82.深夜の生徒会室にて。


 深夜の生徒会室にて。


「紅茶とコーヒーならどちらを飲む、ウェンディよ」


「ブレイブと一緒ので」


「ならばコーヒーか、私が淹れよう」


 エドワードのロールプレイ仲間となったウェンディによって、俺達には大きな情報がもたらされることとなった。


 まず、ブラッディウィークと言うのは王家、公爵家、侯爵家御用達の暗殺者集団のことで建国の時から存在している。


「私はとある伯爵家の次女だった」


 魔術学園を卒業した者の内、特に優秀だった生徒で、かつ家督等も関係なく婚姻にも難ありだとされた者が引き継ぐらしい。


 引き継いだ段階で過去の記憶は朧げなものとなってしまい、風化してどんどん忘れていくんだそうだ。


「で、俺を留めようとした敵は何をするつもりなんだ?」


 奇跡の再来、お披露目は今月。


 ウェンディはこのセリフを伝えて来るように命令を受けていた。


 詰めが甘いな、それで済むと思っているなんて。


「聖女のお披露目」


「へえ」


 まあ、なんとなく想像はできていたがやはりそうか。


 ウェンディは淡々と言葉を続ける。


「ペンタグラム家とスラッシュ家は、コンティネント公国へと留学したパトリシア・キンドレッドを聖女として擁立し、守護障壁の権利を王家から簒奪するつもりでいる」


「簒奪? どういうことだ」


「王都の守護障壁は、古の賢者が創り出したものであり、直系であるエーテルダム家が管理権限を持つ。故に300年近く栄えた」


 その意味はわかるでしょう、とウェンディは俺を見る。


 守護障壁は王国の象徴だ。


 あれがあるからこそ、誰からの侵略も一切許さずに栄えてきて、100万を超える人々に安心をもたらしている。


 人口密度マジでヤバ過ぎるな?


 貴族も多過ぎる弊害がある。


 自ら戦争を起こすこともなく領土拡張も何もない状況で褒美と言えば、爵位を渡すくらいなもんだからだろうか。


 っぱ、おかしいよこの世界。


 話がずれたが、ウェンディの言葉通りならばエーテルダム家が王家として存続している理由は、障壁の管理権限を持つことによるものだ。


 それを補足するようにエドワードが言う。


「彼女の言う通り、こういう話が禁術書庫の本にはあった。元々隣国は公爵家の一つであり、敵対しているのは過去にクーデターを目論んだからだとされている。その時、反乱を起こした公爵領は、王家に敵国扱いされて国から追い出された、と」


 それから公爵家は直轄領を持てなくなり、それに伴ってほとんどの貴族が守護障壁の中に納まるようになっていったそうだ。


 隣国、コンティネント公国はブレイブ領の隣にあり、毎度お馴染みドンパチやってる間柄なのだが、まさかそんな関係性があったとは。


 これはゲームに載ってない知識である。


 王都を攻めてくるためだけに設定された隣国とばかり思っていたが、攻める理由がちゃんとあったわけだ。


 そして旧公爵家であるならばブレイブ家にも詳しく、やっぱりマッチポンプみたいな組み合わせだってこと。


 そんな話はさておき。


 障壁に話を戻す。


「つまりは王家の意志一つで如何様にもできるってことか」


 障壁の基準がよくわからんが、敵対的行動を示す王都以外の土地の者はもれなく敵国だと認定されてしまうのか。


 強い、確かに強い。


 そりゃ直轄領なんて持ってしまえば、それを盾に色々と脅されかねないし、王家も内部での反乱を避けるために領地を持たせたくないだろうから両者利害が一致する。


「我が家の驕りである」


 溜息を吐くエドワード。


「守護障壁ができる前は、私のエーテルダム家も四聖公爵という括りの一つだった。守護障壁を作り出した賢者の直系であるだけで……何も変わらんつまらない一族さ」


 じゃあその前の王とはいったい誰だったのか。


 なんとなく気になるところである。


「ウェンディ、障壁の権限なんて奪えるもんなのか?」


「可能」


 コーヒーを一口飲みながら彼女は告げる。


「あれは元々賢者が聖女の……苦い、苦すぎる、砂糖とミルクを所望」


 何で選んだんだ……。


「早く話せ」


「あれは元々賢者が聖女の肉体を利用して作り上げたものだから――」


 割と衝撃的な事実だった。


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