5-3

いつもの公園。


トヲルが難しい顔をしているので、シオンは顔を覗き込んだ。


「なに、どうしたの?眉間に皺寄せて。悩めるお年頃?」


「年はオマエも一緒だろうが。」


シオンは、トヲルにこっそりと耳打ちしてきた。


「なぁ、なぁ。例の件どうなったよ?暗黒ちゃんのさ。2000万円の。・・・なんか進展あった?」


「別に・・・。」


口を尖らせたように、そっぽを向くトヲル。シオンは小さくため息を吐く。


「なんだよぉ?なんか悩んでんなら聞いてやるぜ?ほらほら、親友に相談してみなよ、青春の1ページっぽくさぁ。減るもんじゃないし。な?な?」


「別にそういうんじゃないよ。・・・それから、親友ではない。」


「またまたぁ。トヲルちゃん、照れんなって。」


「ああもう!放っておいてくれ!」


トヲルは、腕を大げさに振って拒絶する。実はこの時、未だに紅緋とのやりとりを引きずっていたのだ。


さすがのシオンも、これ以上茶化すと面倒そうだと諦める。その場には、アナトと暗黒もいた。だが、暗黒の方も、少々不貞腐れたような顔をしていた。


「暗黒ちゃんも機嫌悪そうね。」


「私は悪くない。私を置き去りにしたアイツが悪いんだ。」


「置き去り・・・?」


暗黒は、ツンとして目を合わさない。シオンはアナトに問いかける。


「アナトちゃん、なんかあったの?二人・・・、なんか・・・、ねぇ?」


「えっと、あのそのぅ・・・、実は昨日・・・。」


アナトが何か言いかけたが、トヲルがそれを止める。


「アナト。余計なこと言うな。」


「あ、はい・・・。」


内容は分からないが、事情を察するシオン。


「ふぅん・・・。」


ションボリとするアナト。彼女に聞いても、これ以上は何も出てこないだろう。いつになくしょげているので、さすがの瑤姫もアナトの頭をポンポンと優しく撫でる。アナトは少し泣きそうだ。


「ふむ・・・。」


シオンは何か考えて、その場から立ち去る。だが、すぐに戻ってきた。


「ほらよ。」


シオンは、トヲルに何かを放って寄越した。トヲルは慌ててそれをキャッチする。


「オ、オイ、なんだよ。・・・熱っ!?あっつい!?ちょっ!?オマエ!?」


トヲルが受け取ったのは、温かい汁粉しるこ缶だった。ガンガンに熱せられており、普通に持つことができないほどだ。トヲルはそれをお手玉するように、両手でアワアワとする。


そんなトヲルの様子を見ながら、シオンは冷たい缶ジュースをあおる。


「それ飲んで、ちょっと冷静になれ。」


「いや、差し入れすんなら、同じ冷たいもん買ってこいよ!なんでこの時期に汁粉なんだよ!というか、なんでこんなあったかいの売って・・・、って熱い!!熱過ぎる!!持てない!!なにこれ、どういうことなの!?」


「それさ、最近発見したのよ。あっこの自販機、なんでかあったかいの売っててさ。温度設定間違ってんのか、そんなの出てくんのよ。面白いよなぁ。けど俺は、そんなクソ熱いの飲みたくないし。」


「だったら、俺にも買ってくんなよ・・・。」


「まぁ、何があったか知らんけど。そう言う時は、温かくて甘いもんでも摂ってさ。ほっこりしようぜ?」


「・・・。」


シオンは嫌なヤツではない。ただ単に、悪ふざけが過ぎるだけだ。


そんな彼がこういう気の使い方をするということは、自分は相当感じが悪かったのだろうと気付く。トヲルは、少しだけ冷静になった気がした。


トヲルは缶を開け、シオンに促されるままに汁粉を一口含む。


「・・・だっ!っつい!!!!!」


案の定火傷した。



シオンが思い出したように、暗黒に話しかける。


「やっぱさ、俺が思うに・・・。暗黒ちゃんはさ、ネクタル不足だと思うのよ。」


それは、暗黒がギガント化できない原因についてだ。何度挑戦しても、一向に成功しない。何かが足りないというのは明らかだった。


シオンとしては、できるだけ早く2000万円級の情報を掴みたい。だが、暗黒の今の状況は芳しくない。下手に聞き出そうとしても、心象は悪くなってしまうことだろう。ここはまず、彼女の機嫌を取るべきなのだ。


