3/22 WBCの決勝戦があった日
青条 柊
今日は3月22日。WBCの決勝戦の日。
2023/3/22
2と3ばかりのこの日、今日私が起きたのは8:02だった。
前日から今日は朝からWBCの決勝だ、起きねば、と思っていたものの前日の疲れもあり、朝早く起きるのは無理だった。それでも必死で起きた朝八時、リビングに出てきてパジャマ姿のままテレビをつければ、日本代表が並んでいた。
ヌートバーに近藤、大谷に吉田村上。ここまで盛り上げてきた選手たちの姿が映り、ならばプレイボールはまだだろうと着替え、朝食を用意してリビングに持ってきた。
正直ダイニングではなくリビングで食べるのはあんまりいい行為ではないが、許してほしい。見たかったんだ。
今日の日本代表の先発は今永。横浜のピッチャーとしてにわか野球ファン的な私も知っているいいピッチャーだ。だが、WBCではここまでリリーフというか第二先発的な登板しかなかったので気になってはいた。
決勝の先発は山本由伸かと思っていたのだが、前日に登板していて驚いた。
今永もいいピッチャーだが、日本球界最強とか言われるような選手と比べるのは性格が悪いと思う。だが比べてしまっていた。
私はアメリカ代表についてほとんど知らない。
メジャーリーグは知っている日本選手の周りやニュースになるようなスーパースターしか知らないのだ。ただ、そんな極一部が何人もいた。
一番のベッツは知らなかった。
だが二番トラウト三番ゴールドシュミットは知っていた。
トラウトは大谷のチームメイトで主砲。大谷が躍動していた去年、トラウトもいる、レンドーンもいる、と強打者を見ていけばエンジェルスの選手で気になっていた一人だ。
そもそもテレビの中にはすごく簡潔だが紹介文もある。
三度もシーズンMVPに選ばれるなどとんでもない選手なのはそれでもわかる。
30球団もあってスタメンだけ見ても簡単に数えて270人を超える。先発にクローザーにと数えていけば350を超えるだろう。そんな中でのMVP。それを三回も。
すごい選手だ。
ゴールドシュミットは去年のニュースで知っていた。アメリカンリーグでアーロン・ジャッジが本塁打を打ちまくり、二刀流の大谷サンがMVPを争っていた中でナショナルリーグの強打者としてニュースに何度も映っていた。
今永が、ベッツを打ち取り、いい立ち上がりだと思った。そしたらすぐにトラウトにツーベース。それもただのライト前のポテンヒットかなというような感覚の球をノンストップで二塁まで駆けていったハッスルプレイ。
野球には流れがあるとは言うが、このハッスルプレイは強引にその流れを引き寄せたんではないかと思った。
だが、今永はこのにわかファンの雑な軽視を掻き消してくれた。
三番に入っていたゴールドシュミット。素晴らしい選手だと電波の向こうから聞いていた選手を空振り三振。ストレートを詰まらせて最後には落ちる球で空振り三振。
食べかけの食パンを皿においてしまった。私はめちゃくちゃ盛り上がった。
派手なプレイが好きな私は内野ゴロで打ち取るより三振を取る方がかっこいいと思うのだが、まさしく格好良かった。
そのまま四番のアレナドも打ち取って一回表を終わらせた。
準決勝では14点とかとっていたアメリカ代表は強打と言われていたし、そう思っていたからこそ、私もピッチャーが大事だとは思っていた。一回を抑えるのは大事だと雑な認識をしている。野球のプレイヤーだったことは一度もないので適当だけれども。
アメリカのピッチャーはケリー。ムービングボールとかムービングファストとか言われる類の速くて動く変化球を操るピッチャーらしい。正直知らない選手だ。
メジャーのピッチャーとかは本当に大谷さんとか菊池雄星とか日本人しか知らない。ダイヤモンドバックスというこれまた正直言って名前しか知らないし本拠地の場所も分からないチームのピッチャーらしかった。
そのケリーのピッチングはここまで切り込み隊長として大活躍してきたヌートバー、いいところで活躍していた、それこそ一番記憶にあるのは準決勝、吉田正尚のスリーランの前にツーアウトからヒットを打った近藤と抑えられ、厳しい戦いになると思った。
