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突如現れた白い制服の男は、意図も容易くゴロツキの一人をねじ伏せてしまった。ミツオは慌てて、咄嗟にその男に掴みかかる。


「な、なっ!?何だオマエ!?邪魔、・・・・・・あふ。」


突然、気の抜けたような声を出すミツオ。彼もまた、いつの間にか地面に転がされていた。それは痛みもなく脱力したように、まるで自分からうつ伏せになったような感覚だった。ミツオは大いに戸惑った。


「え?なんだこれ?・・・この、オマ、・・・・・・おふ。」


ミツオは、そこから立ち上がろうとした。だがその瞬間、ふわりとした感覚の後に、再び地面に転がされてしまった。あらん限りに狼狽えるミツオ。


「な・・・っ!?ああ!?オ、オマエ、何をした!?もしかして魔法か!?」


「ち、違うッス、ミツオくん!!たぶん、合気道ッスよ!!」


ミツオの腰巾着である小男も、その光景が信じられなかった。


ガタイのいいミツオを、まるで羽布団のようにふわりと転がしてしまったのだ。魔法などと馬鹿げた話だ。だが、その光景を実際に目撃してしまうと、あながち大袈裟ではないように思えてしまう。


「古武術だよ。・・・少々マイナーだけどね。」


白い制服の男は、たった一人であった。しかし、ゴロツキたちに囲まれていても、何一つ動じる様子はなかった。


「手加減してあげてるんだよ。力の差は理解できたよね?この辺で退いてくれないかな。暴力は好きじゃない。出来れば傷付けたくないんだ。」


「ああ、そうかいそうかい。でも残念だなっ!!俺たちは、それが大好きなんだよ!!・・・・・・あふ。」


ミツオは立ちあがろうとすると、再び投げ飛ばされた。だが、叩きつけられるわけでもなく、ふわりと転がされるだけ。一体どれほど力量に差があれば、こんなことができるのか。徹底的に手加減されているのは、紛れもない事実だ


ミツオは最早、立ち上がることすらも出来ない。


「オ、オマエら!!いい加減見てないで助けろ!!いいか!?コイツを生きて帰す、・・・・・・ふあ。」


ミツオは叫びながら立ち上がるが、またふわりと転がされてしまう。


「このガキぃ!!」


10人ほどのゴロツキどもが、一斉に掴みかかる。だが、誰も白制服の男を捕まえられない。彼らもまた羽布団のように、ふわりふわりと転がされてしまう。


喚くミツオ。


「オ、オマエぇ!!ひ、卑怯だぞぉ!!?」


それに対し、白制服の男は淡々と正論を返す。


「キミの卑怯の定義は分からないけど、どうだったら卑怯じゃないのかな?ボクには、寄ってたかって女の子をいじめる方が、余程卑怯に思えるのだけど。」


「え・・・?えっとぉ・・・?」


そのあまりの正論に、ミツオもすぐに返答できない。しかも、ゴロツキども全員を投げ飛ばしたというのに、白制服の男は息一つ乱れていない。


「あ、あの・・・。」


紅緋は恐る恐る口を開く。


突如現れたこの白制服の男は、紅緋らを守ってくれている。だが、目の前のあまりにも現実離れした一方的な状況に、正直戸惑っていた。


紅緋にちらりと視線を移し、白制服の男は優しく語りかける。


「もう安心していい。彼らはもう、キミに近付くことすらできないからね。・・・キミたちはギガント使いか。大方、シルフを見られて絡まれたんだろう?そういうものは、あまり人目のつくところで出すべきではないかな。」


「貴方も・・・、ギガントマキアを・・・?」


「嗜む程度・・・、だけどね。」


紅緋と白制服の男の会話を聞いて、ミツオはニヤリとほくそ笑む。


「オマエ、ギガントを使うのか!?よし、ならギガント戦だ!!正々堂々とギガントで勝敗を決めようじゃない、・・・・・・おふ。」


「ああ、ごめんごめん。またキミ、勝手に立ちあがろうとするから、投げちゃった。つい、ね。・・・それで、なんだって?」


「と、とにかくギガントで勝負だ!!男と男の勝負だ!!」


「ギガントで勝負か・・・。」


「なんだぁ!?怖気付いたのか!?今更謝っても、・・・・・・おふ。」


「だから、ボクの許可なく立たないでくれるかな?それともキミは、それなりに痛めつけないとダメなタイプなんだろうか?」


「逃げんのか!?ギガント勝負から!俺のギガントに負けるのが怖いか!?」


「別に怖くはないよ。ただ無駄なことが嫌いなだけだ。そもそもボクが、わざわざギガントで勝負する必要性がない。」


「なら、こういうのはどうだ!?俺が勝ったら、オマエの全財産を寄越せ!でももしオマエが勝ったら、俺の仲間にしてやる!どうだ!!良い話だろ!?」


「・・・理解し難い思考だな。どちらもボクにメリットがない。そもそもキミを圧倒できている時点で、ボクにはわざわざ勝負する理由もない。」


「くっ、しょうがねぇ。ならオマエが勝ったら、今後二度とオマエらには絡まない。・・・それでどうだ?」


「なるほど。それならメリットはあるかな。ボクの不在時に、また彼女にちょっかい出されても困るしね。まぁ、それをキミが守る保証はないけども。」


ミツオは、再び転がされないかビクビクとしながら立ち上がる。そしてゆっくりと懐から、シルフのカードを取り出した。


「男に二言は無ぇ!!俺と戦え!!さぁ、出せ!!テメェのシルフを!!」


「いいよ。さぁやろうか。」


白制服の男も、シルフのカードを取り出す。それを見て、ミツオはニヤリと笑った。そして、カードを空高く掲げて叫ぶ。


「後悔すんなよ!?来い!エルドラード!!コイツのギガントをぶっ殺せ!!」


白制服の男もカードに囁く。


「さぁおいで。出番だよ、ランスロット。」


白制服の男と、ミツオは互いにシルフを呼び出した。


ミツオのシルフは、ウェーブのかかった長い金髪の女性だった。彼女は現れるなり、舌打ちをする。そして、噛み締めるように、怒りの表情に変わる。


「オイ、ミツオ。クズのくせに、オレ様に命令すんじゃねぇ!!テメェ、このオレ様を呼び出したってことは、ぶっ殺されたいやつがいるんだろうな!?また弱ぇヤツだったら、テメェぶっ殺すぞ、ボケェ!!?」


「ああ。グチャミソにやれ。もう再起不能なくらいにだ。開いた口が塞がらないように、ガタガタにしてしまえ。」


「ああん!?なんだテメェその口の聞き方は!?いつもオレ様に命令すんなっつってんだろうが、ボケがぁ!!?」


「だ、だから、オレがマスターだって、いっつも言ってんだろうが!?」


「ああん!?だからなんだ!?オレ様が戦わなかったら、テメェ勝てると思ってのか、コラァ!!?」


そして、白制服の男のシルフは、短い黒髪の女性だった。その所作は上品であり、マスターに対する敬意が見てとれた。彼女の存在は、ミツオのシルフとはあまりにも対照的で洗練されていた。


「ましろ様、罷り越しました。・・・いかように?」


「軽くあしらってくれればいい。いつものように、武器は使っちゃダメだよ?」


白制服の男は、あの"白銀のアーサー"を使役する"ましろ"だった。

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