7-2

次の日。


トヲルはずっと考えていた。


(どうすれば勝てる。どうすれば、勝たせてやれる?俺はどうすればいい?)


闇雲では勝てない。ただ、アナトの戦いを思い起こしても、ただひたすらに練習すれば勝てる、というものでもないことは分かっていた。一番大きいのは、彼女の気持ちだ。もしかしたら、彼女は戦いに向いていないのかもしれない。


だが、今はそっとしてしておいた方がいい。どんな言葉も、裏目になる可能性が高いからだ。


では、他に何があるのか。・・・それはトヲル自身の心構えとサポートだ。もしかしたら彼女の性格なら、トヲルがどんと構えていれば、案外殻を破ってくれるかもしれない。しかし、その為にはトヲルが変わる必要がある。


「紅緋ちゃん、ありがとうね。色々と。」


トヲルの隣には、紅緋がいた。今は、二人きりで街中を散策していた。アナトや暗黒、釘姫はカードの中だ。


「いえ!トヲルさんとアナトちゃんを応援してますので!何か力になれるのなら、とても嬉しいです!」


「俺も何か、剣道とかやった方がいいんだろうか。」


実は、紅緋は幼少から剣道をやっていた。釘姫が刀を使うようになったのも、その影響だった。例の厳しいお祖父様というのが、剣道道場の道場主らしい。


「どうでしょうか・・・。私は子供の頃からやっていたので、結果的に釘姫もそういう方向性になっただけですし・・・。でも釘姫は釘姫で、この前の暗黒ちゃんとの対戦で少し悩んでるみたいです。」


「悩む?釘姫ちゃんが?」


「ああ、えっと、剣筋が素直すぎると言われたそうで・・・。私が教えたので、もしかすると私の剣がそうなのかもしれません。私はお祖父様に教わったのですが、基本に忠実であることを厳しく躾けられましたから。」


「なるほどね・・・。どちらにせよ、今すぐモノになるものでもないよね・・・。近道ばかりを考えてもしょうがないけど、次の対戦は何とか勝ちたいんだよ。アナトに勝った喜びを知ってほしいんだ。」


「そうですね・・・。でも、私はそんなに心配してないんです。アナトちゃんが素早いのは本当ですし、多分そこが活かされれば・・・。釘姫との初戦、一撃で終わりましたよね?でも、あれ釘姫にとっては予想外だったんですよ。」


「予想外?」


「はい。あくまでも練習ですし、お手本を見せるつもりだったんです。でも、その間もなく一瞬で終わってしまった。ああなったのは、アナトちゃんのスピードに驚いてしまったからなんです。勿論お世辞とかではないですよ。」


「へぇ。そうか。じゃぁアナトの"スピードが活かせれば"ってシオンの話も、あながち間違ってないってことか。」


「はい。そう思います。あとは、トヲルさんのサポートがあれば、勝てなくはないと思います。あ、トヲルさん、あの交差点です。あそこが・・・。」


紅緋の講釈が始まる。


これは、トヲルが彼女に頼んだことだ。今、二人は街を見ながら、こうしてああでもないこうでもないと会話を交わす。これは、実際のギガント戦において、どういう風に指示すれば良いかを確認しているのだ。


「大型のトレーラーは要注意です。乗用車でもそうですが、ギガントは普通に転んじゃいます。釘姫はさっと躱してしまいますが、できるだけ情報はあった方が良いです。特に高速移動のAGI型は、障害物に左右されやすいので。」


「ほうほう。」


「逆に状況を利用できれば、こちらが優位に立てることもありますし・・・。あ!ただ注意点が・・・。マスターは、目立っちゃいけないということです。」


「弱点、だからだよね。」


「はい・・・。どんなに釘姫が頑張っていても、私が攻撃されたら一溜りもないので。しかも今回は、平気でマスターを狙ってくる相手ですし・・・。」


相手のエルドラードは、意図も容易くランスロットにねじ伏せられた。だが、その前には、ランスロットのマスターである、ましろを狙ったのだ。それも最初からだ。だからこそ、トヲルも警戒しなくてはいけない。


「マスター殺し・・・、か。」



街のど真ん中。


ギガント化した巨大な暗黒と釘姫が立っていた。修練モードで起動しており、他の人たちに見られる心配はない。これから、市街戦を想定した模擬戦を行う。肝心のアナトは不在だが、これには目的があった。


トヲルは、暗黒に無線で話しかけた。


「・・・暗黒、できれば釘姫とは正面から戦わないでくれ。」


「どういうことだ?」


「なるべく状況を使って戦いたいんだ。オマエが強いことは知っている。けど、それじゃダメなんだ。だから、暗黒には付き合ってほしい。俺の訓練に。」


「・・・それが、アナトのためになるのだな?」


「ああ。俺がレベルアップすれば、アナトはずっと楽になるはずだ。まずは俺が変わらなきゃな。」


その日、トヲルは本当のギガント戦を体感する。自身もギガントの一部なのだと、初めて理解したのだった。

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