第二章 海、現実を知る

第6話

これまでのあらすじ。

校外学習に来ただけなのに大人気漫画の世界に転移してしまった。


「はぁ!?なんでお前「怪異奇談」読んでねぇんだよ!」


「いや、読もうがなんだろうが個人の勝手でしょ」


やっぱり好きな漫画の世界に転移してしまったからだろうか。

大して親しくない私でも分かるくらいには阿川のテンションがおかしい。

いや、普段から結構おかしい奴なのだが、いつにも増してテンションが高い気がする。


「で?正直「怪異奇談」って主人公の名前とあらすじくらいしか知らないんだけど詳しくはどういう話なの?」


隣にやたらテンションが高い奴がいるせいか、自分が冷静になっているのが分かった。

こうなればまずは情報収集だ。

阿川は咳払いをすると、漫画について語り始めた。


「まずこの世界には「怪異」とかいう化け物が存在する。「怪異」は基本こっちから干渉しない限り無害なんだが、この話のラスボスに操られてる「怪異」は人を殺すんだ。で、普通の「怪異」の父親と人間の母親の間に生まれた主人公の不知火天海がラスボスに操られて行方不明になった父親を捜して元に戻すっつーのが大まかな流れ」


「成程ね」


つまり、さっきの蝶の化け物は操られた「怪異」なのか。

怪異にも種類なんてあるんだな〜と思ったところで私の中のオタクの勘が冴え渡る。


あの化け物は天海が一人でどうにか出来るような雰囲気じゃなかった。

おそらく覚醒するか誰かが助けに来るか、そんなところ。

ここから導き出される答えはただ一つ。


「ねえ、阿川。漫画に黒い蝶の敵……とか出てきたりしなかった?」


恐る恐る阿川に聞いてみる。

そして、予想というのは的中してほしくない時ほど的中するものなのだ。

私の言葉に阿川は目を輝かせた。


「ああ、出てくる出てくる!ヒロインのはなが出てくるところだろ?なんだ、お前ちょっとは知ってんじゃん」


やってしまったぁぁぁぁぁぁぁ!

何も分かってない様子の阿川とは対照的に私は俯いて冷や汗をダラダラと垂らす。


ま、まさか主人公とヒロインの出会いイベントを邪魔してしまっていたとは……!

これは物語に影響を与えかねない、というか絶対与えてる!大問題じゃないか!


ヒロインの外見は主人公とくっつくのかくっつかないかでネットで話題になってたからなんとなく分かる。

確か、気弱そうな茶髪ツインテだったはず。

これは、私が責任をもって二人を引き合せるべきなのでは……?


私が一人で悩んでいれば、先程の白衣を着た女の人が部屋の中に入って来た。

さっきは慌てていたため流してしまったが、この人は多分メインキャラなんじゃないかと思う。

なんてったって面がいい。

黒髪ロングの和風美人でお嬢様って感じ。


「貴女も怪我をしていたけれど、大丈夫?」


「大丈夫です。大した傷じゃないんで」


あっけらかんに答える私を女の人は不安そうな目で見つめてくる。

そんな目で見つめないで欲しい。なんか申し訳なくなってくるから。

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