第3話

背筋が凍って鳥肌が立つ感じ。

明らかに嫌な予感しかしない自分の身体の異変に私はその場で立ち止まった。

隣では天海が後ろにいる「何か」を確認し、表情を険しくさせる。


「星羅……先に言っとくけど」


「うん」


冷や汗が頬を伝い、ポツリと零れ落ちる。

こんな風に涙みたいに冷や汗を流したのは初めてだった。

天海はギギギッという効果音が鳴りそうなくらいぎこちなくこちらを向く。


「これ、生きて帰れるか分からないから」


……………………もう、嫌だ。

死刑宣告とかやめてほしいんだけど。


後ろを見るのはすごく恐い。多分、生理的に受け付けてない。

でも見ないと何も出来ない。

逃げることも抵抗することも。


ゆっくりと深呼吸をし、思い切って私は振り向いた。

そして、それと目が合う。


「……」


本当に恐ろしいことが起きると人間は言葉を失うと言うが、どうやらそれは本当らしい。

そこにいたのは真っ黒な4メートル以上もある蝶だった。

こうなってくると蝶もただの化け物だ。


「天海、何コイツ」


隣にそう問かければ、ジリジリと後ろに下がりながら天海は早口で答える。


「怪異。簡単に言うと、人間を殺すことで生きてるヤバい化け物」


「うん、取り敢えず逃げようか」


私と天海は顔を見合わせると、全速力でその場から走り出した。

とはいえ、片方は一人でまともに歩けないような重傷者。当然、速く走れるわけもなく。


「なんかアイツ追ってきてるんだけど!?」


「当たり前でしょ、人間殺すような奴らなんだから!」


走っても走っても蝶との距離は詰まっていく。

マジで死ぬ!もう死ぬ……!

もっと長生きしたい人生だったぁーーー!

ついには蝶が後方数メートルまでやってきて死を覚悟した、その瞬間。


「護符・爆破!」


天海のそんな声が響き、周りが赤い光に覆われる。

そして聞こえてくる派手な爆発音。

これって、さっきのと同じやつ!?


「星羅、走って!悪いけど僕今強い攻撃出せないから逃げるしかない!」


「ちょ、何あれ、攻撃!?」


「そう!でも、多分あんまり効いてないから!」


堂々と言うことなのか、それは。

でも、天海がなんでこんなことになってるのか分かった気がする。

怪我、赤い光、大きな音。


ずっと逃げ回るには体力が持たないし、何も知らない私が敵う相手じゃないのは分かってる。

それでも、解決策を見つけなければこの状況は打開出来ない。


「天海!その攻撃って他になんか使い道ないの!?」


「これ!?これは純粋な攻撃だけじゃなくて攻撃力を上げるのとかも出来るけど……」


攻撃力を上げるのはそもそも攻撃出来る物がないと意味無い。

攻撃出来る物なんて何かあったかな。

頭を必死でフル回転させていたその時、横に黒い粉のような物が降ってきたことに気がついた。

そして、その粉が落ちた所の植物がみるみるうちに枯れていった。

今、人生で一番命の危機を感じているかもしれない。


「ほ、他に何か効果とかないの!?」


恐怖から私は声を張り上げる。


「あと、アイツら───怪異は特別な攻撃じゃないと効かないんだけど、この護符っていうのを使えば普通の武器でも特別な攻撃が使えるようになるん、だけど!」


噛み砕いて説明してくれる天海の足に限界が近づいてきたのか、もつれそうになっている。

本当に早くどうにかしないとヤバい。

私は背負っているナップザックを前に持ってくると、手を突っ込んで何かないか探し始める。


何か役に立ちそうな物、役に立ちそうな物出てこい!

そう願いながら手を突っ込んでいればふとひんやりとした物が手に当たった。

これは、まさか。


「!この手があったか……天海、その護符頂戴」


「は!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る