18.学園で隠居生活ってマジで

 それから馬車は何事もなく学園へと到着した。


 少しだけ学園について語ろう。


 エーテルダム学園と呼ばれる国の名前を付けられた学びの園には、この国の貴族が集う。


 家督を継ぐ者は強制的に入学させられ、そうじゃない者でも別に学費や寮費を払えるのならば問題なく入学できる。


 この時、爵位や立場に応じてクラスが分けられ、男爵位以上で家督を継ぐ者もしくは伯爵位以上は例外なく特別クラス、そうじゃなければ一般クラスとなる。


 簡単に覚えるなら王族と結婚できるかもしれないのが特別クラスで、そうじゃないのが一般クラスって感じだ。


 そこに追加して魔術適正や知識が特別だと認められれば、平民でも『賢者の子弟』という立場で特例として入学を許可される。


 いわゆる平民枠、と言うもので一般クラスは存在せず、特別クラスに身を置くことになる。


 乙女ゲーに置いて、主人公のポジションがこの平民枠だった。


 俺は学ぶことなんて変わらないのだし、一般枠でも別に良くないかと思うのだが古の賢者の言い伝えに則ってそうなっている。


 ふわっとしていて意味が分からんよな?


 さて本題だ。


 正直言って、アリシアが元居た特別クラスには敵しかいない。


 だから可能であれば一般クラス行きが正解ルートだ。


 特別クラスになんて行ってしまえば、もう主人公たちのハチャメチャ学園ライフの巻き添えになってしまう。


 捨て地とは言えども辺境伯。


 立場的には特別クラス行きなのだが、王都では捨て地差別が横行しているので幸いにして俺は一般クラスなのが確定していた。


 アリシアも公爵家とは言えども、今の預かりはブレイブ家。


 使用人を帯同することも認められないほどの虐げられっぷりだったので、帯同必須な特別クラスの寮には入れない。


 俺と一緒の一般クラスだ。


 そう思っていたのだが、何故か二人で一緒に特別クラスだった。


「おかしい、おかしい!」


「やめて!」


 ゴッゴッゴッゴッと机に頭を叩きつけているとアリシアに怒られる。


「ここの机は貴方の実家みたいに丈夫じゃないから!」


 さらにお互い別の寮に案内されると思っていたのだが、何故か特別寮の敷地内から少し離れた場所に存在する古い洋館に向かわされた。


 アリシアも同じように言われていたらしく、玄関先でバッタリ合ってしまった時の気まずさったらない。


『私は何を言われても我慢する。だから貴方も突拍子もない行動を慎むようにね』


『例え女子寮でも危害を加えられそうになったら飛んでいくよ』


『さすがにそれはやめて退学になるから』


 と、決意して別れたはずったのにね。


 その数十分後に顔を突き合わせて、そして一つ屋根の下で生活を余儀なくされるとは、この学園の風紀はどうなっているんですか。


「詳しい話を聞くに、セバスが私の実家に働きかけたそうよ?」


「セバスが?」


「ええ、この家に来たら手紙が置いてあってそこに書いてたの」


 特別寮を使用人無しで生活するのは困難だ。


 使用人の存在ありきで作られているような施設なのだから、主人公だって王都内の実家からわざわざ通っている。


 セバスの手紙にはこう書いてあった。


 オールドウッド公爵家としては、どれだけ失敗した娘だったとしても特別クラスから一般クラスに行くのは認められない。


 かと言って、使用人を付けて何事もなかったかのように復学させるのは、他の貴族から舐められるのでできない。


 だからセバスは提案した。


 生き恥を晒したまま学園生活を送らせるようにすれば、公爵家としても相応の処置を下したと思われますし他の貴族も納得しましょう、と。


 で、上手く理由をこねくり回してこの使ってない謎の洋館を寮代わりにすることが決まったそうだ。


「まるで腫れもの扱いよね」


 困ったように笑うアリシア。


「いや挽回のチャンスじゃない? むしろ一番都合良いと思う」


 俺は、アリシアの両親の優しさのようなものを感じた。


 戻れば生き恥なんて既定路線だし、特別寮で一人で暮らしていくことの方が辛いのである。


 それに特別クラスで上位の成績を維持したまま卒業できれば、多少の失敗くらいは緩和できるはずだ。


「それに俺が君を守りやすいし、ここなら屋敷で暮らしてた時とそんなに変わらないと思うし」


 さすがにセバスでも寮問題を解決できるとは思わなかったのだが、かなり上手くやった方だと思う。


「そうね、そうよね? 気持ちを切り替えないと!」


 俺の言葉に何度か頷いた彼女は、両頬をぺチンと叩いた。


「じゃ、部屋の掃除から始めないと。しばらく使ってないみたいね、だって貴方の屋敷より汚いもの」


「え、うちと比べる必要ある……?」


「貴方の部屋と比べられないだけマシでしょ?」


「えっ」


 なんかブレイブ家の使用人たちの口癖が移ってない?


 なんかヤダ!


「生活用の家財は事前に運び込まれてるみたいだからありがたいわね。重たい物は任せるから」


「うん」


 寮だと息つく暇もない可能性があるから、安らげる空間ができただけでもかなり良い待遇である。


「ねえ! そういえば裏庭があったわよね? ここでも野菜育てちゃおうかしら? どうせ誰も見に来ないだろうし、良いわよね?」


「良いと思うよー」


 うーんだいぶたくましくなったな、アリシア。


 それにしても入学早々隠居生活か。


 ま、悪くないよね。


 主人公勢力と余計に関わり合うこともないだろうし。


 セバス良くやったと思いながら手紙を眺めていると、魔力で書かれた文字がぼんやりと浮かび上がる。


 ブレイブ式、魔力文字。


 特別な訓練をしていなければ見ることのできないもの。




『――避妊用具は坊っちゃん用の部屋に隠しております。御武運を』




 手紙でもうぜぇ。


 もっと他に伝える内容があったんじゃないのか……?


 余白の無駄だ。


 と思っていると、さらに下にこんな文章が存在していた。




『坊っちゃん、私が何とか出来たのはお二方を共に生活させることのみでして、公爵家と繋がりがあり特別クラスが適格であると学園側に話を通しておきましたが、ブレイブ家の坊っちゃんが特別クラスに入るには、試験を受けないといけません。試験は実力勝負ですのでご自身で頑張ってください』




 なるほど?


 アリシアが特別クラスのままだった場合、俺が一般クラスなのもおかしい話である。


 どんな試験があるのかわからないが、実力勝負ならば合格して見せるのがブレイブ家の血筋ってもんだ。


 

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