だが大谷にはボールがずっと先行するフォアボール。
メキシコ戦でもいいところでは逃げられていた印象の大谷だったし、ツーアウトからでも厳しいところをやはりつきたいんだと納得した。
それに吉田もこの後凡退して、一回は一人ずつ、トラウトと大谷がランナーになるも無得点で終わった。なんとなくこの時、奇妙に感じた。
チームメイトであるはずのトラウトと大谷が出塁して、後続は打てずにチェンジ。なんとも共通点のある展開だった。
二回表はアメリカの五番打者。名前を聞いたことのないシュワーバーというホームランバッター。解説を聞くにすごい大砲タイプの選手らしかった。そのシュワーバーも抑えて、前日のニュースでは最強の九番打者とか言われていたターナー。
関係ないが私がつい先日読んだ小説でも出てきた名前で、この大会で現状のホームラン王。なんとなく打ちそうだと思った。小説でもチームの主砲の名前だったし。
そうしたら驚くべきことに、今永の球をとらえてレフトスタンドまで運んだではないか。
ほかの選手よりも細身に見える体格で、振り切ったフォロースルーもなんとなく軽そうに見えるのに、メキシコのアルザレーナにやられたホームランキャッチはできそうにない位置まで飛んでいった。
六番起用されたターナーの鋭いバッティングだった。
それで今永も崩れたのかと思った。私はテレビの外で大丈夫かと心配しながら皿を片付けに行った。
そのうちに七番のリアルミュートにはヒットを打たれていた。リプレイは見たが、バットが折れているらしいのに。
八番のムリンズとかマリンズとかサイトによってだいぶ表記の違う選手。この試合では起用されたが準決勝ではスタメンではなかったらしい。解説はそんな感じのことを言っていて、フーンと思った。
そのマリンズから見逃しの三振。
力強いストレートでおお!と声が出たものだ。
しかし九番アンダーソンにはセンター前へはじき返されてツーアウトながら一二塁と大ピンチ。怖かった。全然私は関係ないのだが、手に汗握るような感覚だった。
そこで今永は二度目の対戦となる一番ベッツをレフトフライに抑えた。
テレビ中継はボールの飛んだ先を映すので、ナイスキャッチ吉田と言いそうになった。
ブルペンでは宇田川とか戸郷とかが準備していて、おそらく打たれたら宇田川に代わってこのイニングを終わらせる感じかなとは思っていた。それは杞憂だったが。
そして二回裏。
準決勝でイチローもかくやというような奇跡的な展開でサヨナラを打った村上宗隆の打席だった。ニュースで村上がサヨナラと聞いてマジか!?と言っていた小さな男の子がなんとなく印象に残っていた。
私はまだ片付けられていない炬燵に入りながら、さぁここでホームラン打ったら格好いいぞとか言っていた。ヒットでもいいから打って、と思いながら。
その初球だった。去年テレビで何度も見た、確信の一打。
三冠王(笑)になりかけていた村上の大きな大きなホームランは三冠王(神)的な印象に多くの人間を塗り替えたんじゃなかろうか。特に私みたいなにわかファンたち。
同点に追いついた。いいぞいいぞと思いながらそこから岡本が続いて、山田は外野まで飛んだもののライトフライ。
だがなんで右手の小指を骨折しながら出てるのかと思ってしまう源田が、本当になんでけがをしながら打てるんだというレフト前ヒットでチャンスができた。いたくないんだろうか。
九番キャッチャーは中村で、プロ野球を見ていると八番とか九番に入っているイメージの強いキャッチャーなのだが、中村はヤクルトで六番とかにいて打てるんだぁ、と思っていたぐらいだった。WBCでもそれなりにヒットを打っていてすごいすごいとは思っていた。そんな中村がフォアボール。
満塁で、ヌートバー。
一次ラウンドでは大活躍、タツジはもう見慣れた表記。
頑張れヌートバーと思ったその満塁で、ピッチャーはかわって左利きのループ。
