第4話

「ちょ、何言ってんの!?」


「それ普通のもんでも特別な攻撃に出来るんでしょ!?」


「そりゃ、そうだけど!素人がやるには危険なんだよ!」


確かに使い方を知らない私が使うのは危険かもしれない。

とはいえ、それは天海が護符を使ってくれればいいだけなわけで。


「じゃあ、これに護符貼っつけて攻撃出来るようにして!もう足も限界なんじゃないの!?」


図星だったのだろう。

言葉に詰まった天海は仕方なくという風に私がナップザックから取り出した物に護符を貼り付ける。


「本当に気をつけてよ……護符・付与」


その瞬間、大きな音はないもののお馴染みとなった赤い光にその場が包まれる。

私たちだけでなく蝶までも眩しそうに追いかけて来るのを辞めた。

待ってました、この時を!


とはいえ、本当に成功するかは分からない。

なんかヤバい化け物みたいだし、失敗したらどうなるかは目に見えてる。

それでも、震える手足を無理矢理動かす。


すぐに体勢を整え、噴射口を蝶の方へと向けた。

光が落ち着いて狙いが定まる。

怖くないわけが無い。でも、やらなきゃ死ぬだけだ。

蝶といえば虫!虫といえばこれ!


「くらえっ、殺虫剤!」


勢いそのままに蝶に護符の効果付き殺虫剤を噴射する。

護符のおかげか信じられないくらい強力になった殺虫剤は見事に蝶にヒットした。

本当に効果があるのかどうか、また追いかけて来るんじゃないかと心臓が忙しく動く。

しかしその心配は杞憂に終わり、怪異とかいう蝶の化け物はみるみるうちに消えていった。


あ、終わった……。

安堵から力が抜け、ペタリとその場に力無くしゃがみこむ。

途中から恐怖よりも焦りとか緊張の方が先行してたけど、やっぱり怖いものは怖かったらしい。

まだ手と足が震えている。


「すご……何それ」


天海はまじまじと私が手に持っている殺虫剤を見つめた。

何それも何も普通に殺虫剤なんですけど……。


「科学の力です」


適当に答えれば天海は数回瞬きし、首を傾げた。

ちなみになんで殺虫剤なんか持っているのかと言うと、グループ活動で同じグループの男子が物凄い潔癖症なところから話は始まる。

当然虫は苦手というか、大嫌いでゴキブリとかが出た時ようにいつも持ち歩いているのだが、流石に重そうだったので一個代わりに持っていた結果たまたま役に立ったという訳だ。


「ところでさ、その護符で天海の怪我はどうにかならないの?」


「無理。人間には効かないようになってるから」


即答だった。

あーあ、使えたら便利だったのになぁ。そんな都合のいい話なんてないか……。


「はあ、取り敢えず早く山を下りますか。無理に走ったせいで天海の怪我も悪化してそうだし」


「確かに悪化してるかも」


天海は自分の信じられないくらいに腫れた足首に視線を向ける。

それ骨折れてるんじゃないの??

私は天海の足を心配しつつも、屋敷に向かって歩き始めた。


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