63.サマータイム・メモリー やはり単純明快


「身体の一部か、全身か、最後は――魂」


 そういえばゲームの世界のアリシアは、終盤で悪魔に魂を売り渡していたなあ。


 主人公たちはどうやって勝ったんだっけな?


 もしかしてゲームの世界でもアリシア生存ルートみたいなのが存在していたりするのか。


 と、この世界での悪魔の在り方にそんなことを思う。


「た、魂を渡してしまうとどうなるのでしょう……?」


「人格も何もかも飲み込まれて悪魔となりますな」


 ゴクリと息を飲んで尋ねるマリアナに、セバスはさらっと答えた。


「だったらたくさん悪魔がいそうだけどな、この世に」


 恨みを持った奴なんてどこにでもいて、どんな些細な恨みであれ親の仇のように思う人間は割と多い。


 このゲームの世界観より歪んでると思う部分である。


「普通の人間は耐えれませんな?」


 と俺の呟きに答えたセバスは続ける。


「極々僅かな時間を悪魔が好き放題荒らしまわって、そのまま消滅するのが常でしょう。古の賢者由来の高い魔力を持つ貴族の方々は、普通の方より少しだけ長く悪魔を宿せますな」


「普通じゃない人間の場合はどうなるんだ?」


 例えばジェラシスとかな。


「そうですな、稀に適性を持った人間がいるのです。際限のない闇の力に適性を持った存在が。そういう者は、悪魔と共存し全身を差し出しても平気なのですよ。魂まで差し出せばさすがに自我を失いますが」


「なるほどなあ」


 ジェラシスの場合は、自我が残っていたから全身タイプね。


 全身が魔力で構成されているのならば、灰になってでも再び身体を再構成できるって寸法なのだろうか。


 理屈はそうだが、どうやったらそんなことできるんだ。


「灰になっても戻れる意味が分からん」


「私たちが呼吸するようなもんですな、奴らにとっては」


 この世に満ちている魔素のおかげで、人間である俺たちですら致死率の高い怪我であっても命を繋ぐことができる。


 魔力で身体が構成されている悪魔は、そんな人間を遥かに超える驚異的な治癒力、いや再生力を持っているのだ。


 治癒というか再生だな、うん。


 聖女の力とかそんな感じである。


 聖女が聖属性の極致だとするならば、悪魔は闇の極致。


 行きつく先は違えど、本質的な能力は同じようなそんな気がする。


「そして気になる倒し方ですが、身体の構成を記憶して保存しておく領域が悪魔にもあります。そこを聖属性等で傷をつけるとダメージを与えることができますな」


「ふむ」


「坊っちゃんがまだできないのは、そこを的確に攻撃する技術ができてないせいですね。まだまだですね坊っちゃん」


「いやそこまで行きついた奴と戦ったことないし、なんで話の腰を折ってまでそんなこと言うの?」


 性格悪いぞ?


「そこが奴らの唯一の弱点故に、当たり前のように巧妙に隠してきますな? 如何にして見つけ出すか、そこが鍵となります」


「ふむふむ! 見つけ出す方法はあるのでしょうか? こう、目で見たらわかるものなのでしょうか?」


 マリアナの質問にセバスは回答する。


「聞くだけで直接見るのは極めて難しいでしょうな? ですが一度でも理解できれば漠然とですが肌で掴むことはできるでしょう」


「あれだな、王都の連中は魔物食べないから聞くと嫌な顔をするけど、実は意外と食えて、一度食えば食べ物だと認識できて今後も食えるって感じね」


 現世でもバッタをエビだと思うタイプの人と、バッタはバッタだろって人がいた。


「ちょっと、余計に話がややこしくなったじゃないの」


 そんなことを話すと、アリシアに怒られた。


 解せぬ。


「ラグナさんのご先祖様も、そうやって悪魔を倒したんですね? ふむふむなるほど、これは貴重な話を聞けました!」


「いや、超高密度の聖属性魔力そのものをぶつけて消滅させましたからな、例外ですな」


「ふええーっ!?」


「でも一番手っ取り早いですぞ?」


 せっかく教えてもらった倒し方だが、結局はとんでもない聖属性で悪魔を消滅させることができてしまえるという結論になった。


 今までの時間よ。


「悪魔が何たるかを理解することは重要なので、皆さんは坊っちゃんが実際に戦うところを今しがたの話を念頭に見てみてください」


「は、はい!」


「わかった……見える自信はないけど……」


 興奮するマリアナとは違って、自信なさげに頷くアリシアだった。


 気付いたセバスは言う。


「アリシア様、例えわからなくとも経験にはなるのです」


「うん、頑張る。話の次元についていけなくてちょっぴり自信を無くしちゃってた。ありがとセバス」


「いえいえ、ブレイブ家で重要なのは強さではなく、前を向いて歩む意志ですので」


 セバスは優しく微笑んでいた。


 アリシアにはすこぶる優しいよな、セバス。


 大きな支援をしてくれている公爵家の娘であるし、そりゃそうか。


「じゃ、気を取り直して悪魔の再召喚と行こうか」


「そうですな坊っちゃん。魔物の死骸はまだありますので、弱いのから行きましょう」


 ゴブリンの生首がボロンと出てくる。


「……アリシア、どこから出してるんでしょうね?」


「さあ? 気にしたこともないわね、セバスだし?」


 マリアナもアリシアも、ゴブリンの生首には何も感じなくなっていた。


 良い感じで魔物に慣れている。


 これで悪魔にすら慣れてしまえば、アリシアの代わりの敵役が悪魔に魂を売っぱらって襲い掛かってきたとしても大丈夫だ。


「今回は私が代わりに出しましょう。坊っちゃんだと強いのが出てきてしまう可能性がありますからな?」


「セバスの方が強いかもよ?」


「御謙遜を」


 新しく描かれた魔法陣の中で、ゴブリンの生首がボコボコと溶けいく。


 さて、俺はどうやって悪魔を倒そうか。


 ジェラシスと戦っていた時は、あいつの炎に対処するために全てのリソースを集中させていたため、反撃に移れなかった。


 オニクスを、竜を怖がっていた理由は、恐らく竜の持つ高密度の魔力を嫌っていたのだろうと推測する。


 だったら応えはシンプルが一番だ。


 俺もそれに近い人間になれば良いのでは――?


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