83.仕組まれたクーデターを事前に知る展開


「王都の守護障壁が聖女の身体を利用して作られているだと……?」


 その情報はエドワードも知らなかったらしく、驚いた声をあげていた。


 ゲームの世界では、覚醒した聖女の力によって壊されてしまった障壁は戻通りになる。


 何故そんなことが可能なのかは話の都合上かと思っていたが、ちゃんとした理由が隠されていた。


「古の賢者の遺した書物【アカシックレコード】の断片にアクセスできた過去の賢者がこんな言葉を残していた――ある年に聖女の生まれ変わりが覚醒する――それが今年」


 ウェンディは続ける。


「覚醒した聖女の力を使用することで、守護障壁を張り直して権限を変えることが可能となる」


「聖女はどうなるんだ?」


 エドワードルートのマリアナは、覚醒した聖女の力を用いて壊れてしまった障壁の復元を行った。


 その後のエピローグではちゃんと生きていてエドワードと共に国を背負っていくような描写が成されている。


 つまりは生きているのだ。


「そこまではわからない」


 俺の言葉にウェンディは首を横に振る。


「でも、ペンタグラム家もスラッシュ家もパトリシア・キンドレッドがどうなろうと関係ないという認識でいる。目的は守護障壁の権限を得て王位を簒奪することなのだから」


 パトリシアの目的が主人公に成り代わることのみではなくて、その向こう側にある守護障壁の権限を挿げ替えることならば、エドワードを切った理由に辻褄があう。


 欲しいのは、逆ハーレムでも何でもなく王位。


 国盗りとは、なんとも壮大なことを考えるもんだな、パトリシア・キンドレッド。


 予想だが、恐らく障壁を張り替えたとしても生きているのだろう。


 ゲーム知識のみで国を動かす地位の者と渡り合うほどの女だ、生き残れるという自信がないと動かないはずだ。


「で、今月の賢者祭典でパトリシア・キンドレッドのお披露目と障壁の張り直しを行うってのか」


「その通り」


 まず、公国から攻撃が開始されるらしい。


 それを合図に障壁が消え、パトリシアの聖女の力を用いて障壁の復活と権限の簒奪を行うそうだ。


 そこから王位を奪うのはどうすんだって話だが、この国の国民にとって守護障壁は絶対的安全の象徴であり、今の王家はその管理を怠ったと言えばどうにでもなる。


 障壁一つで国が揺らぐって、とんでもないよな?


 やはりあんなものに頼ってると弱くなる。


「そんな裏が……」


 パトリシアの名前が上がっている間、エドワードは神妙な雰囲気で色々と察しているようだった。


 まだ心に残っているのか?


「しかし過去は過去。今は今。こうして【蛮勇】の【影】と成れたのもまた一つ巡り合わせみたいなもんだな、フハハ!」


 いや、別にどうでもいい様子だった。


 パトリシア・キンドレッドめ、とんでもない馬鹿を俺に押し付けてきやがって、なんてこった。


「ふーむ、隣国であるコンティネント公国が、ペンタグラム家とスラッシュ家の言うことを大人しく聞くとも思えんが、その辺は何か知ってることは無いのかウェンディ」


 ひとしきりフハハした後に、急にテンションを戻すエドワード。


 テンションの高低差がえげつない。


「王家によって過去に王都から障壁の外に追いやられたコンティネント公国が王位簒奪に協力する動機はわかるが、協力するだけして、はいどうぞと侯爵両家に渡すはずもないだろう?」


 まあ、一度障壁を消した瞬間に攻めて来るだろうなと思う。


 ゲームの中では、決まってそうだった。


 何かあるたびに王都を攻めることを常に狙っている国だったし。


「狙っている……と言うのが【ブラッディウィーク】の総意。障壁の外に出た時点で血約の関係は切れてあくまで推測に過ぎない」


 その上で、ウェンディは言う。


「公国は、障壁の権限を取れるならばそれでいい。元々障壁に頼らない方針で彼らは力をつけてきた。ブレイブのチを用いて」


 ブレイブ領は軍事訓練の対象である。


 何か二国間で取引されているのかなと思いきや、元を辿れは国の争いの渦中ってわけだ。


 納得いかねえな、ちくしょう。


「私のいた【ブラッドウィーク】の役目は、張り替えている間に公国を自由にさせないこと。侯爵両家ももちろん警戒していて、そのために懸念点だったブレイブを舞台に上がらせないために忠告に来た」


「何も知らなければ何もしなかったから悪手だよな」


 わざわざ気になる情報を捨て台詞にして、何がやりたかったんだ侯爵両家の連中は。


 そんなにブレイブ家が憎いのか?


「その通り。だが賢者の血筋、聖女の血筋、そこに勇者であるブレイブの血筋が揃うことを侯爵両家はとにかく嫌がっている」


「フフン、そうだろうそうだろう! ブレイブの血筋ならば、波乱があれば必ず目立ち、そして敵を討ち滅ぼしてしまうから用意した舞台そのものが壊れてしまうだろうからな!」


 割って入ってきたエドワードが、何故か胸を張ってまるで自分のことのように誇らしくする。


 その様子に、ウェンディは嫌な表情をしながら、またもとの無表情に戻った。


「勇者だのなんだの、なんだそれ」

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