷にしかならんだろうが!!心配するな。装甲を脱いだ分、軽くなって脚が活かせるのだ。これが最適解だと解らぬか!?」


「け、けどなぁ。いくらなんでも・・・。」


「昨晩のアナトも、だいぶ不服だったがな。恥ずかしいだの何だの・・・。そもそも装甲の有無に関係なく、最初から背水の陣なのだ。むしろ、腹を括るには丁度良かろう?まぁ武器だけは新しいものを装備している。いくら避けても一撃がなければ、意味がないからな。」


シオンは、アナトの手に持ったナイフを確認する。それは少し前に暗黒に頼まれて、シオンが用意したものだ。ただ、ナイフとは言っても、通常のナイフよりも刃渡りが長めのものだった。


「言われたから用意はしたけどさ。でも、攻撃力よりも耐久値優先なんて、何をするつもりなんだ?どの道ハンマーをガードなんてできないからね?耐久値の高いナイフって、あるにはあったけど。まぁ安いよ。あんま使い道ないし。」


「まぁ、やりようはあるさ・・・。」


ニヤリと笑う暗黒。どうやら、良からぬことを企んでいるようだ。


微妙な空気を感じ取ってからか、紅緋はなんとか盛り上げようとする。


「あ、えっと、で、でも、これだけ準備が整っていれば、何とかなりそうな気がしますね!」


「う、ん・・・。まぁ当の本人がやる気なのはデカいかな。暗黒のスパルタな特訓のおかげかな。」


暗黒は腕を組み、アナトを見つめる。


「しかし、時間が足りなかった。もう少し時間があれば、もっと多くを教えられたのだが。実に口惜しい。」


「まぁ、無い物ねだりはしょうがない。やるだけやったんだろ?」


「まぁ訓練の甲斐あってな。回避に関しては満点とはいかぬが、及第点まではいけた。だが問題は攻撃だ。・・・結局、それを教える時間が無かった。」


「・・・は?」


トヲルは暗黒を見た。暗黒は明後日の方向を見て、遠い目をしていた。

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