6-2

トヲルは、シオンとの待ち合わせ場所へ着いた。


そこは例のビルの屋上。ギガント観戦用に、シオンが見つけた穴場だ。滅多に人は来ない。シオンは、トヲルを見かけると元気に手を振ってきた。


「お、来たな。遅いぞ!・・・って、何でだよ!女連れかよ!・・・まったくトヲルちゃん様はいいご身分ですなぁ。」


トヲルの隣には、紅緋べにひがいた。


「茶化すな。そういうんじゃない。」


「あ、あのすみません、お邪魔して・・・。」


紅緋は、初対面のシオンにお辞儀をした。


シオンはというと、ビルの屋上にレジャーシートを敷いて、すっかり行楽気分だ。一応、クッション材を敷いてるようで、思ったよりは快適そうだ。


シオンは、紅緋にニッコリと微笑みを返す。


「あは!いや、いいのいいの。可愛い女の子ちゃんなら、もう大歓迎!・・・あ、なんなら、トヲルちゃんはもう帰ってもいいよ?」


「何でだよ!・・・メッセでもちょっと言ったけど、オマエの情報屋としての力を貸して欲しいんだよ。彼女がその依頼人だ。頼めるか?」


「えー?どうしよう?この前、トヲルちゃんには断られちゃったしなぁ。」


「うっ・・・。」


それはクラン長の件だ。勝手にランキング戦を申し込んだことは、もうしょうがない。だが、クラン長は別だ。そんなに簡単に引き受けられるものではない。なによりトヲルは初心者で、自分のことで手一杯なのだ。


乗り気じゃなさそうなシオンに、紅緋はおずおずと口を開く。


「あ、あの・・・。私、お金なら少し・・・。」


「ああ、いいのいいの。そういうのはトヲルちゃんからもらうから。」


「でも・・・。」


「あー、トヲルちゃんがクラン長やってくれればなぁ。全部解決すんのになぁ。あーどうしよっかなぁー。」


「オマエ、ちょっと性格悪いぞ・・・。」


「失礼だな。ちょっとじゃないぞ。・・・と、まぁ冗談はさておき。内容を聞いてからだな。そもそも俺にできる範疇かどうか。」


「情報屋だろ?なんでも拾ってこいよ。」


「あのね、トヲルちゃん。この世に100%なんてことはないんだよ?それに情報ってのは金がかかる。仕入れるのだって、タダじゃない。それが、ちょっと頑張れば、程度ならいいけどね。無尽蔵にはお金使えないでしょ?」


「まぁそうだな、分かった。とりあえずは、彼女のことを紹介しとくよ。彼女は紅緋さん。中学生だ。」


「オマエ、JCに・・・。」


「そういうのイイから。最近ちょっとあって、知り合ってな・・・。」


「紅緋と言います。初めまして、よろしくお願いします。実は私、トヲルさんに助けてもらったんです。」


「え!?」


助けた、という言葉に反応するシオン。だが、トヲルの表情は微妙だ。


「いや、助けたというか・・・。」


「トヲルさん!それはもういいんです!」


「え、あ、そう・・・。」


シオンは、トヲルらの微妙な距離感に色々と察してしまった


「そうなんだね。俺はシオン、トヲルちゃんの親友さ!」


「・・・親友ではないな。」


一応、ツッコむトヲル。シオンはそれをサッと流し、話を続ける。


「で、人探しだっけ?・・・って、紅緋ちゃんもシルフ連れてるんだね。」


「ああ、はい。この子は釘姫くぎひめと言います。」


釘姫は紅緋に紹介され、にこやかに笑い、軽くお辞儀をする。


「釘姫と申します。紅緋と仲良くしてあげて下さい。・・・この子は、どうにもお友達を作るのが苦手で・・・。」


「ちょっと、釘姫!余計なこと言わないで!!」


アワアワとする紅緋。シオンは、その光景に思わずニッコリと微笑む。


「そうか、よろしくね。俺の、この子は瑤姫ようきちゃん。仲良くしてあげてね。」


瑤姫は、にっこりと微笑んでお辞儀する。紅緋も微笑み返す。


「あ、よろしくお願いします。上品で、素敵なシルフさんですね!」


紅緋らは、瑤姫が猫をかぶってることに暫く気が付かないだろう。シオンは新しい出会いにニコニコとしながらも、少しだけ商売っ気をチラつかせた。


「そっかそっか。俺、そっちの商売もしてるからさ。必要なものがあったら言ってよ。・・・でも、釘姫とは思い切った名前だね。ファンなのかな?強いから、憧れちゃうのはしょうがないけどね。ははは。」


「ファン・・・?他にも、釘姫というシルフがいるんですか?」


「・・・。」


真顔のシオン。ちらりとトヲルの顔を見た。そして、紅緋を見る。


「・・・え?本物・・・、じゃないよね?」


「本物・・・、ですか?偽物がいるんです?」


「・・・。」


シオンは、再びトヲルの顔を見る。


「あの・・・。赤い機体?」


「はい。」


「敏捷性特化で?」


「え、っとはい。」


「刀使いの?」


「え・・・?そうです、はい。・・・釘姫のこと、ご存知なんですか?」


「あの上位ランカーの?」


「ああ、それは気が付いたら、そうなってたというか・・・。」


シオンはまたトヲルの顔を見た。さすがにトヲルも口を開く。


「なんでさっきから、俺の顔チラチラ見るんだよ・・・。本人も言ってるだろ、本物だって。彼女が、その釘姫とそのマスターご本人らしいよ。」


「ええええっ!!?ホンモノの釘姫!!?」


シオンはあらん限りに驚いた。そして、紅緋の手を取った。


「お、俺、ファンなんです!!サインください!!」


「オマエがファンなのかよ・・・。それで、彼女が人探してるから、頼みたいんだけどさ。金かかりそうか?」


「うーん、そうなぁ・・・。」


「言っておくが、俺はクラン長なんてやらんぞ?金は足りなければ、俺も少しなら出せるけど・・・。」


「ああ、いいよいいよ、タダで。あの釘姫のマスターから金は取れんて!!」


デレッデレでニコニコのシオン。トヲルは呆れ果て、空を眺めていた。

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