17.王都につきました
物語で特に名前も出てくることがなかったブレイブ領の隣の領地から汽車を使って真っすぐ王都エーテルへと辿り着いた。
駅でセバスと別れたのだが、不覚にも寂しいと思う気持ちが勝る。
この世界に生まれてきて、ずっとブレイブ家に仕えてくれていたセバスは両親を失ってしまった俺にとっての父親役のようなものだった。
使用人たちは家族である。
一生の別れではなく、長期休暇は実家に戻るつもりだったのだけど、心の隙間にスッと割り込むホームシック感には戸惑いを隠せない。
そう考えると単身でブレイブ家に来たアリシアは、俺よりもずっと大人びているように思えたりもした。
「へー、ここが王都か」
ゲームの知識によって王都エーテルがどんな都市なのかは知っていたのだが、イベントで用意されていた場所以外の詳細は全く知らない。
だから改めてこの目で見る王都はすごかった。
まず、魔術の大国であることを象徴するような超巨大なドーム状の障壁が目を惹きつける。
この障壁は国を興した賢者の傑作であり、長きに渡って王都を守り続けているのだ。
その平和と安寧を享受するために、超巨大なドームの中にこぞって人が集まるために王都は百万を超える人口を誇っている。
「明らかに人口密度おかしくない?」
城下町の建物は、全てが基本三階建て以上でありとにかく密集してたてられていた。
「だからみんな旅行好きなのよね」
俺の溢した言葉にアリシアが答える。
王都の人々は休日に旅行をすることが多い。
貴族もどこに行ったか自慢が多数あって鬱陶しいとアリシアから事前に聞いていた。
各地でイベントを展開する物語の都合上だと思っていたが、これだけ息苦しいとそんなもんか。
「貴族の住まう区域はまだ広々としてるけど、ブレイブ領に比べたらせまっ苦しくてたまらないわね」
「いや、ブレイブ領と比べるのはちょっと」
王都に来る途中、隣の領地を見たけどさ?
ブレイブ領は本当になんもないんだな、とわからせられた。
ちょっと悔しかった。
それにしても誰がこの都市の設定を作ったんだろうな?
とんでもないだろ。
いや、違うか?
一応、この世界は乙女ゲーの世界ではあるが歴然たる異世界。
貴族の住む場所やそこにある学園の規模を大きくしてしまったがために、こうして一般市民はドームの端に端にと追いやられてしまって、こんな都市様式ができたと予想する。
遥か昔から続く絶対安全が保障された障壁があるのならば、誰だってその中に住もうと思うし、こうなるだろうさ。
歪んでる、歪んでるよ!
絶対に破られない盾は諸外国から脅威に思われてしまうから、ガス抜きがてら共謀して戦争をするんだな?
相変らず色んな所にしわ寄せがある。
「でもまあ、飽きなさそうだ」
「それはそうかも知れないわね」
学園に通うことになるのは非常に面倒くさいものがあるのだが、こうした異世界の都市には憧れがあったのでワクワクしていた。
乙女ゲーの世界だってことを除けば異世界の都市なのだから、異世界美味しい物めぐりを是非ともしようじゃないか。
割と好きだよ、B級グルメみたいなの。
さっそくだが、学園に向かう馬車の窓から美味しそうな匂いを漂わせる屋台が見えている。
「串焼きか? 美味しそうだ」
できれば馬車を止めて買い食いしたいけど、馬車は止まってはくれないのだった。
「ブレイブ領の食事も十分美味しかったけど?」
「俺の食事ってさ、魔物が平気な顔して出てくるから」
「ああ、そうだったわね……」
本当に特殊な家系だよ。
強さの秘訣がそこにあるのかもしれないと真似する奴が居たりするのだがオススメはしない。
別に変らんからだ。
そして大して美味しくもない。
美味しかったらみんな食ってるもんな、魔物を!
ただ食える魔物を覚えておくと、食べることに抵抗をなくしておくと、戦に負けて山とか森とか魔物のいる場所に遁走した時、生き残る確率が高くなるのである。
いつの代からか知らないが、それで運良く生き延びてしまったブレイブ家の領主がいるんだとさ!
まったくはた迷惑な話だが、幼い頃にそれで救われたこともあったりするので続けている。
「あとダンジョンの授業も楽しみだなあ?」
何故かこの障壁ドームの中にもダンジョンが存在するんだ。
古の賢者の残した古代遺跡みたいな、そんなのが。
実践的な魔術を使う授業の際に、そのダンジョンが使われる。
主人公が窮地に陥って、そこに颯爽と攻略対象が現れて一緒に難関を乗り越えていくみたいなご都合ダンジョンだが、ダンジョンはダンジョンなので楽しみだ。
奇しくも、幼少期に思い描いていた夢が叶いそうで何より。
「ふふっ」
そんな童心に返る俺の様子を見て、アリシアは顔を綻ばせていた。
「楽しそうね」
「そりゃもう、一人じゃないしね?」
これから始まる学園生活がどうなるかなんて決まってる。
捨て地の貴族と婚約破棄された令嬢だぞ?
軽蔑されて当たり前なんだし、その覚悟はもうとっくの昔に決まっている。
当初は地獄かな、なんて思っていたが?
隣に座る元悪役令嬢は、とても素敵なただの美女だ。
誰がなんと悪口を言おうが、もはやどうでもいいのである。
俺たちは物語の端役に甘んじて、可能な限り主役たちと絡まないようにしながら好きなように学園生活を送るだけなのだ。
「面倒な奴が居たらすぐに俺に言ってよ? やっとくから?」
「手を上げるのは禁止。貴方は戦争を何度も生き延びて竜と引き分けるレベルなのよ?」
首輪をスッと目の前に掲げられたので、大人しくハウス。
いうことを聞いておきましょう。
面倒な生徒がいたら脅すくらいならこっそりやっておこうかなと思ったのだが、バレたら本当に首輪をつけられそうだ。
「ラグナ、貴方がいれば私は何を言われても平気だから」
「アリシア、多分君は僕より十分強いと思うよ?」
「ふふっ、さすがにそれはあり得ないから」
いや実際の腕っぷしというか、それ以外のすべてが、かな?
地獄に耐える心を持ってる人なんて、歴戦の兵士でも中々いない。
俺はそれをよく知っている。
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