左打者多すぎないかとは思っていた上位打線に回るにあたってたぶん定石のような感覚だったのだろう。
そのループの内角を厳しく攻めたツーシームをファースト方向にゴロで返した。
一点入って、日本チームになってくれてありがとう、と日本人の私としては言わざるを得ない。
近藤はアウトになったものの1-2と逆転した。このいい感じのまま行きたいと素人ながらにも思ったものだ。
ピッチャーが今永から変わって戸郷。左から右への継投で、アメリカの先頭はトラウト。さすがセリーグ奪三振王!と言いたくなるフォークでの空振り三振で幕が上がった。
ゴールドシュミットも打球音を聞くだけだとちょっと怖かったが、フライに抑えて、四番のアレナド。
日本的に聞いているとなんとなく四番最強とか思わなくもないが、最近のメジャーだと二番とか三番とかに最強打者を置いていることも多いらしい。
ただ、アレナドが劣るかと言えばもちろんそんなことはなく、要するに怖いバッターのようだ。ゴールデングラブの常連らしいし、打てて守れる選手なのだろう。イチローとかそういう感じのレジェンドプレイヤーレベルかなと思う。わからないけれど。
そんなアレナド、続くシュワーバーとフォークを見切られて二連続フォアボール。
大丈夫か、次はターナーだぞ?
おそらくそう思った視聴者は多かったろう。私もそう思った。さっきの打席はホームラン。準決勝で吉田がホームランを打ったあの状況に似ているではないか。ツーアウトから二人が出て、バッターは打点を多く上げているターナー。
だが戸郷は奪三振王の意地を見せてくれた。
魅せてくれたと言ってもいい。見切られていたフォークで空振り三振バッターアウト。
この回二つ目の空ぶり三振。ガッツポーズが映える状況だった。
アメリカはピッチャーが代わってまた左のフリーランド。
大谷は外の球に手が出なかったのかボールだと思ったのか見逃し三振。
吉田はストレートのフォアボールで村上が積極的に行ってダブルプレー。
代わったばかりのピッチャーにうまく抑えられてしまった。
四回も戸郷がマウンドに登り、三者連続のフライアウト。ライナーもあったがうまく打ち取っていた。
その裏。先頭打者は岡本。
ピッチャーはそのままフリーランドで日本で最初にフリーランドと対戦する右打者となった。
そんな岡本の打った球は大きく円弧を描いてレフトへ飛んだ。
私はメキシコのレフトを思い出してフライアウトか、と思った。
だが、その球は止まらなかったし、誰にとられることもなかった。
キャッチなどさせない、とフェンスから遠く離れたスタンド内に着弾。
二度はないと言わんばかりのホームランに、誰もいない家の中で思わず拍手してしまった。
そのあと山田源田中村とアウトになってしまったものの、1-3とリードを二点に広げた。
これで勝つる、などとはさすがに思わなかったが、それでも流れはこちらにある、と思った。
そうして五回にマウンドに登ったのは高橋宏斗。
中日から来た若侍。そこまで詳しくは知らない選手だったが、頑張って抑えてくれと応援していた。
先頭は一番ベッツで、その打球は高いバウンドのサードゴロ。
ただベッツの足は速かった。
一度はアウトと言われたものの、リプレイ検証、すなわちチャレンジを行ってセーフとなった。サードへの内野安打である。エラーではない。
二番はトラウト。ノーアウトのランナーが出て、キャプテントラウトだ。
だが高橋宏斗若干二十歳。
自信を持って投げたスプリットで空振り三振。
若き俊英によるレジェンド的プレイヤーからの三振は、ジャイアントキリングとも思えた。まるで五条大橋の牛若丸じゃないか。そう思った。全然関係ないだろうが。
その勢いのままゴールドシュミットから見逃し三振。
だが四番のアレナドにはヒットを打たれた。
またもツーアウト一二塁。長打を打たれれば一気に同点という場面で、相手はシュワーバー。その大きな体はまるで弁慶。いやどう思うかは私の主観だが。
そんなシュワーバーに対して強く投げ込まれたストレートがセンターフライとなって、高橋は吠えた。
