2-4

トヲルらは、公園で巨大ロボ"ギガント"の練習を開始した。だが、アナトはギガントとなった後、勝手に魔法を発動してしまった。


しかし、何も起こらない。トヲルはキョトンとした顔をしていた。


「えっと・・・?」


「ま、待て!!トヲル!!・・・動くんじゃない。下を見ろ・・・。」


「え?」


シオンは、いつになく迫真の表情だった。二人の足元には、何か記号のようなものが浮かび上がってきていた。


「いいか、動くな。マズイ、これはマズイ。」


「なに、どういうこと・・・?」


トヲルが混乱していると、無線通話でアナトの声が聞こえてきた。


「ご主人様ぁ〜?魔法はぁ〜?ちゃんと飛びましたかねぇ〜?」


アナトは、魔法で何かが飛んでいったと思っているのだろう。その巨体で遠くをキョロキョロと確認している。だが、トヲルには何も確認できていない。


「いや、アナト。オマエ、何したんだ?」


「えっとぉ〜?」


どうやら、彼女もよく分からず使ってしまったようだ。


シオンは狼狽えている。


「ちょ、とりあえずトヲル。アナトちゃんにも動かないように言ってくれ!これ、罠型の・・・。」


「ご主人様ぁ〜?もう一度使ってみますねぇ〜?」


しかし、シオンの忠告とは裏腹に、アナトは足を前に動かしてしまった。


・・・その瞬間、魔法が発動した。


アナトの足元が、眩しいほどに光り輝く。トヲル・シオン・瑤姫は、全員その光に巻き込まれた。


そして、大爆発。


「うわああああああ!?」


アナトはその衝撃に吹き飛ばされ、尻餅をついた。トヲルとシオンは凄まじい爆風が直撃するも、XR上の効果なので、目の前がすごいことになるだけだった。


だが、シオンのシルフ"瑤姫"は別だ。瑤姫はシオンの肩にしがみつき、爆風に吹き飛ばされそうなところを耐えていた。


「よ、瑤姫ちゃん!!?」


アワアワと瑤姫の身体を抱きしめるシオン。二人で爆風に耐える。


それから少しして爆風は止んだが、アナトのギガントは消滅してしまった。トヲルの目の前に、再びシルフの姿で現れるアナト。彼女は尻餅をついている状態で出現し、ゆっくりと起き上がった。


「あ、あれぇ!?な、なんで戻っちゃったんです!?・・・あ、痛っ!?」


アナトの頭に、何かがぶつけられる。それは、XR上の何かの物質だ。


「よ、瑤姫ちゃん!?お、怒ってるねぇ・・・。」


シオンは恐る恐る瑤姫の顔を見た。アナトに何か投げつけたのは彼女だった。ものすごく怒っている。そして、彼女が口を開いた。


「貴方、馬鹿じゃないの!?こんな近くで罠魔法使うなんて!?頭おかしいんじゃないの!?いいえ、馬鹿だわ!!大馬鹿のアンポンタンよ!!」


「え、あの、瑤姫さん!?」


困惑しているアナト。


そして、アナトの頭からねっとりしたものが垂れてくる。・・・それはチーズ。瑤姫が投げつけたのは電子ピザ。いつも黙ってニコニコしているだけの瑤姫が、突然怒りの形相で物を投げつけてきたのだ。アナトはアワアワとしてしまう。


その困惑は、トヲルも同じだった。


「え、瑤姫ちゃん?喋った?」


そして、瑤姫の怒りの矛先はトヲルへ移る。


「貴方もそうよ!!あの子、貴方のシルフでしょ!!ちゃんと管理なさいよ!!この、コンコンチキぃ!!」


瑤姫は、トヲルにも何かを投げつけてきた。それは電子ラーメンと、電子餃子。XR上の物質なので実害はない。だが、頭には逆さになった器が乗っかり、ねっとりとラーメンと汁が垂れる。


シオンはなんとか瑤姫を宥めようとする。だが、瑤姫は聞く耳を持たない。


「ちょ、瑤姫ちゃん、落ち着いて!!」


主様あるじさまも主様でしょぉ!?先にちゃんと説明しときなさいよ!!なんなのよ!!このトウヘンボク!!」


バシバシとシオンを叩く瑤姫。シオンはなんとか宥めようとする。


「うわぁ!ゴメンて、ゴメンよぉ!瑤姫ちゃん、俺が悪かったからぁ!!」


だが、瑤姫の怒りは一向に収まらない。シオンの頭の上には、既に逆さまになった電子カレーが乗っかっている。


結局、シオンが瑤姫を落ち着かせるまでに10分ほどかかった。その間、トヲルとアナトは、その様子をじっと見守ることしかできなかった。


「・・・ごめんなさい。」


さすがにアナトも反省したようだった。全く怒る気配のなかった人が、烈火の如く怒り狂うのだ。びっくりしたのだろう、かなりシュンとしている。


しかし、シオンはアナトを責めなかった。


「ま、まぁ今度から気をつければ・・・。さっきのは罠魔法だね。一撃必殺の代わりに、かけた本人でも踏むと発動しちゃうんだよね。」


だが、瑤姫はまだシオンをバシバシと叩いている。アナトのことを簡単に許してしまったことが、不服なようだ。


結局、トヲルも説明されるまで、何が起こったのかを把握できていなかった。


「そうだったのか。何が起きたのかワケワカランかったぞ・・・。でもすげぇ威力だな。ギガント一撃で倒す威力なんて・・・。」


「え?・・・ああ、違う違う。あれはアナトちゃんへのダメージで、ギガント化が解けたわけじゃないよ。トヲルも食らったからだよ。」


「俺?俺がどういう関係あるんだ?」


「ギガント召喚中は、マスター・・・、要はプレイヤーのことだけど。マスターが直接攻撃されると、その時点で負けなんだ。設定上は、マスターからエネルギー"ネクタル"を貰って動いてるってことになっててさ。その供給源が断たれるってことらしい。」


「なら、マスターは隠れて、ギガントに守らせないといけないってことか。」


「ああ、しかもギガントと違って、マスターは一撃即死。要は、剥き出しの弱点だな。ギガント倒せなくても、マスター潰せば勝ちだ。だから、オマエも走り込みしておいた方がいいかもな。ははは。」


笑うシオン。だが彼は、その間も瑤姫にバシバシと殴られ続けていた。

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