第5話
「つ、ついた……」
ファンタジー展開とか怪異とかいろいろありつつも、なんとか屋敷のような建物に到着することが出来た。
にしても、本当に立派だな。武家屋敷っていうか、歴史の教科書に出てきそう。
建物をしみじみと見ていれば、天海が右側の方を指さした。
「あっちの方に玄関があるから」
「はーい」
さっきの怪異のせいで本格的に動けなくなった天海を支えながら玄関の方まで歩く。
玄関の扉は教室の扉のようにスライドさせるタイプで、今では珍しい。
「入っていいよ」
天海にそう言われ、私は建物の中に入った。
昔ながらの家にありがちの長い廊下が続いていて、電気がついていないのか薄暗い。
スニーカーを脱いで屋敷に上がれば、玄関に近い部屋の扉が開きぬっと誰かが出てきた。
その人物は私の顔を見るとこちらからも分かるくらい目を丸くした。
「姫宮!」
「阿川!?」
私は思わずその人物の名前を叫んだ。
茶髪の天然パーマに猫目が特徴的な超絶面ど……負けず嫌い男。
間違いない、コイツは同じグループで行動していたクラスメイトの阿川だ!
「おまっ、無事だったのかよ!つか、ソイツって……」
こちらに近寄ってきて私の肩を強く叩いた後、阿川は天海に視線を移し、息を呑む。
腫れた足や流れている血を確認し顔を歪めると、奥の方から白衣を着た女の人を連れて来てくれた。
そして、天海は治療のために奥の部屋へと運ばれ現在進行形で治療を受けている。
長い間出血が続いたせいで思った以上に天海の状態は悪いらしい。
「姫宮、お前はこの状況についてどう思う?」
軽傷のため自分で消毒をしていれば阿川が突然そんなことを言い出した。
私は瞬きを繰り返す。
「え、どういう意図の質問?まあ、普通に考えて有り得ない状況なのは確かだけど」
「だよなぁ」
一人でうんうん唸りながら首を捻る阿川。
私はその姿を不審に思いながら救急箱を元の場所へと戻した。
天海とはついさっき出会ったばかりの関係ではあるけど、いろいろあったせいで割と仲良くなったし……無事だといいけど。
生死こそ関わってなさそうとはいえ、心配なものは心配だ。
「天海大丈夫かなぁ」
「平気だろ。主人公だしな」
「そうだ…………………………は?」
阿川の発言に私は間抜けな声を上げる。
ちょっと待って、主人公?え、なんの話?
しかし、私以上に衝撃を受けているのは阿川の方だった。
「は!?お前今まで気づかなかったのかよ!ここは「怪異奇談」の世界でさっきまでお前が一緒にいたのは主人公の不知火天海だぞ!」
「怪異奇談」「不知火天海」。
その単語は私も聞いたことあった。
今人気の和風バトル漫画とその漫画の主人公だ。
私は別の漫画にハマっててあらすじくらいしか分からないけど、阿川は読んでたはず。
夢かもしれないし信じられないけど……。
「少年漫画の世界だったんかい!」
どうりで化け物が出てくるわけだ!
どうりで天海に見覚えがあるわけだ!
異世界転移とか信じてないけど、起きちゃってるならもう信じるしかないのか……?
「そうだよ!……で、どうする?」
「そんなのこっちが知りたいわ!」
私は阿川に向かってそう叫ぶのだった。
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