74.茶会狩りというパワーワード
エドワードを送り込んで行われた茶会予算改革は、着実に進められていき、放課後に日常的に行われていた茶会は姿を消していた。
グレードダウンしてしまった紅茶と茶菓子は、貴族のプライドを刺激して反発するように開かれなくなったのである。
毎日ではなく定期的に開催する分には特に問題ないのだが、使用人を通して申請することすらしないとなれば、もう本当にプライドの高い奴らで困ったもんだ。
くだらないが、人間は一度上がってしまった生活水準を落とすことに耐えがたいストレスを感じる生き物なのである。
四肢であれ、家族であれ、今までそこにあった物を失う、または奪われることを極端に嫌う本能を持つのだ。
ブレイブ領に染まってなければ俺だって反発すると思うのだが、如何せんどこかで荒療治を行わなければならないのも事実である。
ぶっちゃけ成績が下がった要因の一つだろ、毎日茶会。
放課後に飽きることもなく毎日毎日茶会を開いて男女交えてイチャイチャイチャイチャ、みんな毎日恋愛シミュレーションゲームか?
この学園の風紀は、著しく乱れている!
まあ乱れてるからと言って別にどうということもないのだが。
「ふーむ」
いつものように屋根の上で学園の生徒を監視しながら考え込む。
茶会ストライキみたいな状況で、予算を引き上げろと訴えを起こす生徒はいなかった。
上級生を使って訴えてくることもあるだろうな、と予測はしておいたのだがエドワードを用いた作戦が余程効いたらしい。
まあパトリシアとキャッキャウフフしていた一学期は、彼らは茶会も開かずコスパの良い手作り弁当ダービーをしていたわけだ。
そんなエドワードが無駄遣いを止めろと言うのだから言い返すことは誰も出来なかったというわけである。
なまじ言い訳というか、理屈のこねくり回しには長けているので、オーバーキルするかの如く黙っていて、何を言ったのか俺を見るだけでビクッと震えて逃げていく生徒が多いこと多いこと。
「うわぁっ、番犬が監視してる!」
「どうやって屋根の上に……茶会狩り……?」
「お、俺たちは何もしてない!」
「毎日やってた茶会にすら呼ばれることのない雑草みたいなものだから勘弁してくれ!」
このように何もしてないのにビビられる。
今までは見向きもされなかったから好き放題監視していたのだけど、悪目立ちし過ぎて逆にやりづらい。
茶会狩りなんて言葉が出ているが、別に狩ってないんだけどね。
「よっと」
屋根の上から生徒たちの前に飛び降りて訂正だけしておく。
「ちゃんと申請すれば学園がお金出してくれるから茶会開きなよ」
「ひいっ! 殺さないで!」
「どうせ開いても来ないんです!」
「この状況で茶会開いたら女子たちからもっと嫌われるよ!」
男子生徒たちはそう言いながら逃げていった。
……解せぬ。
あのハゲ、マジで何言ったんだろうな?
事と次第によっては、然るべき教育を施してもらうぞ【女帝】アリシアにな。
「まあ、その内開かれるか」
一般クラスにおいては学園側から補助が増えるので、活発的に茶会が開かれるようになるだろうし、そうなれば特別クラスでハブられている男子たちもそっちに流れてくれるだろう。
自然と玉の輿が起こるだろうし、良いじゃないか。
ペンタグラム侯爵家の息子が死んで、イグナイト家の息子も留学してって、エドワードはハゲでバカだし、クライブは自分の婚約者が生徒会に所属して付け入る隙は無い。
残るはヴォルゼアの血縁者であるカスケード家の息子だったりするのだが、どこに行ってしまったのか見ていない。
特別クラスの女子たちの玉の輿は絶望的だった。
「ま、そんなことよりも」
再び屋根の上に飛び乗ると、次はもっと目立たない位置に身をひそめることにする。
調べるべきは、パトリシアとジェラシスの留学に関してだ。
宣戦布告してきておいて絶対に勝てないと理解したから敵前逃亡したっていうのだろうか?
だとすれば、確実にまた攻めてくる。
そんな気がしていた。
俺だって勝てないとわかったら勝てる状況になるまで身を潜めて、再び殺しに行くだろうし、きっとそうである。
「思いの外、パトリシアという女は頭が切れるようだ」
ともすれば、襲撃がどのタイミングかは予測できる。
賢者祭典、関係者以外に学園の敷地内が解放され、他国の学生が学園に来る一大行事の最中だ。
そこまで思考して、しかしと思い直す。
パトリシアという女の本当の目的とは、いったい何なのか。
成り代わりの魔術まで用いて主人公の座を奪っておいて、逆ハーレムを楽しむことが目的なのかと思いきや、エドワードルートの聖具獲得を失敗したとたんエドワードを切り捨てた。
それから他のルートに切り替えることもせずに留学してしまうとは、こうなってくると本当に意味がわからない。
「うーん……直接聞けばいいか」
留学して一時撤退はしているものの賢者祭典という機会を逃すはずがないんだ。
アリシアを狙って露骨に敵対してくるのならば、もう関わり合いにならないようにするつもりはない。
先んじて叩き潰すのが一番だ。
ま、それを予期したのか雲隠れ。
割と有能な軍師タイプの女だから、少しだけ興味が湧いた。
悪魔憑きのジェラシスを従えて、これだけのことをしてのけるなんて、この平和ボケした世界で、もしかしたら俺と同じような境遇だったりするのかもしれない。
あくまで推測の域だけどな。
「その日が来るまで平和を謳歌しておくか」
特にやることもないしと、一息ついた翌日のことだった。
イグナイト家からの刺客もなく、教師の一新などによって学園内に明確な敵対存在もいなくなって、賢者祭典までは平和な学園生活を送るものと思っていた俺のもとに、少しばかりの災難が訪れる。
それは、朝。
家からアリシアと一緒に学園に向かうと、校舎の前に生徒が集まって何やら水晶から表示される映像を見つめていた。
なんだなんだと近寄ってみると。
『お前らの中で、キスの味を知ってる奴はいるのか?』
『答えてみろよおおおおおおお――ッ!』
俺が、教師の服装に扮した暗部の魔術師たちを蹂躙している映像がループ再生されていた。
『キスは何味なんだよおおおおおおお!』
『初恋の味もおおおおおおおおおおお!』
恥ずかしいセリフとともに。
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