第2話
その少年はどこかで見たことのあるような顔をしていた。
泥で汚れた真っ黒な髪におそらく透き通るように白かったであろう肌。
目は閉ざされていて、全身傷だらけだ。
そして、服装も変わっている。
七五三とか成人式でしか見ないような和服だ。
こんな山の中で何してるんだろ。
ただ一つ分かるのは、私よりも重症であるということだけだ。
生きてるのは分かるし、そこまで酷い出血もないけど、私とは傷の数が段違いに多い。
見捨てる訳にも、いかないよなぁ。
どうしようかと悩んでいれば、少年の指がぴくりと動いた。
「大丈夫で……」
「う、うわぁぁぁ!」
大丈夫ですか。
そう言い終わる前に少年は顔を上げると叫び出した。
予想以上に大きい叫び声に私は思わず耳を塞ぐ。
うーるーさーいー。
少年は叫んだ後に正気に戻ったのか、ぴたりと動きを止めてこちらを驚いたように見てきた。
「怪異……じゃない?あ、すみません。突然大声出して」
かといって突然スンとするのもやめてほしい。
さっきとは一転してすっかり落ち着いた少年は一度起き上がってその場に座った。
「いえ、平気です。取り敢えず大丈夫ですか?」
「はい。ちょっと訳あって倒れてたんですけど、大丈夫です」
それは大丈夫とは言わない。
訳あって倒れてたって何……?
「じゃあ、僕は急いでるのでこれで」
「え、ちょ、」
何があったんだ、この人。
少年は立ち上がったが、産まれたての子鹿のようにぷるぷると震えていた。
そりゃ、そうでしょ!
足完全に怪我してますもんね!
見てられなくなり、私は少年の横に並ぶ。
「肩貸すんで、掴まってください」
「ご心配なく」
「それで転けてたらどうするんですか」
少年も自分の危なっかしい状況を察したのか、少し黙り込む。
そして、私の肩に腕を回した。
「で、どこ行くんですか?」
そう聞けば、少年が指さしたのは山の麓の屋敷だった。
これは私からしてみてもちょうどいい。
「あの、なんでこんな所にいるんですか?」
暫くして、ふと問いかけてきた少年に私は瞬きを繰り返す。
困った。自分でもよく分かってないんだな、これが。
「それが自分でも分かってなくてですね……」
「え?」
不思議そうに首を傾げる少年に私はハハッと乾いた笑い声をあげる。
折角なのでここに来た経緯と話の延長線で自己紹介をしておいた。
「へー、星羅ね。僕は
「天海ね、よろしく」
あまり人の名前を覚えるのが得意では無いので何回か名前を繰り返す。
それにしたって、どこかで聞き覚えのある名前だ。どこで聞いたかは全く覚えてないけど。
「うん、よろしく。ところで星羅、どうやって来たのか覚えてないって言ってたけど、それ本当に大丈夫なの?」
「大丈夫、多分」
「全然大丈夫に見えないんだけど……」
心配そうな顔の天海に私は現実逃避をしたくなる。
なんとか落ち着いて行動出来てるけど、麓に見える屋敷と天海がいなかったら駄目だったかもしれない。
一緒にグループ行動してたはずの班員も誰もいないし……。
「何はともあれ、早く下山しよう。ここに長時間いるのも危ないし」
「危ない?」
危ないって何が?
天海の言葉に眉をひそめていれば、少し離れた場所から何か大きめの物音が聞こえてきた。
これ、何の音?自然の音とは思えないんだけど。
「……うわ、来ちゃった」
突然立ち止まった天海の顔が強ばる。
なんだろう、すっごく嫌な予感がする。
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