シュワーバーは打った瞬間に苛立ちで吠えたようにも見えた。
そして抑えた高橋もアウトになった瞬間に吠えた。牛若丸と弁慶の技と力の戦いではなく、竜虎のような力と力のぶつかりあい。故に勝った高橋は吠えたのだと直感的に思った。
五回裏はまだフリーランドが登板する。次は上位打線だし、アメリカにはほかに左投手がいない。
ヌートバーは外野フライに抑えられて、アメリカの予想通りのピッチングと言えたのではなかろうか。
次の近藤。
だが近藤は、この大会、まるで出塁屋とでもいうような大事なところで塁に出る働きをしている。この場面もそうで、フォアボールを選んで出塁。
次は3番大谷だ。
打率は高いし出塁率も高い。しかしこの場面はフリーランドが勝った。
なんだか今年からメジャーでは守備シフトが禁止になるとか聞いたが、この大会ではまだまだ守備シフトを敷けるので、敷かれてある大谷シフト。一二塁間に三人と言えそうなほど右に寄った内野陣に抑えられてしまった。セカンドへのゴロであわやダブルプレーというような状況だったが、ピッチャーができてバッターもできて足まで速い大谷=サンは一塁でセーフになった。
さすがに超人すぎると思う。
次の吉田正尚がピッチャーゴロで倒れたものの、三者凡退はせず、流れをアメリカに渡すことはない。
六回表は伊藤大海。
パリーグの試合を(地上波やってないから)見ることの少ない私としては、知らない選手だ。だがターナー、リアルミュート、マリンズと三者凡退に抑えた。この回は展開が早くてあまり印象に残らなかった。ということは伊藤がいいピッチャー、いいリリーフをしたということだろう。
六回裏は今日ホームランの村上、岡本で始まる。
だがここでアメリカはピッチャーをアダムに変えていて、ここから残り四回に出てくるだろう選手というのは素晴らしいリリーフ陣がいると解説が言っていた。
村上、岡本と二者連続で空振り三振。ほんとうにいいピッチャーが出てきたんだと思わざるを得なかった。
だが山田はフォアボールで出て、三者凡退を防ぐ。
完璧なセーフである盗塁まで決めていた。
ただ、源田もフォアボールを選べたので結果につながったかというとよくわからない。ここで盗塁を成功させたのはキャッチャーやピッチャーに新たな選択肢を押し付けるという価値はあったと思うが。
そして中村もフォアボールを選んだ。
満塁である。ツーアウトのため、ヒットでなければいけないが、またヌートバーである。
二点目をもぎ取った男にまた満塁で回ってきた。今日の野球の神様はよほど機嫌がよかったらしい。
ただライトフライとはなってしまったが、すでに一点を取ってくれているヌートバーを責めるのはバカだろう。
七回表に出てきたのは、巨人のクローザー大勢。
私から見るとなんであんな投げ方で160キロ近くのスピードが出るのかわけがわからないピッチャーだが、いいピッチャーであることに違いはないだろう。
そんな大勢に対してアメリカは九番打者のアンダーソンに代打を出してマクニール。知らない選手が知らない選手に交代した形となるのでわからなかったが、画面を見ている限り首位打者リレーのようだった。
そんなマクニールにはフォアボール。
一番に戻ってベッツにはレフト前へヒットを打たれてしまった。
また一二塁だ。なんだかんだここまで一二塁の状況がとんでもなく多いように感じる。
しかも今回はノーアウト。ここが一番の抑えどころではないか、そう感じた。
そもそも七回は試合の動くイニングとか言われている。先発が疲れるからとかそういうことをよく言われるが、オカルト的にもそういうところはあるのだろう。
しかも相手はマイク・トラウト。
点は献上するなよ、ともはやテレビの真ん前に胡坐をかいて座っている私の前で、鋭い打球が飛んでいった。
外野まで飛んでいった。一二塁の上を抜けて、ライトへ。
ライトの近藤はしっかりつかんでいた。
ライナーでアウトになったトラウトの打球はキャッチの位置もあってタッチアップはできず、ワンナウト。
そして次のゴールドシュミットの打球は源田の守備範囲。
