4-3

暗黒は、スッとミツオへ向き直る。そして、諭すようにゆっくり口を開く。


「貴様ら・・・、この娘に何をしている?」


「誰だ、オマエ?」


「・・・よくもまぁこんなことを。男の風上にも置けない。醜悪な奴らめ。」


「はぁ!?オマエ、喧嘩売ってんのか!?」


ミツオは、苛立つように暗黒を睨みつける。暗黒もミツオの前に進み出て、同じように睨みつけた。周りのゴロツキたちの視線も、自然と暗黒へと集まる。


だが、そこに場違いな男が入ってきた。


「だぁ!!?オマエ勝手にどこへ行っ・・・、って・・・、え?」


その状況に困惑する男。・・・トヲルだった。


なにせガラの悪い男たちに、暗黒が囲まれている状態だ。そして、その中心で男と睨み合っている。状況が分からない。困惑してしまう。


「・・・あ、いえ。ごめんなさい・・・。」


そう言ってトヲルは、後退りしていった。


暗黒は叫んだ。


「醜悪な者共!私が直々に痛めつけてやろうか!?さぁ、かかってこい!」


ミツオらの視線は、再び一斉に暗黒へと集まった。


「ああん!?調子に乗ってんじゃねぇぞ!?」


ゴロツキたちがガヤガヤと喚きながら、暗黒を取り囲んでいる。そして、ミツオが暗黒を掴む。・・・だが、その手は空を切り、バランスを崩してしまう。


「うお!?・・・あ、あれ?オ、オマエもシルフちゃんか!?」


「だったらなんだ!?シルフが相手じゃ喧嘩もできないのか!?ああ、たしかに貴様は弱そうだ。か弱い女の子しか攻撃できないのだろう?情けない!」


「オマエ!!こっちが触れないからって、イイ気になりやがって!!・・・オイ、コイツのマスターを探せ!!」


辺りを見回すゴロツキたち。だが、その時、一人の男があることに気付く。


「なぁ、オイ。さっきの女の子・・・。釘姫がいねぇ!!どっか行ったぞ!?」


「はぁ!?・・・え、ああ!!?」


ゴロツキたち全員でグルグルと見回すが、暗黒のマスターどころか、釘姫も、そのマスターの少女もいないのだ。ミツオは慌てて叫んだ。


「な!?もしかして、オマエ、囮か!?さっきのヤツがマスターじゃ・・・?オイ、探せ!!まだ近くにいるはずだ!!」


「なっ!?わ、私が囮だとぉ!?失礼なことを言うな!!・・・って、貴様ら!!どこへ行くっ!?私を無視するなっ!!」


暗黒は叫ぶが、もう誰も相手にしない。そうして、ゴロツキたちは暗黒を放置したまま、先ほどの少女を探しに街へと散っていった。



トヲルは見知らぬ少女を連れ、街を逃げていた。


それは偶然だった。街中で不意に暗黒が居なくなり探したところ、物騒な状況に遭遇してしまった。そして、そこに少女がいた。暗黒に注意が集まっていたので、トヲルはその隙に少女を連れて逃げたのだ。


「はぁはぁ・・・。」


少女は息を切らしており、表情も暗い。その様子を見て、彼女のシルフが心配そうに寄り添う。あんな状況にいたのだ。無理もないだろう。


「彼女、大丈夫でしょうか・・・?」


アナトも不安そうだった。それに、さっきの場所に暗黒を置いてきてしまった。大丈夫だとは思うが、どこかのタイミングで回収しなくてはいけない。


トヲルらに、少女のシルフが話しかけてきた。


「あの・・・、ありがとうございます。私は釘姫。そしてこの子は紅緋と言います。なんとお礼を言って良いやら・・・。」


「いや、そんなこと。それに、まだ安全ってわけじゃないから・・・。」


トヲルは交番を探す。


だが、記憶が確かなら、一番近いところでもかなり遠い。どちらにせよ、安全にそこまで到達できそうもなかった。どこか良い場所はないかと、トヲルは周囲を見渡した。そして、近くにカフェを見つける。


「よし、とりあえずはどこか店に入ろう。とにかく今はやり過ごすんだ。そして、警察を呼んでもらおう。」


「警察!?・・・ダメです!!警察は・・・っ!」


「ええ!?なんで!?キミは一体・・・?」


「シルフを連れているということは、貴方もそうなんですよね?お願いします、警察はダメなんです・・・。」


「未承認のゲームだし、それは理解できるけど・・・。今はそんなこと言ってられないだろ!?あんなのに目をつけられちゃ・・・。」


「ダメなんです!こんなことしてるって、家に知られたら・・・。」


トヲルから見ても、彼女は明らかに憔悴していた。見たところ、怪我をしているようには見えないが・・・。しかし、あんな怖い思いをしてまで、意地を張るようなものなのだろうか。安全を考えるなら、今すぐ警察に駆け込むべきだ。


「でも・・・、このままじゃキミは・・・。」


トヲルが紅緋を説得しようとした時、不意に大声が響いた。


「オイ、オマエ!!見つけたぞ!!逃げんな!!」


あのゴロツキたちだった。紅緋に掴みかかろうとする。


「クソッ!!もう来たのか!?」


トヲルはそれを庇い、逆にゴロツキを押し倒した。


「ぐあ!?」


とにかく今は、彼女を逃すことが先決だった。


「さぁ、早く。とにかく今は逃げるしかない!」



結局、トヲルたちは、人気のない路地に追い詰められてしまっていた。


ゴロツキたちの数は予想よりも多かった。トヲルと紅緋は、すでに再び囲まれてしまった。息も絶え絶えの二人。もはや絶望的な状況だった。


ミツオはニヤニヤしながら、トヲルにも語りかける。


「オマエも、俺の手下になりたいみたいだなぁ?」


それは脅しだった。


だが、偉そうにしてはいるものの、ミツオも肩で息をしていた。運動なんて最近まともにしていないので、汗だくで金髪も肌に張り付いてしまっている。


だがその時、見知らぬ男が現れた。ゴロツキのひとりが、その男の肩を掴む。


「なんだぁ、オマエ?目見えてんのか?さっさとどっかに・・・。」


そう言ったゴロツキは、次の瞬間、地面に突っ伏していた。


「なっ!?なんだ、どうした!?」


どよめくゴロツキたち。


その男は、紅緋に優しく声をかけた。


「・・・キミ、助けはいるかい?」


紅緋の知らない男。彼は、見覚えのある名門高校の白い制服を着ていた。

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