暗黒は、トヲルをちらりと見た。


「・・・まぁ言いたいことは分かる。コイツと一つになれ、と言うのだろう?」


「まぁ一番早いのは、トヲルちゃんとリンクしちゃえばいいのは確かだね。」


トヲルは、ちらりとアナトに視線を移す。


「でも、俺にはもうアナトがいるしなぁ。」


「ご主人様ぁ・・・。」


トヲルとしては、2人同時にリンクできるものなのか分からなかった。もちろん、そこに他意はない。だが、アナトはトヲルの言葉を都合よく理解したようで、若干ウルウルとした目でうっとりしている。


「あ、いや。なんかオマエ、勘違いして・・・。」


「まぁまぁ。」


シオンは、その勘違いを敢えて否定しない。


「もちろん俺だって、トヲルちゃんがアナトちゃんをどんなに大事に思っているか、それぐらい知ってるよ。」


「え?・・・あ、ああ?」


トヲルは、"コイツ何言ってんだ?"という表情でシオンを見つめる。だが、その意図は、アナトの表情を見て理解した。


「う、ん・・・、まぁな。」


「ご主人様ぁ!!」


「だぁ!!オマエ、だから近いんだって!!」


アナトは、トヲルにギュウギュウにくっ付く。トヲルはアワアワしてしまう。そして、そんな二人を尻目に、シオンは淡々と話し続ける。


「・・・で、だ。結論から言うと・・・、二人目オッケーで〜す!!な、なんとっ!トヲルちゃんには、第二夫人が作れます!!」


「「え?」」


トヲルとアナトは、ポカーンとした表情だ。暗黒はシオンの言葉通りに受け取り、ギリギリと歯を食いしばる。


「くっ!?ギガントに戻りたければ、此奴こやつの嫁になれというのかっ!?」


ハッとした表情のアナト。


「え!?ボクって、ご主人様のお嫁さんだったんですか!?」


うんざりした表情のトヲル。


「・・・うん、いや、シオン。ややこしいことを言うな。要はそれ、ただ単に2人目のリンクできるよ、ってだけの話だろ?」


だが、アナトや暗黒には、もうトヲルの話は耳に入らない。彼女らの中では、夫人やら嫁やら、そんな内容が一人歩きをし始めていた。


「そ、そっかー、ボク、お嫁さんだったのかぁ。知らなかったなぁ。どうしよう。ご主人様は、ボ、ボクなんかでいいんですか・・・?ボク、お料理とかできないですけど・・・。え、えへへ・・・。」


「くっ!?しかも第二夫人だとっ!?戦士の私が!?夫人・・・。せめて第一じゃないと・・・。いや待て、騙されるな!!そう言う問題では・・・っ!!」


「話聞かないやつしかいねぇ・・・。」


「というわけで、暗黒ちゃん。まずはトヲルとリンクしてみようよ。第二夫人だっていいじゃない!」


「だからオマエは、それ以上余計なことを言うな。」


ニヤニヤとするシオンと、収拾のつかない状況に狼狽えるトヲル。だが、瑤姫ようきの視線は冷ややかだった。


「へぇ、私は主様あるじさまのお嫁さんだったんですね。まっっっっっっったく、知りませんでしたわ・・・。へぇ・・・、へぇ・・・?」


シオンは、瑤姫にバシバシと殴られていた。

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