3-4
シオンは、さっそく金に目が眩んでいた。
「いや、ちゃんと確かめようぜ。懸賞金、情報提供だけでも10万とかだぞ?捕まえたら2000万!!この子連れてくだけで、2000万も貰えるんだぞ!?」
「た、たしかにそりゃ、この子が黒騎士ならな。けど・・・。」
トヲルはシオンを宥めながら、暗黒を見る。
相手は美しい女性の姿ではあるが、ただの電子データ上の存在でしかない。項垂れた彼女の表情も、所詮プログラムの一つなのだ。そう見せているだけで、そこに人間的な感情など存在しない。・・・存在しないはずなのだが・・・。
「いやダメだ。彼女を売るなんて、俺にはそんなことできない。」
「えー!?何言っちゃってんの!?2000万だぞ!?そんだけあれば、アナトちゃん超強化で、ランキング上位も見えてくるんだぞ?」
「うっ!?」
トヲルは少しだけ揺れ動く。
とにかく金がない。だが金さえあれば、バイト漬けの生活もやめられるし、進学だってできる。もしかしたら、ランキングだけで食っていける可能性も。そのためには、最初の金がいる。・・・ランキングを勝ち抜くための金が。
シオンは、畳み掛けるように揺さぶってくる。
「バイトしなくて良くなったら、永遠ちゃんともっと一緒にいられるだろうなぁ〜。あの子、身体弱いんだろ?いつも家にひとりきり。きっと心細いだろうなぁ。お兄ちゃん、早く帰ってこないかなー、ってさ。」
「・・・。」
頭を抱えるトヲル。答えなど疾うに決まっている。だが、それでも迷いはある。それは人である以上、どんな時でもそういった葛藤は抱えるのだろう。
・・・しかしトヲルは、それでもその迷いを振り払う。
「売らない。なんかそういうのは、俺の主義に反する。」
「はぁ!?トヲル、オマエ・・・。」
「待て待て。正義感だけとかって話じゃないんだよ。よく考えてみろよ。・・・なんでクラン"白き円環"は、2000万なんて大金かけてんだ?」
「それは、何か因縁があるんじゃ?昨日も戦ってたし。」
「それにさ、暗黒ちゃんの存在ってなんかおかしいだろ?」
「おかしいと言えば・・・、まぁ・・・、な。」
「シルフなのにマスターもいないで、自立してんだぞ?もし彼女がそうなら、あの黒騎士だって・・・。」
「たしかに。」
トヲルがそう決めた以上、シオンは裏切らないだろう。だが、それでも明確な餌はあった方が、より確実だ。暗黒を売らないでいた方が得だ、という餌が。
「要はさ。この子に何か、2000万でも安い秘密があるんじゃないの・・・?」
「なるほど。・・・要するに、俺らでその"2000万以上の何か"を突き止めてやろう、ってことか?」
「そうそう、それよ。大正解。オマエ、天才だな。」
本来、ゲーム内のアバターでしかないシルフやギガント。あくまでもマスターとなるプレイヤーに紐付いてるもので、ペットリソースを間借りしている。
ところが暗黒の存在はイレギュラーだ。特定のプレイヤーとリンクすることなく、自立稼働しているのだ。ペットリソースを利用していない彼女は、そもそもどうやって存在しているのかも不明だった。
「ふはっ!!いいぜ、乗ってやるよ。そっちの方が面白そうだ。」
シオンは拳を突き出す。トヲルはそれに拳をコツンと当てる。
「とりあえず、この子が黒騎士かどうか特定しようぜ。」
「そうだな。全然人違いだったら目も当てられん。」
二人がこそこそと会話してると、暗黒がスッと歩き出した。
「すまない。では私は行く。いずれまたどこかで会おう。恩はその時に。」
慌てるトヲルとシオン。トヲルは急いで呼び止めた。
「ま、待て待て、行くってどこへ?行くところはあるのか?」
「これからまた雪白を探して・・・。」
「それは、目的でしょ?そういうのじゃなくて、休む場所というか。拠点的な意味だよ。」
「そういうものは、特には無いが・・・。」
シオンもアワアワとしながら、なんとか彼女を止める。
「ほ、ほら、雪白?とかいう相手を探すにしても、情報はあるの?無策でしらみつぶしも効率悪いんじゃない?」
「だが・・・、そうは言ってもどうすれば・・・。」
「ああ、そうだ!!自己紹介もしてなかったな。俺、シオンってんだ。これでも情報屋もやってんだよ。だから、ある程度は情報仕入れられるぜ?」
「そんで俺がトヲルだ。・・・な、ならさ。とりあえず家に来ないか?食事だって出せるし。さっきみたいに腹減ったらどうするんだ?」
「うっ!?だが・・・、なぁ・・・。」
「まぁまぁ、とりあえずだよ、とりあえず。差し当たっての行き先も分からないんだろ?こういうのは、善は急げ・・・、じゃなくて急がば回れ、ってさ!」
暗黒は少し考え、答えを出した。
「・・・分かった。貴様らの厚意に甘えよう。」
「「よし!!」」
ガッツポーズのトヲルとシオン。とりあえず暗黒を引き止めることに成功した。あとは、詳しい話を聞き出し、2000万円級の情報を得るだけだ。
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