3-3

いつもの公園。


トヲルらの前には、謎の黒髪のシルフ女性。彼女は"暗黒あんこく"と名乗った。


シオンは暗黒に問いかける。


「それで、暗黒ちゃんは一体どっから来たのよ?」


トヲルも同じように問いかける。


「暗黒ちゃんのマスターはどこにいるの?教えてくれれば、こっちも助かるんだけど・・・。」


「貴様ら、軽々しく"ちゃん"付けするな!!」


「いや、暗黒て。ゴリゴリに厨二病全開な名前だしなぁ。せめて、ちゃん付けして中和しないと。」


「中和するってなんだ!!人の名前を毒みたいに言うな!!と、とにかく、ちゃん付けはやめろ!!」


アナトはグイッと暗黒に近付く。そして、いきなりギュッと抱きしめる。


「ねぇねぇ暗黒ちゃん!ボクとお友達になりませんか?」


「ぐっ!?この子は何なの?馴れ馴れしいっ!距離感おかしいでしょぉ!?」


瑤姫ようきも近付くが、ニコニコとしながら勝手に髪に触る。そして匂いを嗅ぐ。


「ちょっ!?貴様はなんだ!?私の髪に無断で触れるな!・・・もうぉおおお!!貴様ら一体何なんだ!?」


暗黒に、アナトと瑤姫がわちゃわちゃと戯れる。彼女は迷惑そうにしているが、突き放すでもなく、ひらすらアワアワとしている。おそらくは、こういった距離の近いコミュニケーションに不慣れなのだろう。


シオンは、唸るように眉間に皺を寄せる。


「いやぁ、俺らがどうとか。暗黒ちゃんこそ何、どういうアレなのよ。さっきのって、設定ってやつ?厨二病全開過ぎて、頭が追いつかないんだけど?」


「設定じゃない!!」


暗黒は、目を見開き大きな声で否定する。そして、一呼吸し、今度は落ち着いてゆっくりと話し始める。


「・・・それで貴様らは、雪白ゆきしろを知らないのだな?」


トヲルとシオンは顔を見合わせる。


「知らないな。」


「知らん知らん。俺らは倒れてたキミを見つけただけでさ。この・・・、コイツさ。このトヲルが発見してさ。とりあえず保護してただけだよ。」


しょんぼりとする暗黒。


「そうか、分かった。助けてくれたことには感謝する。だが、貴様らとは、これ以上馴れ合う気はない。もう会うこともないだろう。では、さよならだ。」


そう言って暗黒が立ち去ろうとした瞬間、不意に大きな音が鳴った。


ぐうううううう。


・・・それは暗黒の腹の音だった。



「お腹空いてるの・・・?」


アナトは、ポケットに入っていた電子みかんを、一つ手に取って見せる。それは、さっきトヲルが渡したものの一つだった。暗黒は、それをチラッと見てそっぽを向く。だが、ごくりと喉を鳴らしてしまう。


「・・・いいえ、気持ちだけで結構。施しは受けない。私は戦士。目的を果たさずして・・・。」


ぐううううううううううううう。


暗黒が話している間も、その腹は鳴くのをやめなかった。アナトは暗黒の手を取り、掌にみかんを乗せてやった。


「ほら、1個だけ。・・・ね?」


「い、いや私はそのような・・・。」


「もう!じゃあ剥いてあげますね。」


アナトはそう言ってみかんの皮を剥いて、実を一つ手にとる。


「あーん。」


「くっ!・・・そんなはしたないことを・・・。ううううう・・・。」


暗黒は何か葛藤しているようだったが、観念してみかんを頬張る。すると、まるでスイッチが入ったかのように目が見開かれる。それから黙々とみかんを食べ始めた暗黒。すぐにみかんを一つ平げてしまった。


ぐううううううううう。


だが、中途半端に食べてしまったせいか、余計に腹が減ってしまう。すると今度は、瑤姫が電子オムライスを出してきた。もはや、暗黒に抗う術はなかった。


黙々とそれを食べる暗黒。


その様子を見て、トヲルはシオンに確認する。


「・・・なぁ、シルフの飯って、ただの嗜好品じゃなかったのか?」


「うーん、まぁそのはずなんだけど。瑤姫ちゃんもそうだけど、腹減り感はあるみたいなんだよね。」


「ああ、そういやアナトも腹減ったって言ってたな。」


「でも、エネルギー的なのは、基本マスターから貰えるネクタルだけのはずだよ。だから、暗黒ちゃんのエネルギーが本当に枯渇してるんなら、マスターからチャージせんと。」


「なるほどな。」


電子オムライスを平げた暗黒。満足そうだ。そしてすかさず、瑤姫はさっと電子緑茶も出した。暗黒はすかさずそれを奪い取り、グイッと喉に流し込む。


「ぷはぁー!」


一息ついてご満悦の暗黒。さっきまでの戦士がどうのというのは、とっくの疾うにもう忘れているようだ。


そんな暗黒に、トヲルは改めて問いかける。


「それで、キミのマスター、・・・ご主人と言えばいいかな。どこにいるんだ?俺は、できればキミを返してあげたいんだよ。」


「・・・あるじ、私の主は疾うに・・・。」


「いない・・・?」


「ああ。・・・だが、一宿一飯の恩義は忘れない。いずれこの恩は。しかし、今は私も急ぎの旅。雪白を討つという使命があるのだ。だから、ご恩返しはその後でも良いか?」


「その雪白ってのは誰なの?・・・どんな人というか。」


「雪白は、我らを陥れた裏切り者だ。今は白い鎧の騎士のような格好をしているようだが、あの剣捌きは彼奴に違いない。しかし、昨日ようやっと相まみえることができたというのに、手も足も・・・。私の剣は、届かなかった。」


「白い鎧の騎士・・・?」


そう言われ、トヲルらの脳裏に浮かんだのは、"白銀のアーサー"だけだった。二人は暗黒を見る。その真剣な表情からは、嘘は言っていないように思える。


「な、なぁ。もしかしてこの子、黒騎士の関係者か・・・?」


「私の剣が、って言ってるんだから、この子がそうなんじゃ・・・?」


トヲルとシオンは顔を見合わせた後、再度暗黒を見た。


「いや・・・、まさか・・・、ね。」

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