たまらん守備は右手小指がなくてもできるのかなんなのか。
ダブルプレーでアウトを取った。大勢のガッツポーズはわかるが、正直解説がよし!って叫んでいた方が記憶に残る。面白かった。この後ずっと楽しそうで観客の一人になっていたし。
七回裏に出てきたのはベッドナー。
打順は234とここまでの試合で結果を残してきた好打順。
だが近藤はサードフライに倒れて大谷だ。
大谷の打席はまたシフトが敷かれている。
大谷の打球はそれでもそんなシフトの中ショートターナーの横を抜けていかんとした。
だがターナーのグラブの先っぽでキャッチされた。
そのままターナーは立ち上がらず、上半身だけで一塁に投げたが送球間に合わず。
一塁はセーフの判定だ。チャレンジはしたものの、リプレイを何度、どんな角度で見ようが私には同時に見えるスロー再生はそのままセーフの判定となった。大谷のショートへの内野安打となった。
この後の吉田がサードへのダブルプレーとなっているので、ベッドナーが投げた七回はほとんど三者凡退みたいなものである。
そもそもちょっと大谷サンの足が速すぎる故のセーフだとは思う。
八回表。
ブルペンからやってきたのは東北の雄。
楽天ではないが、高校は東北高校出身のダルビッシュ有。
14年前、日本が前に優勝した大会では決勝でのクローザーを務めたダルビッシュが今日はセットアッパー。
贅沢が過ぎる。それにここで大谷はブルペンにいる。
まさか九回は大谷で、豪華すぎる八九回にする気なのかと胸が熱くなる。
四番から始まる打線を抑えてもらうのだ。
四番はアレナド。
アレナドが打ったのはセンターへの当たりだが、そこにはヌートバーがいた。
そして五番はシュワーバー。ここを456と抑えられてしまえば九回逆転はとんでもなく難しくなる。
カウントツーツーとなって五球目からシュワーバーは粘りに粘っていた。
高いミート音が鳴るたびに打球がどこかへ行き、何度もファール。
ポール際への大きな大きな当たりが出たと震えれば、次は打ち取ったのではとサードとキャッチャーが追いかけるもスタンドに入るファール。
緊迫感のある対決。
そして十球目。ゾーン内、少し高めに見えたボールを完璧にとらえられた。
画面表示的にはスプリットだったらしいが、ストレートのようにも見えたその球が右中間のスタンドへ。
一点差に詰め寄られるホームラン。一点差はいくらでも逆転してしまえるのが野球だ。準決勝の日本もそうだった。
そのうえここでダルビッシュは六番ターナーにもヒットを打たれた。
同点のランナーだ。怖い。正直言って怖すぎる展開だ。まるで負けるのかと思うようなそんな逆風が吹いているようにも感じた長い長い七番打者リアルミュートの打席。実際は初球を大きく打ち上げて落ちてくるまでに時間がかかるショートフライを打ったに過ぎないが、その一瞬が私にはとてつもない長さに思えた。
そして八番マリンズも初球から打っていき、ヌートバーの守備範囲内だった。
スリーアウトで交代である。なんとなく詰めていた息をほっとつくことができた。
ターナーのヒットも解説的にはかなりいいピッチングをしていたようで、投げた瞬間にはよし!と大きい声を出していた。しかし二塁の頭の上を超えるヒットで、危ないかと本気で思った。ビビらせないでほしい。解説がいいと思った球打たれるのとか実力差かと思うじゃないか。
八回裏、ピッチャーはウィリアムズに代わり、チェンジアップが武器らしいという情報を実況解説から仕入れた。
その通りのようで、先頭の村上はチェンジアップ三球を全くかすらずに三振している。
岡本も見ていったし、チェンジアップを見切れているようだったが、フルカウントから最後はチェンジアップで空振り三振だった。
アメリカの厚いリリーフと言われる中でも最優秀中継ぎをとったことのある選手らしいのでさすがと言えるだろう。
だが、国際大会に強い山田もさすがだ。
七番に入っている山田はほとんどチェンジアップを投げられなかったとはいえ、フルカウントからボール球を選んで出塁。
