十八 討伐ギルドとランクについて
紫色の目をゆるりと細めると、スティーブンは呼吸を落ち着けるように大きく息を吸い込んだ。春斗の様子が余程ツボに入ったらしい。全く解せないが、現状彼から説明を受けるしかない春斗は待つしかない。
「いやー、無自覚な強者ほどイヤなヤツっていないですわ。ああ、もちろん嫌味じゃないですよ?」
「俺と貴方は初対面だと思ったが」
「そりゃーお前、めちゃくちゃ噂になってるんだ、しらねえって方がおかしいだろ。それにルイスのヤツが認めたと来りゃ、僕が知らないのも問題があるし」
ルイスはそこそこ有名人らしい。確かにブラックスキンベアーの時も、春斗が星見の草原に繰り出すのは反対されてもルイスが行くのはそこまで騒がれていなかった。
『羊の崖』でも、なんだかんだで色々と直接絡んできたのもルイスだったはずだ。そう考えると、彼は思っていたよりもすごい人間なのかもしれない。
「……もしかして、ルイスのことほぼ知らない?」
「実力に関しては多少。それ以外は知らん」
「あ、なるほどね。ルイスはうちの所属で、ランクはシルバーの一。討伐ギルド員のランクの内訳って知って……なさそうだな」
春斗は申し訳なさそうに縮こまった。こればかりは事前知識無しで放り込んだ超常存在に文句を言うしかない。それであることを望んだ春斗が言えた話ではないな、と直後に思い出しポラールにそっと内心で詫びを入れた。
とはいえ「異世界からやってきたのでそんなもの知りません」とのたまうわけにもいかない。
「あまり人里に近寄らなかったもので」
苦し紛れに小さく言い訳を口にすれば、スティーブンはげらげらと隠しもせずに大笑いした。おもしろいわー、と息を整えながらこぼされて、春斗は何も言えなかった。
その場でついたギリギリ嘘ではない言葉に頭が痛む。嘘ではない。確かに以前の記憶では、春斗は人の賑わう街を避けて活動していた。魔法使いなどという胡散臭いの権化のような職業であれば仕方ない話である。
「ったく、本当なに考えてるかわかんねえな、魔法使いってのは」
春斗は一瞬眉を寄せたが、すぐに表情を整える。
魔法使い、という存在は当たり前に受け入れられるものの、あまりいい印象は持たれていないらしい。
ルイスの言葉、春乃の忠告、そしてスティーブンの先の発言。
スティーブンの言葉に悪意は感じない。面白いヤツだ、という意図は読み取れるが、それ以外の意図は含まれていないように思えた。
とはいえこういった発言が出てくると言うことは、一般に魔法使いや精霊術士はあまり第一印象がよろしくないらしい。
高慢なのか、厄介なのか。おそらくは前者だろう。春斗は元いた世界も似たようなものだったなと思い出して、つい辟易とした顔をした。
「ひっひっひっ、悪かったって。それで、何だったか」
「ランクの内訳の話だ」
「ああ、そうだった。一番多いのはアイアン。ギルド員の半数を占める。で、残り半分の内、だいたい三分の一程度占めてんのがブロンズ。残り三分の二がシルバー、ゴールド。シルバー・ゴールドは数はとんとんになるように調整してるな」
プラチナは、と思ったが話はまだ続くだろうと口を閉じる。
それにしても思っていたよりもアイアンランクの人間は多いらしい。この話を聞く限り、ブロンズランクと言うだけでもそれなりに信用はされそうだ。もちろん、各ランクの後につく数字にも依るだろうが。
シルバーとゴールドがおおよそ同数になるようにしていると言うことは、ブロンズが上位ランクと同数なのはたまたまと言うことになりそうだ。
「プラチナは……まあ、めったにいねえな。人数を調整してるのもあるが、条件がな」
「条件?」
「『誰でもいいからギルドマスターに勝利すること』『単騎でダンジョンを一つ攻略すること』『単騎で特別指定凶悪魔物を討伐すること』、いずれか二つを満たせば誰でもプラチナランクだ。最悪でしょー、これ。考えたヤツは絶対戦闘狂だね」
つまりギルドマスターは全員強者らしい。春斗はようやく確信を持てた事実に少し安堵する。
ダンジョン攻略と特別指定凶悪魔物がどれほど凶悪なそれなのかは知らないが、口ぶりからすると相当に難しい条件らしい。
実質的な最高ランクはゴールドということになりそうだ。
「ついでに言うと、一番死亡率が高いのがブロンズ。一応、アイアンですこーし実績を積めばブロンズになれんだけど、そこで調子乗って死ぬヤツが多いんだよね」
「随分と他人事な……というか、アイアンでは死亡リスクはないのか」
「ないわけじゃないが、低い。討伐系の依頼ができるようになるのはブロンズからなんでね。アイアンはブロンズ以上のメンバーのお手伝いしかできねーの」
つまりアイアンランクの人間は守られる立場なのだろう。
おためし期間、適性の判断期間、色々と推測を並び立てて、そんなものだろうなと頷いた。『討伐ギルド』なんて聞くだけで物騒かつ危なそうなギルド、お試し期間がなければ人を集めるのも難しいのだろう。
「もっと言えば、僕らだってブロンズの死亡率は気にしてるんだぜ?改善策を立てても一向に改善しねーんですけど。ブロンズは単独行動禁止とか、パーティーに必ずブロンズの四以上の人間を入れろとか、色々ね」
スティーブンは頬杖をついてやれやれといった様子で口にした。
話を聞く限り合理的だし、安全性を高めるための方策はきちんと練っているらしい。アイアンの依頼の話を聞くと、きちんと依頼の難易度に応じてランク制限はかけているのだから、確かにさじを投げたような様子になるのもおかしくないのかもしれない。
「シルバー以上ってすると人手がな……ブロンズの五までくりゃあまあシルバーまで上がれるヤツがほとんどだけど、そこを緩和するわけにもいかねーし――と、ここまでくるとただの愚痴だな!」
管理職の悩みは世界共通なんだなあ、と春斗はそっと内心で哀れみを覚えていた。できればその手の悩みとは無縁のところで生きていたいものである。
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