6-4
トヲルは、シオンに先日の騒動のことを話した。
トヲルのランキング初参戦で対戦相手となったのは、先日紅緋に絡んできた金髪男"ミツオ"のギガント"エルドラード"だった。エルドラードは華美な装飾の黄金鎧に、巨大なハンマーを手にした脳筋ギガントだ。
あの時、ましろのギガント"ランスロット"は容易く倒してしまった。だが、トヲルとアナトが同じようにできるはずもない。逆にあっさり倒してしまったせいで、エルドラードがどれくらいの強さかもよく分からないのだ。
シオンは唸るように考え込む。
「なるほどねぇ。エルドラード・・・、ミツオ・・・。というか、紅緋ちゃん、そんな怖い思いをしたんだね。・・・可哀想に。」
紅緋は、あの時のことを少しだけ思い出す。
「トヲルさんが来なかったらと思うと、今でもゾッとします・・・。」
「ましろ、ランスロット・・・。ミツオ、エルドラード・・・。」
シオンは騒動のことを反芻するかのように、関係する名前を口に出す。
「シオン、エルドラードは知ってるのか?」
「ああ、勿論知ってるよ。あれは目立つからなぁ。巷では"
「え?ミツオくん?」
「いや、別に親しいから"くん"付けしたわけではないよ?俺もまぁ、ちょっと揉めたんだよ。あれは、少々めんどくさい人だわな。」
「そうか。」
「あと、エルドラードは強いよ。STR特化の脳筋ビルドで、戦い方は一撃必殺の一辺倒。分かりやすい分、相性悪い場合はどうにもならん。かなり金もかけてるみたいだから、半端な装備じゃ太刀打ちできんだろうな。」
「マジかよ。あの時は一瞬で倒されてたから、イマイチ強いのか分からんかったけど・・・。」
「まぁ、白き円環のランスロットと言えば、"柔よく剛を制す"ってタイプだ。金鎧は相性が悪かったな。そもそも、ランスロットの本気なんて見たことがない。ただ金鎧から見れば、アナトちゃんなんて一撃だろうね。」
アナトも、今回の対戦相手については聞き耳を立てていた。先日のことを思い出しているのだろう。少し青ざめた顔をしている。
「ボ、ボク、あんなのと戦うんですか・・・?」
シオンはそんなアナトの表情を見て、口を開く。
「まぁ強いとは言ったものの、アナトちゃんと相性は悪くないよ。半端なSTRビルドだと厳しいけど、AGI特化のアナトちゃんなら勝機はあるかもしれない。というか、やるなら無傷で勝つしかない。食らったら終わりだし。」
「それで、なんとかなるもんか・・・?正直、どうにかなる気が・・・。」
「スピードで翻弄して、一撃をブチ込む。武器は、グレード上げた方がいいかもな。装甲の隙間を狙うにしても、今の装備じゃたぶん歯が立たない。」
「・・・だから、ランキングなんて早かったんだって・・・。」
「まぁ、こんなもんだって。初戦黒星なんて普通だよ。失敗を恐れてちゃ、前には進めん。勝ち筋が見えるだけでも、かなりラッキーな方だよ。」
シオンは負ける前提でお気楽に話しているが、トヲルの方はすでに尻込みしていた。だが紅緋は、そのどちらでもなく確信していた。
「ダメです!!トヲルさんは絶対負けないんです!!大丈夫、トヲルさんとアナトちゃんなら何とかなります!!」
シオンはウンウンと頷く。
「そうだな。やる前から、負けを考えることないよな。相手との相性は悪くないんだ。作戦練れば、なんとかなるかもしれない。」
だが、肝心のアナトがもう怯えてしまっていた。
「む、無理ですよぉ・・・。ボク、あんな怖い人とやりたくないです・・・。」
「うーん、やっぱダメかもしれんなぁ。」
アナトの様子に、シオンは速攻で諦めた。そこで、紅緋が慌てて提案をした。
「な、なら、特訓しましょう!タイプは違いますが、釘姫が相手をします。」
突然の紅緋の提案に、トヲルは驚く。
「それはすごくありがたいのだけど、でも釘姫もAGI特化だよね?タイプが全然違い過ぎて、特訓にならないんじゃ・・・?」
だが、シオンは頷く。
「それはなかなか良い案かもしれん。アナトちゃんは、ある意味では釘姫ちゃんのスタイルと近い。一部でもその動きをトレースできれば・・・。それに、釘姫ちゃんの速度に慣れれば、エルドラードなんて止まって見えるさ!」
「そ、そういうもんか・・・?」
結局、紅緋の提案でアナトの特訓が決まった。
*
すでに、ギガント化したアナトと釘姫。修練モードで起動しているので、他の人達には見えない。ここでなら、思う存分に練習することができる。
「さぁ、行きますよ。アナトちゃん。」
「は、はい・・・。釘姫ちゃん・・・、お、お手柔らかに・・・。」
やる気十分の釘姫とは対照的に、すっかり怯えているアナト。エルドラードのこともそうだが、目の前の釘姫も上位ランカーなのだ。真っ赤な刺々しいデザインの釘姫は、いかにも強そうな雰囲気を纏っている。
トヲルはアナトを見上げ、しみじみと言った。
「一応、多少装備更新したけど、相変わらず強そうには見えないな。」
未だ鈍色で、申し訳程度の装備しかない。試作機のような雰囲気は変わらなかった。シオンもアナトを見上げる。
「そうだなぁ。まぁ色変えたら、それっぽくなるかもな。」
「そういうもんか?」
「見た目大事よ?微々たるもんでも、勝率変わるならやって損はないじゃん?勿論最初は舐めさせといて、不意をつくってパターンもありだけどね。」
「なるほどな。」
釘姫は刀を構えた。釘姫と紅緋の声が重なる。
「「さぁ行きますよ、トヲルさん!アナトちゃん!」」
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