またも盗塁を決めた。
今大会はホームランこそ打っていなくても十分な活躍だろう。
だが八番源田が打った打球はサードへのゴロで、一塁はアウト。
チャレンジ申請をしていたものの、変わらずで、テレビを見ている私からしてもアウトだろうなあというタイミングなのでチャレンジしたのは驚いたが、解説が大谷への時間の猶予を与えるためかもとか言っていて、なるほどそういう使い方の可能性もあるのか、と思った。
九回。マウンドに上がったのは大谷翔平。
侍ジャパンで掲げる背番号は16。
今日はここまで三番打者で打って走っての暴れっぷりで、テレビの中でも泥だらけのストッパーなんて見たことがないと言われていた。
私はここで、運命を感じていた。
あるいは、それを栗山監督は狙ったのか。
ツーアウトになれば、最後はトラウトなのだ。
ここまで大谷のいる日本代表対トラウト率いるアメリカ代表と何度も言われていた。何度もそれぞれが意識したセリフを言っていた。
その二人が最後に戦うかもしれない。
鳥肌が立った。
だが九番はアンダーソンから変わっていたマクニール。そのマクニールがフォアボールを選んだ。
野球の神様の機嫌はたやすく変わってしまっていたのかと思う。それともそんな劇的な負けなんて許さないというマクニールのプライドだったかもしれないが。
どうしようもなく遠い電波の先にいる人物の心境など私には推し量れない。
ただ、運命はどうしようもなく数奇なものだというのは何のアニメのセリフだったか。
代走のウィットJr.が出され、同点を確実に期してきたアメリカ代表。
この回で終わらせると、四番の吉田を下げてセンターに牧原、レフトにヌートバーと守備を後退している日本代表。
アメリカの一番、ベッツの打球が、大谷の157キロストレートを打った打球が飛んでいったのは、セカンドに。
ショートの源田にトスをして、セカンドフォースアウト。
そして解説がゆっくり!と叫ぶ中、源田の送球はファースト岡本のミットに収まった。
ダブルプレーだ。
ダブルプレーだ!
私は思わず立ち上がっていた。熱すぎる展開だ!
九回ツーアウトで、同じチームで普段はエースと主砲である二人が戦うのだ!
このWBCの決勝で!
3番打者である大谷の3人目の対戦相手は2番打者であるトラウト。
点差は3-2。奇妙なほどに3と2ばかりじゃないか。
初球スライダーはボール。
二球目のストレートは160キロで空振り。
三球目はテレビで見ていれば驚愕だ。ボールではあったが、マイルから時速に返還されたスピードが162キロ。それもスプリットの表記。
…ストレートより早いスプリットってなんだ?
私はつい笑いながらそう言ってしまった。
すごすぎて涙が出てくる。笑えてくる。
四球目。160キロストレートで空振り。
そして五球目はアウトローに大きく外れたものの、164キロの剛速球。これでストレートのすべてより早いスプリットではなくなった。正直スプリットなのかは怪しい。
だがこれで、スリーボールツーストライク。
また3と2が増えたじゃないか。
もはや笑わざるを得ないだろう。こんなに神様は粋なことをするのか。
そして熱量の最高潮。
六球目のスライダーがトラウトのバットから逃げていく!
三振でガッツポーズした大谷。ああ、これでまた3が増えたじゃないか。
この時、突然私は今日の日付が目に入ってきた。そこにおいてあった時計に書いてある。
2023/3/22
ああ、何だこんなに3と2ばかりの日だったのか。
たとえアメリカで、現地がまだ3/21だったとしても、今日は3/22である。誰が何と言おうと、今日だけは3/22であることに意味があると思う。
2023年WBC決勝戦、3月22日に行われた日本対アメリカ戦は3-2で日本の勝利。
湧き上がる感情を胸にこの文章をつづった。
素晴らしい日だった。
3/22 WBCの決勝戦があった日 青条 柊 @aqi-ron
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