夜が消えた日
藤泉都理
夜が消えた日
吸血鬼と狼人間は人魚に願った。
俺たちの中から夜を消してださい、と。
進化のおかげか。
吸血鬼も狼人間も太陽を克服して、朝も昼も活動できるようになった。
けれど、完全に克服したわけではない。
鬱々するんだ。
吸血鬼も狼人間も眉尻を下げて涙目で訴えた。
こんな明るい中でどうして動き回らなければならないか。
疑問を抱き、気が滅入るのだ。
「いや、そんなに嫌なら無理しなければいいだけの話ではないか?」
人魚は海から顔だけを出して、砂浜に立つ吸血鬼と狼人間に告げた。
昼間の今。
白い砂浜も青い海も日光を浴びてきらきらと輝いているが、吸血鬼も狼人間は日光の恩恵を撥ね返すように青白さを保っていた。
一日だけでいいんだ。
吸血鬼が言った。
そうたったの一日だけでいいんです。
狼人間が言った。
朝昼に活発的に動き回る生物のように過ごしたいのだ。
夜という概念を思考から消せば、自分たちを夜の生物ではなく朝昼の生物だと刷り込ませて、朝昼を優雅に過ごせる。
「頼む」
「お願いします」
「まあ。一日だけなら」
あまりにも必死であること、たった一日であることが人魚の背中を押した。
ちょっと待っておれと言い置き潜って家へと戻り、カンコンカンと大至急作り出すと、海面に戻り吸血鬼と狼人間へと昆布で作ったサングラスを放り投げた。
「それを掛けている間は夜を忘れられるが、装着したその日の日没には消滅する。そなたたちの要望通り、一日だけ。いいな」
「「お代は?」」
「朝昼を優雅に過ごせた証拠の品を持ってくればいい」
「ありがとな!」
「ありがとうございます!」
吸血鬼と狼人間は深く頭を下げると、早速明日使うと力なく笑った。
存分に楽しんで来い。
人魚は微笑んで見送ったのだ。
「で?」
「あれしようこれしようと考えてたんだけどな!お日様を存分に楽しめるのはこれだって思ってな!めっちゃ楽しんだ!」
「それはよかった。で?」
「はい!これが朝昼を優雅に過ごせた証拠の品です!」
人魚は吸血鬼と狼人間が嬉々として抱える証拠の品を見た。凝視した。
「布団だな」
「おう!布団だ!」
「何ものも遮ることのない明るい日光の下、春の植物に囲まれる中、布団を広げて朝寝昼寝を存分に楽しみました!」
「あ、ああ。そう。まあ」
昼間だというのに、一昨日とは打って変わって溌溂としている吸血鬼と狼人間を見て、まあよかったなと微笑みつつ、布団は持って帰れと告げた。
ふかふかして気持ちよさそうだと思いながら。
夜が消えた日 藤泉都理 @fujitori
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