3-2

次の日。学校終わりの公園。


すでにシオンが来ていて、瑤姫と一緒に何やら店を広げている。シオンはトヲルとアナトの姿に気付くと、手を振ってきた。


「なぁ、オイ。送ったの見たか?」


「ん?ああ、懸賞金のやつ?見たよ。」


トヲルの元には、朝イチでシオンからメッセージが送られてきていた。それは、ギガントマキアに関わる懸賞金の話だった。


「すげぇよな。2000万Gグリードって、どんだけだよって。」


「ああ。」


「・・・興味なさそうだなぁ。何この、俺の空回り感。」


「だって、そのGって貨幣が、どれくらいの価値か知らないし。ギガントマキアの貨幣だよな?リアルマネーだったら、おお!!って思うだろうけど。」


「ああ、そういうこと?・・・それなら、交換レートは1G=1円だよ。」


「はぁ!?」


「だから、黒騎士に2000万円の懸賞金かかってるってこと。シルフかマスターを捕まえろ、ってことみたいだけど。」


「マジか・・・。結局、前回の白騎士とのバトルでは、黒騎士には逃げられたってことなのかね。」


「だろうね。野良じゃ、簡単に逃げられるからな。まぁ、マスターさえ見つけられればいいんだが・・・。マスターは一撃即死するゲームだし、表にはなかなか出てこんよな。見つけるのは、骨が折れるだろうな。」


「それにしてもそんな懸賞金かかるなんて、何やらかしたんだ?というか、そんな大金誰が出すんだよ。」


「"白き円環"だよ。あの白騎士がいるクランだな。なんでそんな大金かけてまでかは知らんけど。・・・ああ、"クラン"ってのは、ギガントマキアのマスターらが集まって作るチームかな。」


「ふぅん。」


「まぁ情報提供だけでも、結構もらえるっぽいからさ。偶然でも何か手がかり見つかれば、ギガント強化の足しになるだろ?」


「情報ねぇ。そんな情報、簡単にゲットできるもんならいいけども。」


「・・・で、昨日のあの子、初期設定はしたんだろうな?」


「え?ああ、してないよ。誰のシルフかも分からんのに。」


トヲルは、昨日拾ったシルフのカードを取り出した。それを、シオンは覗き込むように確認する。


「えー?拾ったんだからオマエのものでいいだろ。ほら、初期設定しようぜ?」


「・・・オマエ、そういう倫理観はどうかと思うよ。今もこの子のことを、探してるマスターがいるかもしれんだろ?」


「そうかぁ?でもマスターが居たとしても、ペットリソースなしでどうやって存在してんだ?根本的に、俺らのシルフとは別モンな気がするんだけどなぁ。」


「だって、オマエ。もしも瑤姫ようきちゃんが同じ状況だったらどうするよ。そして、別の誰かが初期設定してしまったら・・・、どう思う?」


「あー、それは嫌だな。まぁ、でもシルフってペットリソース使って、俺ら自身にリンクしちゃってるしなぁ。野良なんてあり得ないはずなんだけど。・・・まぁ仮にそうなったとしたら、別のシルフ探すしかないよな。」


シオンはそう言った瞬間、自分で気付いたのかハッとした顔をした。案の定、瑤姫はムスッとした顔になった。それからバシバシと叩かれ始めるシオン。


「わっ!?ちょ!!ゴメンて!!冗談だよ、瑤姫ちゃん!!」


叩かれ続ける自業自得なシオンを尻目に、トヲルはカードを見つめる。


「・・・これ、放置してても目覚めるんかな?できれば、設定なしで目覚めるのを待ちたいんだけど。」


「どうだろうな。こういう野良シルフみたいのは、聞いたことないし。設定上は野良ギガントを捕まえてくるらしいけど、シルフ状態でうろつくなんて聞いたことないよ。だから、目覚めるかどうかは正直分からんね。」


「そうか・・・、できれば元のマスターに返してやりたいんだが・・・。」


その時、トヲルが手に持ったそのカードから、何やら物音が聞こえてきた。それは壁を叩くような音と、叫ぶような声だった。


「あれ?なんか・・・、言ってる・・・?」


「起きたのかね。出してみたら?」


「ん?ああ。」


トヲルは、カードの端を指で弾く。そうすると、カードから黒髪のシルフ女性が飛び出してきた。トヲルは女性に話しかける。


「起きたかい?・・・身体はなんともない?大丈夫?」


だが、シルフ女性はトヲルらと目が合うと、パタッと倒れ込んだ。しかし、明らかに演技臭く、気を失ったフリだとバレバレだった。


シオンは呼びかけながら、シルフ女性の顔を覗き込む。


「おーい?気を失った・・・?いやいや、ウソ臭いぞ・・・。」


「これ寝たふりか?」


トヲルも、倒れた女性の顔を覗き込む。


さすがに、そうなると黒髪のシルフも観念する。バッと起き上がるシルフ。


「あー、ハイハイ。起きているよ。・・・何なのだ、貴様たちは。」


黒髪のシルフ女性は、ツンとした棘のある言い方をした。彼女の態度や仕草からは、かなりの傲慢さが垣間見える。顔を見合わせるトヲルとシオン。


「何なんだと言われてもなぁ。」


トヲルも困惑している。シオンも疑問を投げかける。


「いや、オマエこそ何なんだ?シルフがどうして一人でいるんだ?」


「私を閉じ込めて、一体どうするつもりだ?・・・さては、貴様ら。雪白ゆきしろの仲間だろう?あの穢らわしい裏切り者め・・・。彼奴きゃつに加担する貴様らも同罪だ。恥を知れ!下郎がっ!!」


「雪白?」


黒髪のシルフは怒りに打ち震えながら、なおも言葉を続けた。


「この暗黒あんこく、例えこの身を裂かれようと、必ず復讐はやり遂げる。我らを裏切ったこと、必ず後悔させてやる。・・・精々、今際の際を楽しむがいい。」


しかし、トヲルらには何のことか分からない。勿論、彼女が誰なのかも。


「・・・えっと、それでキミは誰なの?」


「へ?」


キョトンとした顔をする黒髪のシルフ女性。彼女もようやっと気付いたようだ。


・・・見当違いな会話をしていることに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る