4-2
その少女は、必死に逃げていた。息を切らし、路地裏を素早く走り抜けていく。
「はぁはぁ・・・。」
だが、少女の視線の先。そこには、ガラの悪い男たちがいた。その中の一人が、少女を発見すると叫んだ。
「いた!!オイ、逃げんな!・・・って、なっ!?」
少女は、男の傍を滑るようにすり抜けてしまった。
男は少女を掴み損ね、バランスを崩し転んだ。その後も、少女はまるでサッカーかアメフトの選手のように、男たちの間をスルリとすり抜けていく。
しかし、多勢に無勢。必死の逃走も、結末の先延ばしでしかなかった。結局、少女は人気のない路地裏に誘い込まれてしまう。今はもう、ゴロツキたち10人ほどに囲まれ、少女一人ではどうしようもない状況だった。
ゴロツキたちの中から、金髪の男が進み出る。
「オマエ、さっき
少女の肩にグッと力が入る。彼女の不用意な言葉が、たまたま通りがかった彼らの耳に入ってしまったのだ。少女の隣のシルフも、同じように身構えている。
男は、チラリとそのシルフに視線を移す。
「オマエの、その隣のやつがそうなんだろ?つまり、オマエがマスター様ってわけだ。なぁ?俺って頭イイだろ?ピンときたのよ。どうだ俺の推理力。ビビビっときたんだぜぇ!?・・・オマエらもそう思うよな?なぁ!?」
「そ、そうッスね!ミツオくんは名探偵ッス!!賢いッス!!」
金髪男"ミツオ"の隣の小男は、相槌を打つように返事する。
その少女は
名門中学に通う女子中学生で、あの赤いギガント"釘姫"のマスターだ。そして、彼女のすぐ隣には、ふわふわと中空を漂うシルフの釘姫がいた。
だが、男の言葉に対して、紅緋は必死に誤魔化した。
「言ってないです!・・・く、・・・く、クリーム!!そうだ、クリームって言ったんです!!」
有名ランカーだと知られれば、どんな嫌がらせをされるか分かったものではない。それにギガント戦では、マスターの所在を知られることは大きなハンデとなる。身バレしないに越したことはないのだ。
「クリーム・・・?ああん!?そんな美味しそうな名前じゃなかったろうがよぉ!!そんなふわトロだったかよぉ!?なぁ!?」
「そ、そうッスね!美味しそうッス!!帰りにスカルキッチン寄っちゃいっましょうか!?デスパフェ、ずんだ餅トッピング、クリームマシマシで!!」
"スカルキッチン"というのは、ミツオら御用達のデザート店だ。内装は骸骨・鎖・鋲など禍々しいデザインで、出てくるものもエグい見た目のものばかり。なお、味に関しては、涎が止まらなくなるほどに激甘である。
ミツオはスカルキッチンのデザートを思い出し、少しヨダレが垂れそうになった。そして、慌てて口を閉じ、手で唇を拭う。
「別に俺はよ、嬢ちゃんにエロいことしようってんじゃないんだぜ?あの釘姫だっていうならよ。俺とやろうぜ、ギガント戦。もちろん正々堂々とな。」
ミツオは口角を上げ、ニヤリと笑った。周りの男たちもニヤニヤと笑っている。だが、紅緋にはどう考えても、彼らが正々堂々と戦うイメージは湧かなかった。おそらくは、何らかの物理的な妨害があるのだろう。
釘姫は紅緋を庇い、ミツオの前に立ち塞がった。
「お、脅しですか!?貴方たちは、それでも男ですか!?いい大人が寄ってたかって!相手はか弱い女の子ですよ!?恥を知りなさい!!」
「ああ、コイツ!うるせぇシルフちゃんだな!どけぇ!!」
ミツオは手で振り払うように、釘姫の姿を右手で押し退ける。
だが、彼女は仮想空間の住人であり、触れた部分しか掻き消えない。それからミツオは、まるで蜘蛛の巣のように釘姫を振り払う。そして、紅緋の肩を掴んだ。
「なぁ?ちょっとだけだって。・・・で、大事なのはそっからよ。俺が勝ったら、オマエの全財産寄越せ。もしもオマエが勝ったら、俺のクランに入れてやるよ。どうだ、悪い話じゃないだろ?俺って頭イイだろ?なぁ?」
「それって、どっちも・・・。」
紅緋は、ミツオが触れられた部分に不快感を感じた。だが、その腕を振り払っても逃げることはできないだろう。もう囲まれているのだから。
「なぁ?俺って優しいだろ?本当は乱暴にすることだってできるんだ。・・・でもそんなことはしない。俺は優しいからな。・・・まだ今は、・・・な?」
そして、ミツオの手にグッと力が入る。それは痛みがあるほどではない。だが、紅緋にとっては、ただただ不快だった。
「ああ、紅緋!!逃げて!!紅緋ぃ!!紅緋ぃ!!」
釘姫は必死で男に掴みかかる。だが、釘姫の手は宙を掻き、何も掴めない。釘姫の目には、悔しさから涙が溢れてきた。
「クッ!!このぉ!!この、このぉ!!!やめ、やめなさい!!・・・やめて、お願い!!やめてぇ!!!」
叫んでも、手を伸ばしても。残念ながら、今の彼女には何の影響力もない。釘姫は叫ぶ。・・・それは泣き喚くように。
「誰か!!誰か!!お願いします!!誰か助けて!!」
だが、誰も来ない。それもそのはず、紅緋を取り囲んでいるのは、街のゴロツキだ。通りを歩いている者たちは、たとえその声が聞こえたとしても、関わり合いになりたくないだろう。
・・・しかし、その時。
紅緋の前に突如女性が現れた。その美しい黒髪の女性は、じっと紅緋を見つめる。その目には優しさと共に、怒りの炎が灯っていた。
「・・・あ、貴方は・・・?」
その見覚えのない女性に、紅緋は戸惑った。
黒髪の女性は、紅緋に向かって手を伸ばす。そして、頬にやさしく触れる。紅緋は思わず目を瞑ってしまい、彼女の身体は硬直する。
しかし、女性に触れられた感触はなかった。それは、目の前の女性が、現実の存在ではないことを示す。紅緋は驚き、思わず声に出してしまう。
「シル・・・、フ・・・?」
その黒髪の女性は、あの"
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