2-3

いつもの公園で、トヲルとシオンは設定を行なっていた。


「じゃあ、ギガントの設定して・・・。少し練習した方がいいかな。」


「でも、金ないからギガントの戦闘は厳しいんじゃないのか?」


「まぁ確かにそうなんだが。・・・って、オマエ。やるならランキングとか目指そうぜ?女の子だけで満足してんじゃないだろうな?」


「いや、そういうわけじゃないけど・・・。」


トヲルとシオンが話している間も、アナトはトヲルに引っ付いたままだ。彼女はトヲルの背中から左の脇の下へ潜り込み、顔を上げる。そして、右の脇の下から背中へと抜けていく。最早、その行動は猫のようだった。


トヲルは、もうツッコむことすら諦めた。シオンは、その様子を羨ましそうにジッと見つめる。そして、叫ぶ。


「・・・そこをぉ!!イチャイチャしてんじゃねぇ!!」


「別にイチャイチャはしてないが・・・。」


「ギガントマキアは、女子とイチャラブするだけのゲームじゃないんだよ!!硬派ゲーなんだよ!!・・・まぁ、とりあえずは設定しようよ。初期設定でリンク終わってれば、メニューから選択できるし。」


「分かったよ。あのデカイのを見てみたいってのはあるし。とりあえずやってみるか。・・・で、んーどれだ?」


トヲルは、中空に浮かぶXRのメニュー画面を開く。中空のボタンに触れるだけで、画面が切り替わっていく。


「ギガントマキアのメニューの中にあるだろ?」


「ああこれか。へぇ・・・、ギガント、ギガント・・・、と。」


トヲルは、メニューからギガントの設定を選択する。


「クラス設定・・・?」


「まぁざっと掻い摘んで説明すると、ギガントには"総出力値"ってのがある。単純にこれが高いと強いんだ。イメージ的には、エンジンの排気量や馬力みたいなもんかな。」


「ああ、あった。233・・・。これ低いのか。」


「低いな。ビックリするほど。」


「マジか・・・。」


「それは、強化できるよ。まぁ一番金かかるところだが。・・・で、それをステータスに割り振るんだが、個別にやると面倒だろ。だから、ある程度決まった割合で振ってくれるのがクラス設定。」


「3つ選べるっぽいけど、違いはあるんだよな?」


「選べるのは、ナイト/ハンター/ウォーロックの3つ。まず"ナイト"は、STRストレングスVITバイタリティが高め。重いものも装備できるから、攻撃/防御が上げやすい。」


「へぇ。強そうだな。」


「そんで"ハンター"は、それに対して軽装。DEXデクステリティAGIアジリティが高めで遠隔武器が得意。あと"ウォーロック"は、INTインテリジェンスMNDマインドが高めで魔法が使える。」


「魔法!?いいな魔法!!」


「あんまオススメしないかな・・・。初期魔法以外は、別途入手しないといけないし。ステータスも物理系に関わらないから、かなり穿ったセッティングにしないとまともに戦えない。少なくとも、初心者は厳しいかな。」


「・・・で、瑤姫ちゃんはどれなの?」


「ウォーロック。」


「・・・。」


「俺は初心者じゃないし、そこそこ金あるしな・・・。こういう商売してると、手に入りにくいモノもゲットできたりするし。まぁ、強化はしてても戦闘経験は少ないけどな。」


「そうか・・・。うーん、じゃあナイトとハンターどっちがいいかな。」


「ああ、ハンター一択だよ。だって金ないだろ?ナイトは装備で金かかるぞ。」


「・・・でも、ハンターは弾薬消費で金かかりそうだけど。」


「かかるね。だから、遠隔武器は使わない。素早さで撹乱して、ナイフで仕留める感じだな。アサシンっぽいスタイル。金ないなら、たぶんこれしかない。」


「ふぅん。どの道、どれがどうとか分からんし。それでやってみるか。」


トヲルとシオンが会話していると、トヲルの肩の上から、アナトがニュッと顔を突き出してきた。


「あ!ボク、これがいいです!魔法使えるんですよね!?」


「いや、ウォーロックは今、無理だって話してたんだけど、話聞いてた?」


「うわぁー、楽しみだなぁ。魔法かぁ〜。・・・どしゅーーん!!ばばーん!って!!」


ニコニコのアナト。顔を見合わすトヲルとシオン。シオンは囁き声で、こっそりと耳打ちする。


「・・・もしかしてこの子、話聞かない子?」


「ああ、全く聞かん。」


「ははは・・・。まぁクラスは後から変えられるから、とりあえずやってみても良いかもな。本人やりたいって言ってるし。」



トヲルは、アナトのクラスを"ウォーロック"に設定した。


ギガントを起動すると、シルフのアナトは掻き消えるように霧散する。そして、巨大なロボット"ギガント"が公園のど真ん中に生成された。


「デケェな・・・。」


トヲルはすぐそばでそれを見上げ、その大きさに圧倒される。近くで見ると、なお一層大きく見える。あのアナトが、こんな大きなロボットになるとは正直想像がつかなかった。だがそれは、目の前で見ていてもピンとこなかった。


まだまともに設定してないせいか、色は全体的に鈍色にびいろで地味だ。そして、目立った凹凸が少ない地味なフォルム。おかげで、試作機か何かのような雰囲気だ。


「ご主人様ぁ〜!!」


トヲルに向かって手を振るギガント。声がかなり上空から聞こえてくる。


「あー、音声は無線通話にしたほうが良いかな。普通に喋ると、作戦とかダダ漏れになるぞ。・・・アナトちゃんに無線で、って言ってあげて。」


「あ、ああ。アナト、無線で話してくれる?」


「え?」


トヲルのスピーカーから、何やらゴソゴソと音が聞こえてきた。


「・・・あ、はーい!聞こえますー?」


「うん、聞こえるよー。」


シオンはその様子を見て、説明を始める。


「いいみたいだな。・・・とりあえずは修練用モードで起動してるから、今のアナトちゃんは俺らにしか見えてないはず。あとそうだな、あんま近くにいると俺ら巻き込まれるから、少し遠くに移動してもらった方が・・・。」


だが、アナトは勝手に始めてしまった。


「やったー!!じゃぁ魔法使いますね!いっけぇ!ばびゅーん!!」


「「え?」」


予想外のアナトの行動に、トヲルとシオンはフリーズする。


・・・だが、何も起こらなかった。

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