夜が消えた日

月井 忠

第1話

 ある日、夜が消えた。

 その日から、僕ら子供たちは夜を探す旅に出た。


「君ら人間は勝手だネ」

 お供には丸くて背の低いロボットがいる。


「大人のこと?」

「そうだネ、君ら子供は少しマシかナ」


 大人たちは僕ら子供に内緒で会議を開いて、勝手に夜を消そうと決めてしまった。

 でも、いざ夜を消したら、眠れないとか明るすぎるとか言ってばかり。


 しばらくすると、大人たちは体調を崩して地べたに座り込み、何もしなくなった。


「君たちに夜を探してきてほしい」

 元気だった僕ら子供たちに大人は言った。


 僕らは丸いロボットを連れて世界を回る。


「やっぱり、夜行性の生き物はいないネ」

「なにそれ?」


「夜に活動する動物のことサ」

「僕たちと同じように旅に出たのかな」


「死んだのサ」

「死って?」


「いつかわかるヨ。あ、でも見てごらん」

 ロボットは洞窟の中を指差した。


 そこには色んな動物がいて、みんな目を閉じて眠っていた。


「ああして生きる夜行性の動物もいるんだネ」

「良かったね」


 僕たちは夜を探して世界中を回った。


 けれど、結局夜は見つからなかった。


 帰ってくると、大人たちは、まだ地べたに座り込んで青い空を見ている。


 僕らは旅の途中で見た洞窟をヒントにして、夜を作ることにした。

 地面を掘って、そこに夜を作るんだ。


 丸いロボットも仲間のロボットを呼んで一緒に手伝ってくれた。


 大きな穴が掘れた。


 まずは、夜行性の動物をそこに呼んで住んでもらう。

 彼らは夜の中で元気に動き回った。


 次に大人たちを案内した。

 大人たちはすぐ元気になって、夜と昼を行ったり来たりしている。


「やっぱり君ら人間は勝手だネ」

「大人のこと?」


「いずれ君も、ああなるのサ」

「そうなんだ?」


 僕ら子供たちは、いつも昼の世界にいる。

 いつだってはしゃぎまわって、昼の下で寝りにつく。


 でも、一緒に旅をした子供の中には夜の世界にいく子も出始めた。


 いつか僕も夜を欲しがるのかな。


 自分のために穴を掘って、自分の夜を作るのかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夜が消えた日 月井 忠 @TKTDS

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