6-3
シオンは、山盛りのポテトチップスを鷲掴みして、口の中へと豪快に放った。そしてそれを、コーラで一気に奥へと流し込む。
「くはぁ!!・・・ふむふむ、なるほどねぇ。学校の同級生ねぇ・・・。その子を探すために、ギガントマキアを続けてきたと。泣かせるじゃないの!!」
「私をギガントマキアに誘ってくれたのは、その子なんです。だけど、家にも帰らなくなってしまって・・・。シオンさん、探してもらえますか?」
紅緋は、情報屋シオンに尋ね人の情報を渡した。今までの手探り状態よりは、ずっとマシなはずだ。どうしたって、期待はしてしまう。
「うん勿論。任せてよ。・・・と言いたいところだけど、一応期待し過ぎないでよ?肩透かしさせちゃうとなんだし。」
「はい!お願いします!」
にっこりと微笑む紅緋。それを側で聞いていたトヲル。
「なんだ、随分と及び腰だな。いつものオマエなら"俺に任せておけ!"とか、無責任に言いそうなもんだが。」
「トヲルちゃんは、一体俺を何だと思ってるんだ?紅緋ちゃんの頼みだもの。真摯にやるよ?俺ってば、責任感強い方だからさ。」
「あ、そう。」
無責任が服を着ているようなシオンの性格は、トヲルも知っている。だが、ファンを公言した以上、責任感を持って取り組むというのは嘘ではないだろう。
そんなトヲルらの側では、アナト・暗黒・瑤姫・釘姫がわちゃわちゃとしていた。彼女らは、シオン差し入れの電子フードにご満悦のようだった。
相変わらずアナトは口に物を入れながら喋ってるし、瑤姫も黙々と何か食べている。釘姫も物珍しいのか、なかなかにテンション高めだ。あれだけ落ち込んでいた暗黒においても、大好きなオムライスをしみじみと味わっていた。
そして、そんな彼らのいるビルの屋上から見えるのは・・・。
「・・・あ、オイ。あ、ああああああああ!!」
突然叫ぶトヲル。
彼らの目の前を、ものすごい勢いで通り過ぎていく巨大な塊。それは巨大な槍だ。そう、彼らがビルの屋上でくつろいでいる目の前では、ギガントマキアが悠然と行われていた。しかも、今日はランキング戦だった。
この近くでは数戦行われる予定で、先ほどから目の前でギガントたちが戦いを繰り広げているのだ。そもそもこの場所を待ち合わせに指定したのは、シオンだった。それは、このランキング戦を間近で観戦するためだ。
「ははは。大丈夫だって、トヲル。」
「わ、分かってるけどさ。心臓に悪いわ・・・。」
トヲルらがいるすぐ近くを、ギガントの武器が通り過ぎていく。迫力の見せ物だが、リアル過ぎて落ち着かないのも事実だ。
シオンは、コンビニの袋から汁粉缶を取り出し、トヲルの前に置いた。
「ほらほら、トヲルちゃん。お菓子食べなよ。俺の奢りだぜ?さぁ、飲み物も飲んで飲んで。まだまだおかわりあるからさ。」
「・・・おお、さんきゅー。って、なんで俺だけ汁粉なんだよ。しかも2本目も汁粉かよ!俺にも冷たいもの買ってこいよ!・・・って、冷たい物と温かいものを、一緒の袋に入れんじゃねぇ!!」
「もうトヲルちゃんは細かいなぁ。・・・ほら、紅緋ちゃんもいっぱい食べてね。麦茶がいい?炭酸もあるよ?」
「はい。大丈夫です、まだこれ残ってるので。でも、すごいですね。こういうの初めてで、なんだかもったいない気がします。」
「ランキング戦に参加してても、観戦はしたことないの?」
「ああ、そうですね。観戦はたしかにあんまり・・・。ランキングチャンネルは有料ですし。」
「まぁ、チャンネル観戦料は、賞金の一部になってるしね。だからこそ、注目度が上がれば賞金も増えるわけで。」
「でも、不思議なもんだな。設定でチャンネル切り替えるだけで、ギガントが見えたり見えなくなったりするなんて。」
「チャンネルとは言ってはいるけど、ギガント用の異世界だな。野良はフリーのとこで誰でも入れるし。ほら、前に模擬戦やった修練モードなんかもそうだよ。全部チャンネルで分かれてる。」
紅緋も、お菓子を手に取ってみる。チョコをかけた棒状のスナック菓子だ。紅緋はそれを口に入れる。甘塩っぱくて、いくらでも食べてしまいそうだった。
「あ、でも初めてと言ったのは、観戦のことではないです。」
「ん?」
「実は私、お菓子ってあまり食べたことがなくて・・・。」
「「え?」」
「お祖父様が厳しい人で、こういうものはあまり食べた記憶がないです。」
「そうなんだ・・・。」
「そっか、じゃあいっぱい食べてよ!よし、こっちも開けちゃおうか!」
ポテトチップスやら、チョコのかかったお菓子やら。すでに食べきれない量のお菓子が置いてあった。そして、シオンが殆どを開封してしまっていた。
「シオン、片っ端から開けるなよ。」
「大丈夫だって、3人いればなくなるって。」
「そういう問題じゃねぇ。シートの上、お菓子で埋まっちゃってんじゃねぇか。全く・・・、ってオイ、その辺で手を拭くな。ほら、これ使え。」
そう言ってトヲルは、ポケットからウェットティッシュを取り出して手渡した。
「お、さんきゅー。トヲルはホント、こういうとこお母さんみたいだよな。」
「やめろ。そう言われるのは、なんか嫌だ。あ、紅緋ちゃんも使うかい?・・・っておわっ!?ちょ、紅緋ちゃん!?」
「え?」
紅緋はキョトンとしているが、トヲルはその顔を見てビックリしてしまった。なぜなら、彼女もシオンと同様にお菓子まみれになっていたからだ。
「ぶはははは!!」
大爆笑のシオン。だが、自身も服からボロボロとお菓子クズが溢れている。
「え?え?なんです?なんか変な顔してます?」
状況が分からない紅緋は、オロオロとし始める。
「紅緋ちゃんもこれ、使おうね・・・。」
「あ・・・。」
トヲルにティッシュを渡され、紅緋もようやっと意味を理解した。彼女はあまりお菓子を食べたことがないと言っていたので、おそらく食べるのも不慣れだったのだろう。さすがにそれを笑うのは、かわいそうだ。
「オイ、シオン。オマエは笑う資格ないぞ。・・・って言った側から、またボロボロ落としてんじゃねぇ!!」
「ふっはははふがっ・・・、んがっ・・・、トヲルぅ・・・。」
お菓子を食べながら爆笑したシオンは、喉を詰まらせたようだ。先ほどまで飲んでいたコーラは飲み干してしまったので、袋の中から別の飲み物を探している。青い顔をして必死だ。
シオンはなんとか飲み物を発見し、喉の詰まりを解消させる。
「ぐは・・・。死ぬかと思った。で、トヲルもちゃんとギガント戦見とけよ。これからデビューなんだから。」
「分かってるよ・・・。」
「え?トヲルさん、ランキング参戦するんですか?」
「え、あ、うん。」
「いつです?応援行きますよ。」
「えっと、いつだろう。」
「もうそろそろ通知来るんでない?」
「そうなのか。・・・って言った側から、なんか通知。・・・って、ホントに来た。何このタイミング。」
「え、いつですか?相手は・・・?」
「ああ、えっと、1週間後だな。相手は、エル、ドラード・・・?なんか聞いたことがあるような・・・。」
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