3-3
いつもの公園。
トヲルらの前には、謎の黒髪のシルフ女性。彼女は"
シオンは暗黒に問いかける。
「それで、暗黒ちゃんは一体どっから来たのよ?」
トヲルも同じように問いかける。
「暗黒ちゃんのマスターはどこにいるの?教えてくれれば、こっちも助かるんだけど・・・。」
「貴様ら、軽々しく"ちゃん"付けするな!!」
「いや、暗黒て。ゴリゴリに厨二病全開な名前だしなぁ。せめて、ちゃん付けして中和しないと。」
「中和するってなんだ!!人の名前を毒みたいに言うな!!と、とにかく、ちゃん付けはやめろ!!」
アナトはグイッと暗黒に近付く。そして、いきなりギュッと抱きしめる。
「ねぇねぇ暗黒ちゃん!ボクとお友達になりませんか?」
「ぐっ!?この子は何なの?馴れ馴れしいっ!距離感おかしいでしょぉ!?」
「ちょっ!?貴様はなんだ!?私の髪に無断で触れるな!・・・もうぉおおお!!貴様ら一体何なんだ!?」
暗黒に、アナトと瑤姫がわちゃわちゃと戯れる。彼女は迷惑そうにしているが、突き放すでもなく、ひらすらアワアワとしている。おそらくは、こういった距離の近いコミュニケーションに不慣れなのだろう。
シオンは、唸るように眉間に皺を寄せる。
「いやぁ、俺らがどうとか。暗黒ちゃんこそ何、どういうアレなのよ。さっきのって、設定ってやつ?厨二病全開過ぎて、頭が追いつかないんだけど?」
「設定じゃない!!」
暗黒は、目を見開き大きな声で否定する。そして、一呼吸し、今度は落ち着いてゆっくりと話し始める。
「・・・それで貴様らは、
トヲルとシオンは顔を見合わせる。
「知らないな。」
「知らん知らん。俺らは倒れてたキミを見つけただけでさ。この・・・、コイツさ。このトヲルが発見してさ。とりあえず保護してただけだよ。」
しょんぼりとする暗黒。
「そうか、分かった。助けてくれたことには感謝する。だが、貴様らとは、これ以上馴れ合う気はない。もう会うこともないだろう。では、さよならだ。」
そう言って暗黒が立ち去ろうとした瞬間、不意に大きな音が鳴った。
ぐうううううう。
・・・それは暗黒の腹の音だった。
*
「お腹空いてるの・・・?」
アナトは、ポケットに入っていた電子みかんを、一つ手に取って見せる。それは、さっきトヲルが渡したものの一つだった。暗黒は、それをチラッと見てそっぽを向く。だが、ごくりと喉を鳴らしてしまう。
「・・・いいえ、気持ちだけで結構。施しは受けない。私は戦士。目的を果たさずして・・・。」
ぐううううううううううううう。
暗黒が話している間も、その腹は鳴くのをやめなかった。アナトは暗黒の手を取り、掌にみかんを乗せてやった。
「ほら、1個だけ。・・・ね?」
「い、いや私はそのような・・・。」
「もう!じゃあ剥いてあげますね。」
アナトはそう言ってみかんの皮を剥いて、実を一つ手にとる。
「あーん。」
「くっ!・・・そんなはしたないことを・・・。ううううう・・・。」
暗黒は何か葛藤しているようだったが、観念してみかんを頬張る。すると、まるでスイッチが入ったかのように目が見開かれる。それから黙々とみかんを食べ始めた暗黒。すぐにみかんを一つ平げてしまった。
ぐううううううううう。
だが、中途半端に食べてしまったせいか、余計に腹が減ってしまう。すると今度は、瑤姫が電子オムライスを出してきた。もはや、暗黒に抗う術はなかった。
黙々とそれを食べる暗黒。
その様子を見て、トヲルはシオンに確認する。
「・・・なぁ、シルフの飯って、ただの嗜好品じゃなかったのか?」
「うーん、まぁそのはずなんだけど。瑤姫ちゃんもそうだけど、腹減り感はあるみたいなんだよね。」
「ああ、そういやアナトも腹減ったって言ってたな。」
「でも、エネルギー的なのは、基本マスターから貰えるネクタルだけのはずだよ。だから、暗黒ちゃんのエネルギーが本当に枯渇してるんなら、マスターからチャージせんと。」
「なるほどな。」
電子オムライスを平げた暗黒。満足そうだ。そしてすかさず、瑤姫はさっと電子緑茶も出した。暗黒はすかさずそれを奪い取り、グイッと喉に流し込む。
「ぷはぁー!」
一息ついてご満悦の暗黒。さっきまでの戦士がどうのというのは、とっくの疾うにもう忘れているようだ。
そんな暗黒に、トヲルは改めて問いかける。
「それで、キミのマスター、・・・ご主人と言えばいいかな。どこにいるんだ?俺は、できればキミを返してあげたいんだよ。」
「・・・
「いない・・・?」
「ああ。・・・だが、一宿一飯の恩義は忘れない。いずれこの恩は。しかし、今は私も急ぎの旅。雪白を討つという使命があるのだ。だから、ご恩返しはその後でも良いか?」
「その雪白ってのは誰なの?・・・どんな人というか。」
「雪白は、我らを陥れた裏切り者だ。今は白い鎧の騎士のような格好をしているようだが、あの剣捌きは彼奴に違いない。しかし、昨日ようやっと相まみえることができたというのに、手も足も・・・。私の剣は、届かなかった。」
「白い鎧の騎士・・・?」
そう言われ、トヲルらの脳裏に浮かんだのは、"白銀のアーサー"だけだった。二人は暗黒を見る。その真剣な表情からは、嘘は言っていないように思える。
「な、なぁ。もしかしてこの子、黒騎士の関係者か・・・?」
「私の剣が、って言ってるんだから、この子がそうなんじゃ・・・?」
トヲルとシオンは顔を見合わせた後、再度暗黒を見た。
「いや・・・、まさか・・・、ね。」
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